ピアノステージ

Vol.02-2 ステージが育てる不思議な力(2)ジェーン・バスティン先生

2006/11/30
ジェーン・バスティン先生 ジェーン・バスティン先生

朝六時半からレッスンを始め、週に六十人を教えるジェーン・バスティンが、新しい曲を書く動機はどこからくるのか、聞いてみた。「年少の生徒が一気に増えたので、最初のリサイタルで弾かせる曲が足りなくなってしまったの!」だそうだ。
多くのステージ経験と、音楽を分かち合う喜びを、すべての生徒に与えたいという想い。これこそ、世界各国で翻訳され、400冊以上にも及ぶバスティン・メソッドの原点なのである。

毎週のように行われるミニ・リサイタル

サンディエゴのジェーン・バスティンから近況を知らせるメールをいただいた。
「先週のハロウィーン・リサイタル、老人ホーム訪問コンサートに続けて、今週はソナチネ・リサイタルを開きます。その冒頭に、習い始めて一年目の生徒たちも参加できるコーナーを作ったのよ。」
リサイタルが週に2~3回のペース、というのは決してまれではない。といっても、それは自宅のサロンで行われるホーム・コンサートである。家族や友達が見に来れるよう、平日の夜に一時間以内で済ませ、終了後に会話と軽食を楽しむ。
本格的なステージではないが、生徒たちにとっては毎回が度胸と力量をつける絶好の機会だ。楽屋や舞台袖があるわけではない。生徒たちは、自分の番が来ると客席から登場する。その前後は、友達や上級生、下級生の演奏に耳を傾け、応援する。
すべての演奏を、ノートを持ってじっと見守るジェーン・バスティン。演奏が終わるごとに、自ら率先して満面の笑顔と大きな拍手を、舞台の上の子どもへ送る。

一方、例えば月曜日のリサイタルでうまくいかなかった生徒を、火曜日の別グループによるリサイタルに呼び、再度弾かせる、ということもある。ここには、失敗した経験をひきずらないように、という瞬時の判断が働いているのである。
この教室のリサイタルは、演奏だけが目的ではない。「ちゃんと拍手をしましょう!」「女の子は弾く時に、髪の毛が目にかからないようにしてね。」グループレッスンでは、導入の時期から、弾き合いをさせ、鑑賞の態度やステージマナー、を学ばせる。
お互いの演奏に評価のコメントを書かせ、発表させたりもする。自分の出演がすべてなのではなく、友達の演奏を尊重し、そこから何かを学び取る意識を育てている。

ピアノを弾いてる時間だけでなく

リサイタルは、コンクールや州の音楽検定のリハーサルを兼ねる一方で、ハロウィーンやクリスマスなどのアメリカの国民的行事にあわせて催され、家族で楽しむイベントでもある。
「このリサイタルで演奏したら、300ドルをあげるわよ!」
300ドルといっても、バスティン教室発行の「ミュージック・マネー」であるが、子どもたちの目は一斉に輝く。1曲を仕上げる、本を1冊終える、リサイタルで演奏する、コンクールに入賞する・・・。 大小さまざまなゴールが、教室の日常のあらゆる場面に仕掛けられている。ジェーン・バスティンはひとつひとつのゴールを、親と子が手を取り合ってくぐり抜けてこられるよう、具体的にわかりやすく指示を出す。
「昨日の準決勝の試合はどうだった?」レッスンにやってきた生徒に、開口一番、学校の課外活動のテニスについて尋ねるジェーン・バスティン。「ピアノを弾いている生徒」だけでなく、その子の成長する姿全体を見守ろうとする彼女の情熱は、そのまま、レッスンやリサイタルを見学する親への強いメッセージとなっているのだ。

ジェーン・バスティン先生
ジェーン・バスティン

世界中の指導者の指針となり、今も新刊が出版され続けている、バスティン・メソッド。
ステファン大学・バーナード大学を卒業後、コロンビア大学で教鞭をとり、ピアニスト、テレビ番組のピアノ講座講師として活躍。その後、夫の故・ジェームズ氏とバスティン・メソッドを出版した。現在はカリフォルニアにピアノ教室を開設するかたわら、リサ・バスティン(長女)、ローリー・バスティン(次女)と共に旺盛な作曲生活を続けている。これまでの音楽教育に対する多大な貢献に対して、1999年に全米音楽指導者協会(MTNA)よりMTNA Lifetime Achievement Awardが授与された。
バスティン・メソッドについての最新情報はhttp://www.to-on.com/bastien/index.htmlをご覧下さい。

Vol.2 INDEX


2006年11月30日発行
Stage+人(すてーじん)(2)
様々なホールやピアノとの出会いがインスピレーションを生む
関本 昌平さん
ステージが育てる不思議な力(2)
教室の日常に仕掛ける大小さまざまなゴール
ジェーン・バスティン先生
宮澤家の3つの教育イデー
目指すのは「時間・空間を超えた教育」
宮澤功行先生&陽子先生
ピアノのある生活(2)
忙しいほうが、自分自身もピアノも充実しますね
太田健介さん
目指せ、ステージの達人(2)
Q&A~「本番までに準備できることは?」
杉谷昭子先生
ピアノ教養クイズ(1)
「ピアノの歴史と構造」編
岳本恭治さん

ピティナ編集部
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