Vol.06-3 ピアノ教室からのMessage(1)石黒加須美先生
私の母は小学校の先生を36年間勤め、その間から講演や執筆活動をして現在にいたっています。そのいくつかの文の中に私の事を書いているものがあります。母は学校を退職してから私の次女が生まれ保育園に入るまでの約3年間、私がピアノの勉強が出来るようにと、週に2日ほど孫の面倒を見るために通ってきてくれていました。そのころを思い出して母が書いた、数年程前の小学校の教育誌に載せられた記事です。
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「ばあちゃん、大きい公園に行こうよ。」わたしは、三歳の孫に手を弾かれて、重い腰をあげる。娘の家の隣にも遊具のそろった小さい公園はある。しかし、孫が家から遠い方の大きい公園に行きたがるのはわけがある。公園へ行く途中の駅前に、ぎっしり並べられているバイクの後ろについているナンバープレートのなかに書かれた文字や数字に、この間から興味をもったからである。孫のおもちゃに書いてある「いしぐろゆみ」という名前と同じ字がバイクのナンバープレートに書いてあるというのだ。初めは、「ばあちゃん、赤いバイクにいしぐろの<い>が書いてあるよ。ほら!」というので、「みゆちゃんすごい。よく見つけたね。」と誉めた。すると、孫は、「あった、<し>と書いた青いバイクが...。」と叫んだ。見るとそこには間違いなく<し>の文字が書いてある。こうして自分の名前のナンバープレートを見つけて帰った孫は、娘にも誉められ、ほんとうにはればれとした得意顔であった。 あるときベランダで、洗濯ものを干していたわたしは、「みゆちゃん、かわいい虫がいるよ。見てごらん。」と誘った。直ぐに「あ、これ、ゴマダラカミキリだよ。」というので、びっくりしていると、「じいちゃんにもらった図鑑についているよ。ほら、これ...。」と見せるので、二度びっくりした。わたしは、「ばあちゃんは、知らなかったのに、みゆちゃんすごい。」と手をたたいて誉めた。 私の娘もピアノ教室という仕事を持っており、子育てだけに専心できる母親ではない。だからといって、テレビにお守りをさせるようなことは絶対にしたくないといろいろ心を砕いていた。 人間である親が子どもを育てるということは、子どもに人間としての情を育てることである。それは、こどもがひとり立ちするまでの一大事業であり、親の生きざまそのものだといっても過言ではない。ところが、多様な情報社会のなかで、毎日あくせく生きている親は、「早く、早く。」とか「こうしなさい。」というようなことばしか掛けてやれないことが多いと反省している人が多い。子どもの動作は鈍く、早いことはよいことだのようなせ生活のなかでは、見ていてイライラさせられることの多いのも現実である。しかし、ここで親は「早く、早く...。」や「いけません。」という督促や禁句のかわりに、「もうちょっとだね。」「がんばろうね。」というような子どもの自立を促すことばや励ましのことばをかけてやることのできる心の豊かさ、いとしいものへのあたたかさを持ちたいものである。 |
Vol.6 INDEX
2008年3月31日発行 |
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ピアノ学習Q&A(1) ピアノを学ぶ意欲を高め、 維持させるには? 藤崎雄三(リンクアンド・モチベーション) |
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ピアノ教室からのMessage(1) 「ひとり学び」の種をまく ~親は「ひとり学び」の仕掛け人~ 石黒加須美(かすみピアノスクール主宰) |
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Let's Try! バロック音楽のステージへ 「目白バロック音楽祭」&「目白バロック」ステップ |