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武田真理先生
(第1部レクチャー&ナビゲーター) ピアノの誕生300年を迎えて
今から300年前、バルトロメオ・クリストフォリというイタリアのメディチ家に仕えていた楽器製作者の方が、今まで強弱のつかなかったチェンバロなどの鍵盤楽器に対して、強弱のつく「ピアノ・エ・フォルテ」という楽器を考案されました。 ピアノの歴史は、「戦争」や「市民革命」「産業革命」など、時代の背景にも非常に影響を受けています。そして、作曲家の音楽的な要求も、ピアノの進化に影響しており、たとえば、ベートーヴェンは、この楽器を大きく変えた作曲家のひとりだと思います。 ピアノ300年記念コンサートの開催にあたって
ピティナでは、8月28日に、東京芸術劇場でピアノ300周年をテーマとしたイベントを行います。 |
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黒田亜樹先生
(第2部ピアノ&ナビゲーター) ピアノ300年記念演奏会に寄せて
一人の人が一生のうちに体験できることや、行くことのできる場所は限られています。何かを長い間ずっと見守ったり、世界一周旅行を何回もしたりすることは、限られた人生の中では色々な制約があって到底できることではありません。 第二部演奏者として ― 南米、アメリカでのクラシック音楽
4人のピアニストでお送りする第二部、「ピアノで世界旅行!」で私が演奏するのは、南米、アメリカの作品です。ピアソラの『リベルタンゴ』、ジョージ・クラムの『マクロコスモス』、そしてガーシュインの『ラプソディー・イン・ブルー』をお送りします。 ピアソラ没直後、クラシックの名だたる演奏家が彼の曲を取り上げ、いわゆる「ピアソラブーム」がおこりましたが、その中でもとりわけ演奏率の高いのが「リベルタンゴ」でしょう。これを私は、自分の編曲で演奏します。ピアソラはバンドネオン奏者としてもすばらしい腕前でしたが、彼の作品を演奏するときには、バンドネオンの蛇腹がひざの上でチャッチャッチャと軋む、あの響きなしには表現できないともいえるでしょう。ピアノという楽器は不思議なもので、奏者がイメージを強く持つと、歌声のようにも、バイオリンのようにも、時にはフルートのように、太鼓のような音色もでる魔法の箱です。ここで私は、バンドネオンを含むタンゴ5重奏団のノリや味わいをピアノで表現すること、またピアノならではの編曲の面白さを伝えることに挑戦してみます。 『ラプソディー・イン・ブルー』の即興部分では、西洋音楽とは全く異なった、譜面に書けないようなスイングする音楽もお聴かせできると思います。アメリカでは思想や宗教は関係なく、色々なカルチャーが混在する中で、伝統にとらわれることなく、良いものを生み出せれば誰にでもチャンスがあった。自由な土壌が、ヨーロッパの伝統を取り入れつつも何もないところから新しいものを生み出した。そんなふうに思っています。 それに関連して、あまり知られていないかもしれませんが、ジョージ・クラムの『マクロコスモス』を取り上げることにもこだわりがあります。アメリカは、伝統あるヨーロッパの音楽から抜け出すような実験音楽を生んだ国でもあります。『マクロコスモス』も、ピアノの新しい使い方が模索されていた時代に書かれた曲です。私はイベントやCDの収録でも聴きやすい曲の中に耳馴染みのないものを入れることがあります。あまり馴染みのないもの、難解なものにも面白さを感じてほしいからです。だから、夏休みに子供がクラムを聴かされた、っていうのもなかなかいいんじゃないでしょうか(笑)難しい、ではなく「あっ、面白いな」と感じてもらえればいいな、と思っています。 (黒田亜樹先生)
第二部では、アメリカ以外にも様々な国のピアノのレパートリーが演奏されます。音楽はその国の社会の様子や文化などと結びついていることが、黒田先生へのインタビューを通じて伝わってきました。アメリカ以外の国でも、それがどのように表れてくるのか、演奏会で感じていただければ幸いです。
(レポーター:東京大学3年 加藤晴) |
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久元祐子先生
第1部でフォルテピアノを演奏してくださる、久元祐子先生に、今回のコンサートの演奏曲やフォルテピアノの魅力についてお話を伺いました。
(第1部 ピアノフォルテ) フォルテピアノとは―モダンピアノとの違い―
まず、ハンマーや音量が小さく、鍵盤の深さもモダンピアノの約半分で、全体的に小型だといえます。3人くらいで運んでサロンや貴族の家で弾かれていました。 今回使用するヴァルター(フォルテピアノ)の魅力
モーツァルトは、ウィーンに移ってからは、ヴァルターが制作した楽器で作曲しているので、この楽器が持つ美学というものが曲の中にも生きています。モーツァルトの楽曲を演奏するとき、現代のピアノではある程度セーブしないとモーツァルトの気品が失われてしまいますが、ヴァルターでは気品を失わずに楽器の100%を使って演奏でき、それが楽しいところです。安定や性能という面では現代の楽器に軍配が上がると思いますが、性能では測れない、楽器の進歩の中で切り捨てられてきた微妙なニュアンスのようなものが、この楽器の魅力です。ですから私はこのヴァルターが本当にかわいくて、保母さんのような気持ちを持っています(笑)。 今回の演奏曲について
モーツァルトの「トルコ行進曲」は、モーツァルトがウィーンに移り住んでから書いたオペラ「後宮からの誘拐」をフォルテピアノのために書き換えたような雰囲気をもっています。当時、ウィーンの人々にとってトルコは侵略してくる恐ろしい国でしたが、それと同時に人々はトルコの文化や音楽にも関心を持っていた、という背景の中でこの曲は作られました。モーツァルトは、オペラ「後宮からの誘拐」の序曲について、「ピアノとフォルテが絶えず入れ替わって、プレストの音楽で、一晩中寝ていなかった人でも絶対にこの曲で眠れるはずがないような、躍動感あふれる曲」と紹介していました。ですから、トルコ行進曲は今書いてあるアレグレットよりもう少し速いテンポで演奏していたかもしれません。しかし、このトルコ行進曲つきのソナタは一般愛好家向けに出版されたため、みんなで弾けるアレグレットのテンポに抑えられたのかもしれない、と思います。 来場者へのメッセージ
現代の楽器は、音のシャワーのような迫力を出すことができますが、フォルテピアノが使われていた時代は、自分から音色に耳を傾けていくというようなところがあります。そしてその音色は、現代とはまた違った魅力を持っていますので、ぜひ楽しんでいただければと思います。
久元先生のお話から、作曲当時の楽器で演奏することの意義や魅力を知ることができました。今回の演奏会の中で、作曲家の工夫や思いを感じ取っていただければと思います。
(レポーター:慶應義塾大学3年 笠井 悠/東京音楽大学3年 西山安里) |
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大塚直哉先生
(第1部 パイプオルガン) 「ピアノ300年記念コンサート」第1部で3種類のパイプオルガンを演奏していただく、大塚直哉先生にお話をお伺いました。 オルガンとピアノ
─ ピアノの歴史の、はるか以前に誕生しているオルガンにも、今回スポットを当てることになりました。
オルガンの歴史は、2000年以上も前に遡ります。もっとも古くは『水オルガン』という水の力で動くパイプオルガンでした。当初からの"鍵盤をつける、鍵盤を並べる"といった発想は、今のピアノに引き継がれています。 ─ オルガン曲は、礼拝の中で演奏された宗教音楽というイメージがありますが、ピアノが誕生したころは、どのような場でオルガンを聴いていたのでしょうか?
実は、バッハ以前にも、例えばオランダなどでコンサートの目的でオルガンを演奏するという習慣もありましたし、バッハの場合にも現在残っているオルガン曲の多くは、礼拝以外の場で弾かれた曲かもしれないと言われています。ショパンやドビュッシー、ブラームスなど、かつてのピアニストたちは、実はみなオルガニストでもありました。昔はオルガンの技法でオルガンを弾いていたのが、時代がくだるとオルガニストとピアニストが一緒になったので、フランクやメンデルスゾーンなど、ピアノの華やかな技巧をたくさん取り入れたオルガン曲がたくさん書かれるようになっていきます。 聴きどころ
─ それぞれのオルガンで演奏される今回の3曲。聴くポイントをおしえてください。
「グリーンスリーヴス変奏曲」は、17世紀頃のイギリス民謡に基づく変奏曲です。オルガンだけのための曲ではなく、ある時は歌、またある時には鍵盤楽器、時には合奏と様々な様式で演奏されて親しまれていました。今回は、この曲をオルガン(ルネサンスオルガン)のみで変奏します。10数種類の変奏の中で、オルガンのさまざまな音色の変化を味わってお聴きください。 皆様へのメッセージ
─ 最後に、大塚先生にとって、オルガンの魅力とは何でしょうか?
国内の何百何千ものコンサートホールのオルガンは、どれもパイプの種類や鍵盤数が異なり、同じ形のオルガンは1つとしてありません。その点はいつも88鍵であるピアノとは異なりますね。そしてオルガンには、顔があり、空気を送る肺があり、発音する口があります。ですから、これだけ巨大でも、「機械」というよりは、「生き物」に近いところに位置しています。全国各地の、この「生き物」のようなオルガンの、音色、歌声を、ぜひ楽しんでみてください。 ─ ありがとうございました。8月28日の本番を楽しみにしています。
(レポート:埼玉大学3年 門倉美帆) |
日比野 四郎さん
(社団法人日本ピアノ調律師協会企画部長) 「ピアノ300年記念コンサート」を含む一連の企画『「祝ピアノ300年」そしてこれからも・・・』を主管する社団法人日本ピアノ調律師協会の日比野四郎氏にお話を聞きました。 『「祝ピアノ300年」そしてこれからも・・・』に思うこと
─ 今回の『「祝ピアノ300年」そしてこれからも・・・』には、どのような思いで企画されたのでしょうか?
私たち調律師はいつも演奏者、製造者の方々とご一緒に仕事をさせていただいてます。そこでピアノの技術者として考え、ピアノの修理や調整、調律で携わってきた切り口で、このピアノ300年を記念するイベントを行いたいと思いました。 歴史的ピアノについて
─ 豊富な種類の歴史的ピアノが登場しますね。これらのピアノは、どのような点で選ばれたのでしょうか?
今回は、私ども日本ピアノ調律師教会が、過去に修復などで関わらせていただいたものを集めました。 ─ 中でも、特にお勧めのピアノなどはありますか?
それは、全部です。今回展示されるピアノには100数十年たっているピアノもあります。当時の有名な作曲家、ベートーヴェンやモーツァルトなどがこのような音で作曲し、こういうことを聴いてほしいと思ったのかもしれない。そのような気持ちを込めて演奏されますので、すべての歴史的ピアノの音を聴いていただきたいですね。 ─ 今回集められる数々の歴史的ピアノ、ずいぶんと貴重なものもあるようですが?
なるべく古い材料を用いて造ったものも中にはありますが、実際に当時存在していたピアノですから百数十年前のピアノもあります。我々は300年たったピアノを今の音にするのではなく、その当時にふさわしい音色にして展示するようにしました。 ─ この歴史的ピアノの中には、ピアノの祖といわれるクリストフォリのピアノもありますね?
現在クリストフォリのピアノは世界に3台、形として残っているとされています。その中でも、調べていくとおそらくオリジナルに一番近いとされているものが、ライプツィヒ博物館にあるクリストフォリのピアノですね。今回は日本人の山本宣夫さんという方がそれをモデルにして造られたものが展示されるんです。構造、材質なども非常にリアルな造りになっていることと思います。 ─ 非常に本物に近い歴史的ピアノを感じることができるんですね。最後にご来場頂いた方々には、どのようなことを感じてほしいですか?
ピアノの調律師として、ピアノについてこれから先のことを感じてほしいと思います。ピアノはまだまだ、これからです。そういったことをご来場頂いた方々に感じていただければな、と思っております。 ─ 楽しみにしています。今日はありがとうございました。
(インタビュー:昭和音楽大学芸術運営学科3年 青木翔平・山崎啓) |
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