今月、この曲

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ミュージックトレード社『Musician』2013年5月号 掲載コラム

 「ユーゲントアルバム」はアイデアの宝庫!! この曲集は、シューマンが長女マリーちゃんの7歳のお誕生日のプレゼントとして数曲書いたことがきっかけで始まりました。何曲か書いているうちにどんどん霊感が溢れてきて、凝り性の彼らしく、一気に数十曲書き上げ、その中から厳選した43曲を出版したんですね。2007年に生誕200年記念を先取りして出版されたヘンレ版の楽譜には、付録曲も19曲入っていて、全部で62曲という膨大な楽譜になっています。
 子供たちのために......となっていますが実はこの曲集、大人の感性で書かれていて大変なアイデアの宝庫です。シューマンはどの曲もみな難しく、中学生くらいになって初めて先生から楽譜を渡される方が多いのでは? はい、これね、と最初に渡されるのが大体「アベッグ変奏曲」だったりして!さあここでもうすでに分かれ道。"シューマン難しいし、なんだかどう弾くか分からなーい"という人と、"なんだか今までにない感触、素敵!"と思う人。
 ちょっと考えてみましょう。「ユーゲント」ってop.68ですよね。この時すでに、シューマンは詩人の恋などの素敵な歌曲を書き上げ、「謝肉祭」や「クライスレリアーナ」等のピアノの名曲も、かっこいい「ピアノ五重奏曲」や交響曲も、かの有名な「ピアノ協奏曲イ短調」も書き上げていたんです。ということは、「ユーゲント」を書いた時の彼の頭の中には、歌も室内楽も管弦楽も全て鳴り響いていたはずです。だから! 「ユーゲント」は多彩なんです。
 ほとんどの曲に題がついて、春にちなんだ曲の中では「5月、愛しい5月よ、もうすぐお前はやってくる!」があります。彼は春が大好きなロマンティックな作曲家だったんですね。
 彼の難しい大曲に挑戦する前に、是非「ユーゲント」の珠玉の数々を弾かれることをお薦めします。短くてエッセンスだけの曲なので、他の大曲と並行して練習するのもいいでしょう。何曲も弾いているうちに、気難しく見えるシューマンが、とても仲良しの友人みたいに思えてくること間違いなしです!

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