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武田真理先生(第1部レクチャー&ナビゲーター) 〔動画インタビュー
今から300年前、バルトロメオ・クリストフォリというイタリアのメディチ家に仕えていた楽器製作者の方が、今まで強弱のつかなかったチェンバロなどの鍵盤楽器に対して、強弱のつく「ピアノ・エ・フォルテ」という楽器を考案されました。・・・・(続きを読む
黒田亜樹先生(第2部ピアノ&ナビゲーター) 〔動画インタビュー
一人の人が一生のうちに体験できることや、行くことのできる場所は限られています。何かを長い間ずっと見守ったり、世界一周旅行を何回もしたりすることは、限られた人生の中では色々な制約があって到底できることではありません。・・・・(続きを読む
久元祐子先生(第1部フォルテピアノ) 〔動画インタビュー
まず、ハンマーや音量が小さく、鍵盤の深さもモダンピアノの約半分で、全体的に小型だといえます。3人くらいで運んでサロンや貴族の家で弾かれていました。・・・・(続きを読む
大塚直哉先生(第1部オルガン)NEW! 〔動画インタビュー
「ピアノ300年記念コンサート」第1部で3種類のパイプオルガンを演奏していただく、大塚直哉先生にお話をお伺いました。・・・・(続きを読む
日比野四郎さん(社団法人日本ピアノ調律師協会企画部長)
「ピアノ300年記念コンサート」を含む一連の企画『「祝ピアノ300年」そしてこれからも・・・』を主管する社団法人日本ピアノ調律師協会の日比野四郎氏にお話を聞きました。・・・・(続きを読む
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武田真理先生
(第1部レクチャー&ナビゲーター)
ピアノの誕生300年を迎えて

 今から300年前、バルトロメオ・クリストフォリというイタリアのメディチ家に仕えていた楽器製作者の方が、今まで強弱のつかなかったチェンバロなどの鍵盤楽器に対して、強弱のつく「ピアノ・エ・フォルテ」という楽器を考案されました。
 クリストフォリのピアノがヨーロッパのある雑誌に紹介され、それを見た、ドイツのジルバーマンが、自分もそういうったものを作ってみようということで作ったのが、「フォルテピアノ」なのです。ジルバーマンが甥に伝え、そこからツンペをはじめとした優秀な12人の弟子たちが、7年戦争によってロンドンに渡り、そこから、イギリス式(突き上げ式アクション)、ウィーン式(跳ね返り式アクション)という2つの流れで発展していくことになります。そして、ベヒシュタイン、ブリュートナー、スタインウェイが設立された1853年は、近代ピアノの幕開けという重要な年だと私は考えています。

武田真理先生
武田真理先生(プロフィール

 ピアノの歴史は、「戦争」や「市民革命」「産業革命」など、時代の背景にも非常に影響を受けています。そして、作曲家の音楽的な要求も、ピアノの進化に影響しており、たとえば、ベートーヴェンは、この楽器を大きく変えた作曲家のひとりだと思います。
 300年の歳月を経て、ピアノという楽器は、様々な改良を重ねられ、現在の楽器になりました。当初のクリストフォリのピアノと現代のピアノでは、タッチの深さ、鍵盤の幅、鍵盤の重さも違いますね。それに伴って大きく変わってきたのが、テクニックだと思います。
 そういった300年の歩みを身近なものにして、現代のピアノになった経緯、それに伴って作曲家の作品が変わってきた経緯、タッチが変わってきた経緯などを感じ取ってほしいと思います。

ピアノ300年記念コンサートの開催にあたって
武田真理先生

 ピティナでは、8月28日に、東京芸術劇場でピアノ300周年をテーマとしたイベントを行います。
 前半は、鍵盤楽器の歴史をたどります。鍵盤音楽は、その当時、オルガンやチェンバロ、クラヴィコードを総称して「クラヴィーア」と呼んでいました。東京芸術劇場に設置されている、ルネッサンス、バロック、モダンの3種のオルガンを、その時代の曲に結び付けながら聴くことは、またとないチャンスで、私もとても楽しみにしています。チェンバロは、当時の宮廷の中で流行していたバロック・ダンスとともに演奏されます。それから「フォルテピアノ」は、モーツァルトも愛用していたヴァルターのピアノを使った演奏です。そういう音楽を通じて、ピアノの誕生というものを感じていただければ非常に嬉しいと思います。
 後半は、現代のピアノで、色々な国の作曲家の作品を通して聴ける、とても面白い企画になっています。ヴァルターのピアノから現代のピアノになるという過程で、ピアノという楽器は、どんどん改良され、より強くより遠くまで響く楽器となり、ピアノ曲も技術的にも難易度が増し、音量もppp...からfff...まで、表現の幅もものすごく広くなってきたわけです。そして、クラシック音楽は、イタリアやドイツなどの一部の地域、ヨーロッパだけのものではなく、本当に世界各地に発信されて、今や世界中の共通した音楽というものが確立されて、色々な国の人達が作曲家として登場します。そして、各地域の民俗的な音楽とも結びついていったピアノ曲を、楽しんでいただければと思います。

黒田亜樹先生
(第2部ピアノ&ナビゲーター)
ピアノ300年記念演奏会に寄せて

 一人の人が一生のうちに体験できることや、行くことのできる場所は限られています。何かを長い間ずっと見守ったり、世界一周旅行を何回もしたりすることは、限られた人生の中では色々な制約があって到底できることではありません。
 でも、音楽に触れることで私たちはその制約から自由になれる。私はそう思っています。音楽教育の意味も、そのことを教えるところにあるのではないでしょうか。ピアノ300年記念コンサートでは、ピアノという楽器の発展の歴史や、世界各地の様々なピアノのレパートリーに触れることができます。音楽を通じて、時代を超え、場所を超え、――教育的にも、演奏会としても、とても意義深いものになるはずです。音楽に触れて人は自由になれること。この演奏会で皆様に感じていただければと思います。

第二部演奏者として ― 南米、アメリカでのクラシック音楽
黒田亜樹先生
黒田亜樹先生
プロフィール

 4人のピアニストでお送りする第二部、「ピアノで世界旅行!」で私が演奏するのは、南米、アメリカの作品です。ピアソラの『リベルタンゴ』、ジョージ・クラムの『マクロコスモス』、そしてガーシュインの『ラプソディー・イン・ブルー』をお送りします。
 クラシックの世界では、アメリカは亜流だとか、二流だとか言われてきました。でも、本当にそうでしょうか。ピアソラはタンゴとクラシックを、ガーシュインはジャズとクラシックを、それぞれ融合して新しいスタイルを築きました。クラシックへのコンプレックスを素晴らしい形で昇華させ、新しいものをつくったのです。

 ピアソラ没直後、クラシックの名だたる演奏家が彼の曲を取り上げ、いわゆる「ピアソラブーム」がおこりましたが、その中でもとりわけ演奏率の高いのが「リベルタンゴ」でしょう。これを私は、自分の編曲で演奏します。ピアソラはバンドネオン奏者としてもすばらしい腕前でしたが、彼の作品を演奏するときには、バンドネオンの蛇腹がひざの上でチャッチャッチャと軋む、あの響きなしには表現できないともいえるでしょう。ピアノという楽器は不思議なもので、奏者がイメージを強く持つと、歌声のようにも、バイオリンのようにも、時にはフルートのように、太鼓のような音色もでる魔法の箱です。ここで私は、バンドネオンを含むタンゴ5重奏団のノリや味わいをピアノで表現すること、またピアノならではの編曲の面白さを伝えることに挑戦してみます。

 『ラプソディー・イン・ブルー』の即興部分では、西洋音楽とは全く異なった、譜面に書けないようなスイングする音楽もお聴かせできると思います。アメリカでは思想や宗教は関係なく、色々なカルチャーが混在する中で、伝統にとらわれることなく、良いものを生み出せれば誰にでもチャンスがあった。自由な土壌が、ヨーロッパの伝統を取り入れつつも何もないところから新しいものを生み出した。そんなふうに思っています。

 それに関連して、あまり知られていないかもしれませんが、ジョージ・クラムの『マクロコスモス』を取り上げることにもこだわりがあります。アメリカは、伝統あるヨーロッパの音楽から抜け出すような実験音楽を生んだ国でもあります。『マクロコスモス』も、ピアノの新しい使い方が模索されていた時代に書かれた曲です。私はイベントやCDの収録でも聴きやすい曲の中に耳馴染みのないものを入れることがあります。あまり馴染みのないもの、難解なものにも面白さを感じてほしいからです。だから、夏休みに子供がクラムを聴かされた、っていうのもなかなかいいんじゃないでしょうか(笑)難しい、ではなく「あっ、面白いな」と感じてもらえればいいな、と思っています。 (黒田亜樹先生)


 第二部では、アメリカ以外にも様々な国のピアノのレパートリーが演奏されます。音楽はその国の社会の様子や文化などと結びついていることが、黒田先生へのインタビューを通じて伝わってきました。アメリカ以外の国でも、それがどのように表れてくるのか、演奏会で感じていただければ幸いです。

(レポーター:東京大学3年 加藤晴)

久元祐子先生
(第1部 ピアノフォルテ)
第1部でフォルテピアノを演奏してくださる、久元祐子先生に、今回のコンサートの演奏曲やフォルテピアノの魅力についてお話を伺いました。



フォルテピアノとは―モダンピアノとの違い―
久元祐子先生(プロフィール

まず、ハンマーや音量が小さく、鍵盤の深さもモダンピアノの約半分で、全体的に小型だといえます。3人くらいで運んでサロンや貴族の家で弾かれていました。
コンセプトもかなり違っていて、現代のピアノは大きなホールに響かせるための迫力や音量、力強さを目指していますが、フォルテピアノは、音量よりも細やかな息づかいや繊細なニュアンスを表現することに重点が置かれていました。アクションは現代のピアノよりずっとシンプルで、徐々に連打ができるように発展していきました。
また、当時の楽器は、楽器製作家が、それを演奏する作曲家の意見を取り入れながら手作りで作っていました。たとえば、ベートーヴェンは力強い演奏に耐えられるもの、幅広い音域などをリクエストして、手に入れた楽器によって音楽を変えていきましたし、モーツァルトも様々な国を旅していたため当時の最先端の楽器を知っていて、これからの楽器を念頭に入れて作曲していました。やはりピアノ音楽のジャンルというものは、楽器との関わりがとても大きいと思います。当時のピアノは製品というよりも芸術作品という感じでしたね。

今回使用するヴァルター(フォルテピアノ)の魅力

モーツァルトは、ウィーンに移ってからは、ヴァルターが制作した楽器で作曲しているので、この楽器が持つ美学というものが曲の中にも生きています。モーツァルトの楽曲を演奏するとき、現代のピアノではある程度セーブしないとモーツァルトの気品が失われてしまいますが、ヴァルターでは気品を失わずに楽器の100%を使って演奏でき、それが楽しいところです。安定や性能という面では現代の楽器に軍配が上がると思いますが、性能では測れない、楽器の進歩の中で切り捨てられてきた微妙なニュアンスのようなものが、この楽器の魅力です。ですから私はこのヴァルターが本当にかわいくて、保母さんのような気持ちを持っています(笑)。

今回の演奏曲について

モーツァルトの「トルコ行進曲」は、モーツァルトがウィーンに移り住んでから書いたオペラ「後宮からの誘拐」をフォルテピアノのために書き換えたような雰囲気をもっています。当時、ウィーンの人々にとってトルコは侵略してくる恐ろしい国でしたが、それと同時に人々はトルコの文化や音楽にも関心を持っていた、という背景の中でこの曲は作られました。モーツァルトは、オペラ「後宮からの誘拐」の序曲について、「ピアノとフォルテが絶えず入れ替わって、プレストの音楽で、一晩中寝ていなかった人でも絶対にこの曲で眠れるはずがないような、躍動感あふれる曲」と紹介していました。ですから、トルコ行進曲は今書いてあるアレグレットよりもう少し速いテンポで演奏していたかもしれません。しかし、このトルコ行進曲つきのソナタは一般愛好家向けに出版されたため、みんなで弾けるアレグレットのテンポに抑えられたのかもしれない、と思います。
ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」は、彼のモーツァルトに対するあこがれと、モーツァルトよりも激しいものを求める思いの両方が入った作品です。ベートーヴェンの後援者のワルトシュタイン伯爵は、ベートーヴェンに対して、モーツァルトの魂をハイドンの手によって受け継ぐようにと言いました。ベートーヴェンはその言葉通りにハイドンに師事して、モーツァルトにあこがれながら自分の世界を築いていきました。この曲では、彼がモーツァルトの短調の世界にすごく惹かれて、それを延長した世界を作っていったことが分かります。
最後に演奏するモーツァルトの「ヴァイオリンソナタK.304」は、モーツァルト愛好家の中でも人気のある作品のひとつです。この曲が作られた当時、モーツァルトは旅先のパリで母を亡くして失意のどん底にいたので、よく母の死と結びつけて考えられます。直接母の死をきっかけに書いた曲ではありませんが、曲の中に含まれている儚さ、悲しみ、憂いといったものを感じ取っていただければと思います。

来場者へのメッセージ

現代の楽器は、音のシャワーのような迫力を出すことができますが、フォルテピアノが使われていた時代は、自分から音色に耳を傾けていくというようなところがあります。そしてその音色は、現代とはまた違った魅力を持っていますので、ぜひ楽しんでいただければと思います。


 久元先生のお話から、作曲当時の楽器で演奏することの意義や魅力を知ることができました。今回の演奏会の中で、作曲家の工夫や思いを感じ取っていただければと思います。

(レポーター:慶應義塾大学3年 笠井 悠/東京音楽大学3年 西山安里)

大塚直哉先生
(第1部 パイプオルガン)

 「ピアノ300年記念コンサート」第1部で3種類のパイプオルガンを演奏していただく、大塚直哉先生にお話をお伺いました。



オルガンとピアノ
大塚直哉先生
大塚直哉先生(プロフィール
─ ピアノの歴史の、はるか以前に誕生しているオルガンにも、今回スポットを当てることになりました。

 オルガンの歴史は、2000年以上も前に遡ります。もっとも古くは『水オルガン』という水の力で動くパイプオルガンでした。当初からの"鍵盤をつける、鍵盤を並べる"といった発想は、今のピアノに引き継がれています。
 ピアノと同じ鍵盤楽器の仲間ですが、音を出す仕組みからみると、ピアノは弦を叩いて音が出るといった「打楽器的」なのに対して、オルガンは鍵盤を押すと、パイプに空気が流れて音が鳴るという「管楽器的」な仕組みになっています。パイプには様々な長さ、太さ、形状がありますが、1つのパイプで1つの音高しか出せません。代わりに、鍵盤の左右に「ストップ」というノブのようなものがついていて、音色が変えられるようになっています。
 2000年の歴史があるだけに、オルガンという楽器はそれぞれの時代の音楽を反映して本当に多様です。今回は東京芸術劇場の3つのオルガンを演奏したいと思いますが、例えば「ルネサンス・オルガン」は合唱が盛んだったルネサンス時代らしく、「人の声」を一番の理想として、その上に同時代の楽器の音色も加えたオルガンになっていて、調律法もむかしふうです。またバロック時代になって室内楽が盛んになってくると「バロック・オルガン」にはそういった要素もどんどん取り入れられていきます。また「モダン・オルガン」はフランスのオルガン製作の伝統をベースにして、オーケストラが盛んになった19~20世紀らしい「オーケストラ的な」オルガンとして作られています。
 このような3様式のオルガンをもつ東京芸術劇場のオルガンは、世界的にも珍しいもので、パイプの数は9000本にものぼる、とても大きなパイプオルガンです。どのようにして3様式のオルガンが現れるのかは、会場でご覧に入れたいと思います。

─ オルガン曲は、礼拝の中で演奏された宗教音楽というイメージがありますが、ピアノが誕生したころは、どのような場でオルガンを聴いていたのでしょうか?

 実は、バッハ以前にも、例えばオランダなどでコンサートの目的でオルガンを演奏するという習慣もありましたし、バッハの場合にも現在残っているオルガン曲の多くは、礼拝以外の場で弾かれた曲かもしれないと言われています。ショパンやドビュッシー、ブラームスなど、かつてのピアニストたちは、実はみなオルガニストでもありました。昔はオルガンの技法でオルガンを弾いていたのが、時代がくだるとオルガニストとピアニストが一緒になったので、フランクやメンデルスゾーンなど、ピアノの華やかな技巧をたくさん取り入れたオルガン曲がたくさん書かれるようになっていきます。

聴きどころ
─ それぞれのオルガンで演奏される今回の3曲。聴くポイントをおしえてください。

 「グリーンスリーヴス変奏曲」は、17世紀頃のイギリス民謡に基づく変奏曲です。オルガンだけのための曲ではなく、ある時は歌、またある時には鍵盤楽器、時には合奏と様々な様式で演奏されて親しまれていました。今回は、この曲をオルガン(ルネサンスオルガン)のみで変奏します。10数種類の変奏の中で、オルガンのさまざまな音色の変化を味わってお聴きください。
2曲目は、「トッカータとフーガニ短調」。「ラソラー、ソファミレドーレー」誰もが一度は耳にしたことがある旋律でしょう。バッハのオルガン曲でもっとも有名な「トッカータ」の部分を、バロック・オルガンで演奏します。オルガンは、トランペットなど他の楽器の真似をした音が多くあるのですが、今回は"オルガノ・プレーノ"というオルガンの基本の響きで演奏します。ルネサンス・オルガンとはまた違った、これぞオルガン!という響きをお聴きください。
 そして最後に、「プレリュード、フーガと変奏曲」より「プレリュード」を演奏します。ピアノが盛んに用いられるようになった時代になってきても、ピアニストはオルガンを弾き続けていました。そんな時代の中、フランクが書いたピアノの演奏技法をとりいれられているオルガン曲がこの曲です。フランスのロマンティクな音色のモダン・オルガンの、オーケストラのような響きをお楽しみください。

皆様へのメッセージ
─ 最後に、大塚先生にとって、オルガンの魅力とは何でしょうか?

 国内の何百何千ものコンサートホールのオルガンは、どれもパイプの種類や鍵盤数が異なり、同じ形のオルガンは1つとしてありません。その点はいつも88鍵であるピアノとは異なりますね。そしてオルガンには、顔があり、空気を送る肺があり、発音する口があります。ですから、これだけ巨大でも、「機械」というよりは、「生き物」に近いところに位置しています。全国各地の、この「生き物」のようなオルガンの、音色、歌声を、ぜひ楽しんでみてください。

─ ありがとうございました。8月28日の本番を楽しみにしています。

(レポート:埼玉大学3年 門倉美帆)

日比野 四郎さん
(社団法人日本ピアノ調律師協会企画部長)
日比野四郎さん
日比野四郎さん

 「ピアノ300年記念コンサート」を含む一連の企画『「祝ピアノ300年」そしてこれからも・・・』を主管する社団法人日本ピアノ調律師協会の日比野四郎氏にお話を聞きました。



『「祝ピアノ300年」そしてこれからも・・・』に思うこと
─ 今回の『「祝ピアノ300年」そしてこれからも・・・』には、どのような思いで企画されたのでしょうか?

 私たち調律師はいつも演奏者、製造者の方々とご一緒に仕事をさせていただいてます。そこでピアノの技術者として考え、ピアノの修理や調整、調律で携わってきた切り口で、このピアノ300年を記念するイベントを行いたいと思いました。
例えば、30日に『歴史的ピアノの復元過程』という講演と演奏があるんです。これは私達日本ピアノ調律師協会が復元・修復中の「シーボルトのピアノ」についての報告となっています。日本に最初に持ち込まれたピアノがこの「シーボルトのピアノ」ですので、大変興味深い内容になると思います。

歴史的ピアノについて
─ 豊富な種類の歴史的ピアノが登場しますね。これらのピアノは、どのような点で選ばれたのでしょうか?

 今回は、私ども日本ピアノ調律師教会が、過去に修復などで関わらせていただいたものを集めました。
 ピアノの発端はクリストフォリが製造したものによりますが、アクションの仕方や音楽そのものなどはイギリス系統と、フランス系統やウィーン系統に分かれています。そのような変遷があったため、音楽に対する要求も変わってきました。さまざまな種類のピアノを、ぜひご自分の手や耳で確かめていただければと思います。

─ 中でも、特にお勧めのピアノなどはありますか?

 それは、全部です。今回展示されるピアノには100数十年たっているピアノもあります。当時の有名な作曲家、ベートーヴェンやモーツァルトなどがこのような音で作曲し、こういうことを聴いてほしいと思ったのかもしれない。そのような気持ちを込めて演奏されますので、すべての歴史的ピアノの音を聴いていただきたいですね。

─ 今回集められる数々の歴史的ピアノ、ずいぶんと貴重なものもあるようですが?

 なるべく古い材料を用いて造ったものも中にはありますが、実際に当時存在していたピアノですから百数十年前のピアノもあります。我々は300年たったピアノを今の音にするのではなく、その当時にふさわしい音色にして展示するようにしました。

─ この歴史的ピアノの中には、ピアノの祖といわれるクリストフォリのピアノもありますね?

 現在クリストフォリのピアノは世界に3台、形として残っているとされています。その中でも、調べていくとおそらくオリジナルに一番近いとされているものが、ライプツィヒ博物館にあるクリストフォリのピアノですね。今回は日本人の山本宣夫さんという方がそれをモデルにして造られたものが展示されるんです。構造、材質なども非常にリアルな造りになっていることと思います。

─ 非常に本物に近い歴史的ピアノを感じることができるんですね。最後にご来場頂いた方々には、どのようなことを感じてほしいですか?

 ピアノの調律師として、ピアノについてこれから先のことを感じてほしいと思います。ピアノはまだまだ、これからです。そういったことをご来場頂いた方々に感じていただければな、と思っております。

─ 楽しみにしています。今日はありがとうございました。

(インタビュー:昭和音楽大学芸術運営学科3年 青木翔平・山崎啓)

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