Vol.04-4 音楽の仕事風景(1)保科隆之さん/加藤千晶さん
子どもの頃からピアノを習ってきた経験を生かし、音楽の仕事に携わっている方々をご紹介。
今回は東京音楽大学出身のお二人に、話を聞きました。 |
フィリアホール・ コンサート企画制作 保科隆之さん
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東京音楽大学 ピアノ科事務助手 加藤千晶さん
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Hoshina takayuki
1979年生まれ。6歳からピアノを始め、筑波大学付属駒場中学・高校を経て東京音楽大学ピアノ演奏家コース卒業。フィリアホールの貸館業務サポートを経て、現在企画制作担当。
東京・渋谷駅から東急田園都市線で25分ほどの、クラシック音楽に最適な音質を誇る「フィリアホール」(500席)。ここで年間30以上の公演の企画制作を担当しているのが、東京音楽大学ピアノ演奏家コース出身の保科隆之さん。企画立案から演奏者を選び、マネジメントとの交渉、チラシの作成など、コンサートにかかわるすべての業務を1人で担当している。
高2から本格的なピアノの練習を開始
「ピアノは小学校に上がる直前に何かおけいこごとをという両親の勧めで始めました。やはりピアノが好きだったんでしょうね、進学校の筑波大学付属駒場中学・高校と進んでも、近くの教室で好きな曲だけを弾いていましたが、進路を決める高2の時には学校の勉強の方はまったくダレてしまい、他に何か自分にできることはないかと...。そこで初めてピアノの道に進もうと決め、音大の先生のレッスンを受け始めました。
先生のレッスンはカルチャーショックでしたね。それまで、教室の中では自分は上手い方だと思っていたので、自分のテクニックが全然できていないことが判って愕然としました。もう劣等感のかたまりでしたよ。」
ここからが保科さんのすごいところ。初めて『ハノン』にも取り組み、メカニックな練習に明け暮れ、一浪の末、東京音大ピアノ科に見事合格。そして卒業後は何かピアノ関係の仕事で食べていけたらいいなというくらいの気持ちでいたとき、アルバイト先でまた保科さんは転機を迎える。
きっかけはチケットカウンターでのアルバイト
大学2年生のときに始めたフィリアホール・チケットカウンターでのアルバイトがきっかけとなり、卒業と同時に社員に。新人を採用することはほとんどないホールの業界では稀なケースだ。
「学生時代より、コンサートに行く回数は増えましたね。ピアノ以外のコンサートにもよく行きます。やはり自分の耳で聴いて、自分自身が良いと思える音楽をフィリアホールのお客様にも聴いていただきたいですから。」
仕事風景1
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企画立案中:とはいっても、演奏家たちとテーマを何にしようか、どういうないようにしようか、とあれこれ雑談のような中から良い企画も生まれることが多い。 |
仕事風景2 |
リハーサル中の「ステージ袖で」:この日はNHKの収録が入ったので、事前のステージチェックは入念に。その間、マネージャーとしばしの談笑。 |
仕事風景3 |
コンサートの会場直前のロビー:開場30分前にはレセプショニストたちと最後の打ち合わせ。 |
出会った人とのつながりを大切に
ピアノが好きでずっと弾いてきたことが、結果として今のホールの仕事につながっていることが驚きです。いつも成り行きに任せているようですが、その時々の出会った方々とのつながりを大切にしてきたことが、良かったのでしょう。出会う人すべてが自分を成長させてくれるという謙虚さを持つことが大事だと思います。
企画制作の業務を任されてからまだ日は浅く、大変なことも沢山ありますが、これからもお客様により充実した内容のコンサートを提供していけるように、力を尽くしていきたいです。
Hoshina takayuki
1979年生まれ。3歳からピアノを始め、神奈川県立小田原高校卒業後、東京音楽大学作曲科卒業、同大大学院作曲専攻修了。母校の小田原高校非常勤講師を経て、東京音大でピアノ科事務助手を務めながら、作曲家、編曲家、ピアニストとしても活躍中。
「音大ピアノ科事務助手」。ちょっと聞き慣れない肩書きだが、それもそのはず、東京音大では加藤さんが初の担当者。ピアノを教える助手ではなく、ピアノ科全体の事務からピアノ科公開講座のコーディネートなどの幅広い仕事なので、外国人にはセクレタリー(秘書)と自己紹介するそうだ。
4歳で映画に触発され、「将来、音楽する人になりたい」
「3歳のとき近くの音楽教室でピアノを始めましたが、4歳のとき映画『E.T.』を見てその音楽にとても高揚感を覚え、サントラのレコードを買ってもらって、そのころから『将来はこういう音楽する人になりたい』と思っていました。中1からピアノに加えて作曲も専門の先生について勉強し始め、高校は普通科に進んだのですが部活の代わりに個人的に音楽全般の勉強、ソルフェージュや和声などを続けていました。そして東京音大作曲科に入学。
音大に入ったということが、私にとっては大きな転換期でした。当時の作曲科には、他の大学を卒業してから作曲の勉強を始めた人や、いったん働いてお金を貯めてから音大に入学した人など、いろいろな人がいるんです。その環境のなかで、私は初めて、自分が主体となって自由にやれる、やってもいいんだと思えました。」
事務助手のおもな仕事は、公開講座のコーディネーター
「今携わっている事務助手としての仕事の一つに、ピアノ科の選択授業に含まれる公開講座の運営があります。年間30~40回開催されるのですが、学外の人にも公開されていて毎回大勢の方が受講されます。その資料をつくったり、セミナー講師とのやりとりをしたり、ということが仕事でしょうか。事前に漏れのないように準備するのは大変ですが、色々な人に会えるのが楽しいですね」
東京音大に勤務する傍ら、作曲や編曲の創作活動でも活躍の領域を広げている。
音楽は感動します。
はっとさせられる瞬間は音楽の響きだけでなく、分かち合う人やその空間にもあって、私はそのたびに満ち足りたり謙虚になったりします。 もちろん、楽しい嬉しいばかりであるはずはなく、理想と離れたこと、受け入れがたい現実に直面することも少なくありません。 ただ、言葉を話すのと同じように、音楽というもうひとつの表現手段を手に入れ、笑ったり泣いたりしながら、どうやって理想に近づいていこうかと日々過ごすことそのものが、代え難い幸せなのかもしれません。仕事風景1
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事務室:東京音大は今年創立100周年を迎えた。3月に完成した100周年記念校舎にある事務室のカウンターは広々としている。 |
仕事風景2 |
レコーディングルームで:事務助手をする傍ら、作曲や編曲の仕事もこなす。楽譜の浄書作業や、音源製作ではパソコンを使って編集される。 |
仕事風景3 |
講座の開かれるJホールで:自分自信がピアノをよく弾けてしまうと、指のくせや弾きやすさで作曲してしまうこともあるので、その意味ではちょっと不都合だとか。 |
Vol.4 INDEX
2007年6月30日発行 |
<天才>を育てた母親の4つの理念 一緒に練習することが楽しくなるように、子どもに話をしてあげる 五嶋 節さん |
教育の未来を考える(2) 専門家との出会いが子どもたちの夢や進路を拡げる 小正 和彦先生 |
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ピアノの誌上レクチャー(1) ピアノはどこで音が鳴っている? 武内 順一さん |
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音楽の仕事風景(1) 東京音楽大学(事務助手)加藤 千晶さん フィリアホール(企画制作)保科 隆之さん |
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「私のちいさなピアニスト」映画評論 寺脇 研さん |
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ピアノ教養クイズ(2) 「名画と同時代の音楽様式」編 |