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ピアノ300年記念コンサート第1部レポート

第1部のテーマは「ピアノ300年 鍵盤楽器の歴史探訪!」。ナビゲーターに武田真理さんをお迎えし、モダンピアノが誕生するまでの鍵盤楽器―オルガン、チェンバロ、フォルテピアノ―の音色をお楽しみいただきました。

まず、2000年以上の歴史を誇る、最古の鍵盤楽器であるオルガン。演奏してくださったのは大塚直哉さんです。開演早々、即興の華やかなプレリュードの演奏で、本公演のオープニングを飾ってくださいました。次の曲は、ルネサンスオルガンによる「グリーンスリーブス変奏曲」。ルネサンスオルガンは、ルネサンス時代の、歌や踊りの音楽を真似した音がたくさんある楽器です。どこか懐かしいメロディの中で、繊細な音や力強い音、時には鳥の鳴き声まで、芸術劇場のオルガンの約9000本のパイプを最大限に生かした様々な音色が響き渡りました。これには武田さんも「すごいですね~」と感嘆の声。続いて、オルガンといえばこの曲、J.S.バッハの「トッカータとフーガ」より「トッカータ」を、バロックオルガンを用いて演奏してくださいました。バロックオルガンは、ドイツのバロック時代のオルガンを真似して作られたオルガンです。その後、舞台上のオルガンは、これまでのバロック面からモダン面にゆっくりと回転。「3台のオルガン」の謎が明かされました。また、ロマン派のピアニストがオルガン奏者でもあったことについてもお話してくださいました。最後に、モダンオルガンによるフランクの「プレリュード、フーガと変奏曲」の演奏。モダンオルガンは、19世紀、オーケストラが出てきた時代に活躍し始めたオルガンです。「ピアニストがショパンを大事にするようにオルガニストはフランクを大事にする」と語っていらしゃった大塚さん。存分にフランクの色彩豊かなモダンオルガンの世界を楽しませてくださいました。

次は、1500年から1700年頃、いわゆるバロック時代に宮廷舞踏音楽として活躍した楽器、チェンバロの音色の世界の始まりです。ご出演くださったのは、チェンバロ奏者の芝崎久美子さん、バロックダンスの浜中康子さん、岩佐ジュリさん。まず披露してくださったのはC.ペッツォールトの「メヌエット」。軽やかなチェンバロの演奏と、上品なバロックダンスに会場はうっとり。中世の宮廷舞踏会に迷い込んでしまったような雰囲気に包まれました。その後のトークで、もともとピアノを演奏されていたという浜中さんは、「ダンスを知ることで、演奏することも音楽を聴くことも楽しくなった」と、バロックダンスの魅力をお話してくださいました。芝崎さんはチェンバロの音色を変化させる仕組みを、実際にチェンバロを弾きながら、とても分かりやすく紹介してくださいました。続いての演奏はダカンの「かっこう」とJ-Ph.ラモの「タンブラン」、ピアノでもよく演奏される曲ですが、今回は芝崎さんのチェンバロソロでお届けしました。音色が繊細なだけではない、ダイナミックさを兼ね備えたチェンバロの魅力に気づかされる演奏でした。最後の曲はJ-B.リュリ=J.H.ダングルベールのオペラ「アルミード」より「パッサカリア」。再び浜中さんに登場していただき、ダンス付きで披露してくださいました。先ほどの宮廷舞踏とは違った、動きが大きく情熱的な劇場用のダンスを見せてくださいました。

最後に、いよいよピアノの300年の歴史の始まり、フォルテピアノの音色の世界に移ります。演奏してくださったのは、久元祐子さん。初めに演奏してくださったのはモーツァルトの「トルコ行進曲」。モーツァルトは、今回使用されたヴァルターのフォルテピアノを愛用した作曲家としてよく知られています。この曲のモダンピアノでの演奏はよく耳にしますが、今回フォルテピアノでの演奏を聴いて、新たな魅力を発見した方も多いのではないでしょうか。軽やかな音の動きの中にも、トルコ軍が近づいてくる緊張感があり、フォルテピアノの音色をイメージして作られた曲だということがよく分かる演奏でした。「産業革命と共に鉄の部分が増え、音色も変わり、演奏する会場も広くなり、音域も広くなっていった」と、当時のピアノの進歩の過程をお話してくださいました。次に演奏してくださったのはベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」より第2楽章。ベートーヴェンもピアノの発展に大きく貢献した作曲家として知られています。フォルテピアノに特徴的な、膝のペダル使いも絶妙で、「美しい」という言葉がぴったりの演奏でした。第1部の締めくくりは、モーツァルトの「ヴァイオリンソナタK304」。ヴァイオリニストの大関博明さんをお迎えして演奏してくださいました。モダンピアノでヴァイオリンソナタを演奏するときは、ピアノの音量を抑え気味にしなくてはならないそうですが、フォルテピアノで演奏するときは、思いっきり弾いて、ヴァイオリンとの音量のバランスが良い演奏ができるようです。大関さんのヴァイオリンも1680年に作られたものだそうで、武田さんもコメントされたように「モーツァルトの時代をそのまま再現」したような、楽器同士の相性の良さも然ることながら、とても息の合った演奏で第1部の最後を飾ってくださいました。

第1部の最後に演奏されたフォルテピアノから、第2部で使用されるモダンピアノに向かって、ピアノはさらに発展していきます。平行弦から交差弦になり、フレームの材料は木から金属になり、さらに産業革命によりフェルトが登場し、ピアノは「より強く、より響き、より遠くに」音を出せるようになっていきます。武田さんのご説明に第2部への期待感を高めつつ、第1部は終わりました。



ピアノ300年記念コンサート第2部レポート

第二部のテーマは"ピアノ曲の世界旅行"。このテーマの通り、4名のピアニストによって、西欧・北欧・東欧・南欧・ロシア・日本・アメリカ・南米を代表する様々な名曲が演奏されました。
ナビゲーターは、ピアニストの黒田亜樹さん。ご自身も演奏が控えている中、大変わかりやすい司会をしてくださいました。

まず、演奏をしてくださったのは、若手ピアニストの根津理恵子さん。ライバル関係にもあったショパンとリスト、そして北欧ノルウェーを代表する作曲家で"北欧のショパン"とも呼ばれるグリーグの作品を披露して下さいました。リスト作曲『愛の夢第三番』で第二部は幕を開け、東欧~北欧への旅がスタート。『愛の夢第三番』と言えば、ピアノの名曲中の名曲であり、会場全体がその技巧に裏打ちされた優美なメロディーに包まれました。次に演奏されたのは、グリーグ作曲の『蝶々「抒情小品集第3集」より』。明るく軽やかなメロディーが印象的で、まるで情景が思い浮かぶかのような作品でした。続いての演奏は、ショパン作曲『革命「12の練習曲op.10」より』。根津さんはポーランドでの留学経験があり、ナビゲーターの黒田さんも"根津さんといえばショパン"と紹介されていました。ショパンの祖国を思う気持ちが伝わってくるような、大変情熱的な演奏でした。

ここで、舞台上には江崎昌子さんが登場。根津さんとの連弾が披露されました。曲目は、ブラームス作曲『ハンガリー舞曲第5番』。根津さんと同様にポーランドでの留学経験をお持ちの江崎さん。お二人での連弾は初めてということでしたが、共通点を持つお二人ということもあり、大変息のあった演奏を披露してくださいました。
連弾後、江崎さんによるドイツ・フランス・スペインの旅がスタート。江崎さんはショパンの専門家でいらっしゃいますが、本公演ではさまざまなレパートリーを披露してくださいました。まず一曲目は、ブラームス同様ドイツを代表する作曲家である、シューマン作曲の『飛翔「幻想小曲集op.12」より』。幻想的かつ表現力豊かな演奏が大変印象的でした。二曲目は、フランスを代表する作曲家であるドビュッシー作曲の『水の反映』。江崎さんご自身が説明の際おっしゃっていた、"音のパレットで絵を描いたよう"という言葉がふさわしい、揺らめく水面が目に浮かぶような非常に美しい演奏でした。そして、最後に演奏されたのは、スペインの作曲家グラナドス作曲の『アンダルーサ「十二のスペイン舞曲集」より』。独特なリズムとメランコリックなメロディーが印象的な作品でした。江崎さんは全3曲を披露してくださいましたが、3つの国に属する3人の作曲家それぞれの違いを味わうことのできる演奏となりました。

続いて、舞台上には鈴木弘尚さんが登場し、旅の目的地は一旦世界を離れて日本へ向かいます。まず演奏されたのは、海外でも名高い日本の作曲家、武満徹作曲の『雨の樹素描II ─ オリヴィエ・メシアンの追憶に ─』です。影響を受けたメシアンの没年に書かれ、「雨」を描写した作品です。ドビュッシーの「水」の表現とはまた違う、独特の響きが大変印象的でした。続いて、旅の目的地はロシアへ。鈴木さんはロシア音楽のスペシャリストでいらっしゃいます。そのことが十分に感じられる、魅力的な演奏を披露してくださいました。最初に演奏されたのは、ロシアを代表する作曲家ラフマニノフ作曲の『プレリュード「鐘」』。「鐘」を表現した壮大な響きと重厚な和音が印象的でした。続いて、バレエ曲として知られるチャイコフスキー作曲『組曲「くるみ割り人形」』より、『ロシアの踊り』、『中国の踊り』、『パ・ド・ドゥ』の三曲が披露されました。オーケストラではなくピアノ曲として聴くということも興味深く、踊りが実際に目に浮かぶような演奏でした。


最後に演奏を披露してくださるのは、これまでナビゲーターを務めてくださった黒田亜樹さん。旅の目的地は、南米・アメリカへと向かいます。披露された曲は、独特なリズムをはじめとして、これまで聴いてきた作品とは一味違う雰囲気を持つものばかりでした。まず一曲目は、アルゼンチンの作曲家ピアソラ作曲の『リベルタンゴ』。ピアソラはタンゴに様々な要素を取り入れた作曲家です。ピアソラ独自の世界を楽しむことができました。二曲目はアメリカの作曲家ジョージ・クラム作曲の「マクロコスモスII」。新しい音色を探求し、前衛音楽と呼ぶにふさわしいこの作品の特徴は、斬新な演奏法にあります。それは、ピアノの弦の中央の音域に紙を置き、その摩擦音をも音色にしてしまうというもの。新しい表現の形を発見することができ、驚かれた観客の方も多かったのではないでしょうか。そして、最後はアメリカを代表する作曲家ガーシュインの『ラプソディー・イン・ブルー』。ガーシュインは、クラシックにジャズを融合させた作曲家として知られています。リズムや技巧、即興も堪能できる大変見事な演奏でした。
"ピアノ曲で世界旅行"と題した第二部。4名の素晴らしいピアニストの演奏により、多くの方が楽しい世界一周を終えることができたのではないでしょうか。様々な国の異なる作曲家の名曲を聴き、それぞれの違いを十分に味わうことできる贅沢な時間となりました。作曲家独自の"世界"に加え、ピアノの歴史と無限の可能性を堪能することができました。




体験コーナー、会場の様子

出演後スタッフとともに



動画リンク一覧(YouTubeへ)



【各部レポーターのコメント】
鍵盤楽器の歴史を振り返るとき、その進歩は、単なる技術の進歩として語られるべきものではありません。社会や文化の移り変わりと共に、楽器の役割や音楽も変わっていき、当時の作曲家の思いが新しい楽器や音楽を作っていくといったように、様々な要素が影響し合って、鍵盤楽器とその音楽は発展してきたということができます。第1部は、オルガン、チェンバロ、フォルテピアノという3種類の鍵盤楽器の演奏とトークを通して、ただ目の前の楽譜と向き合うのではなく、曲の背景にある世界を知ることが、演奏や鑑賞をより豊かにするのだということを、改めて教えてくれるものだったように思います。 (第1部レポーター/笠井 悠)
世界各国を代表する様々な作曲家の作品を堪能することを可能にした第二部では、ピアノという楽器の素晴らしさを改めて感じることができました。独自の表現を模索して名曲を生み出した作曲家。独自の解釈のもと、その作品を演奏するピアニスト。様々な良き出会いにより、ピアノの輝きは一層増すのだと思いました。多様な文脈の中で、作曲家によって作品の特徴は異なり、演奏するピアニストによって作品の表現は異なるものになります。そのような意味において、ピアノ作品には一種の前衛的要素があるのではないかと思います。ピアノが多くの出会いの中で発展を遂げ、その可能性はこれからも無限であることを強く感じました。(第2部レポーター/望月 麻那)

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