コンサートへ行きますと、ホール等の入口で手渡される(または購入する)ものがあります。それは演奏される曲についての解説などが書かれた「プログラムノート(曲目解説)」。ロックやジャズなどのコンサートではあまりお目にかかりませんので、クラシック特有のものなのでしょう。
作曲家または演奏曲それぞれの基本的な情報について書かれていることが多く、「これを一読しておけば、より音楽についての理解が深まりますよ」という配慮のもとで作成され、それが伝統になっているものと思われます。コンサートへ行かれた際、みなさんも開演前にお読みになっているでしょうか。
このプログラムノートですが、通常は私のような音楽ライター(または音楽評論家、音楽ジャーナリスト、音楽学の先生など)が執筆しており、ときどき演奏者ご自身が執筆されていることもあります。アマチュア・オーケストラのコンサートでは、詳細な情報をもっている楽員の方が執筆するというケースも多いですね。
寡聞にして存じ上げなかったのですが、ピアノ・リサイタルや発表会などでも演奏者ご本人が執筆するケースが多いということを知り、私も過去に何度か「プログラムノートはどうすれば、うまく書けるのか」という内容の講義をしたことがありました。今回も、4回というコンパクトな連載ではありますけれど、多くの方の参考になるよう進めていきたいと思います。
クラシック音楽コンサートにおけるプログラムノートは、おおむね次のような基本情報をふまえて書かれています。
- ◎
- 作曲者の基本的な情報
(生没年や国籍、簡単な生涯など) - ◎
- 演奏される曲についての情報
(作曲年、作曲された経緯やエピソード、作曲された場所、初演日や場所・初演者など) - ◎
- 演奏される曲のアナリーゼ
(構成・形式や調、ソナタ形式などの場合は第1主題・第2主題の提示部分紹介なども含む)
ひとつの例を挙げてみましょう。ちょうど手元にドビュッシー作曲による「月の光」の楽譜がありますので、この曲についてのごく基本的な解説を書いてみます。
これで「月の光」に関する基本的な情報はまとめられました。実を言えばプログラムノートとしては、これでもう十分なのです。
ところでプログラムノートとは、いったい誰のために存在しているのでしょうか。
言うまでもなくすべての文字と文章は、伝達する相手となる「読み手」のために存在しています。文字の発明は人間の「伝えたい」という欲求の表れであり、読んでくれる人がいるからこそ文章の存在価値が生まれます。
そこで考慮しなくてはいけない課題が、ひとつ生まれました。それは「どうしたら読んでもらえるだろうか」を考えるということ。上記の「月の光」の解説文ですが、皆さんはお読みになってどうお感じになるでしょうか。データをまとめただけの簡潔な内容ですが、演奏するご本人や音楽に精通している方であれば、特に問題はないかもしれません。
しかしながら、読み手が全員そうであるとも限らないのです、もしかすると音楽用語がすでにわからず、理解不能だという方がたくさんいらっしゃるのかもしれません。
プログラムノートに限らないことですが、いい文章というのは「伝わる文章」であり、書き手が読み手のことを意識しながら(または気遣いながら)書かなくてはいけないものなのです。
次回は、そうした点に留意しながら、具体的にどうすれば伝わりやすいプログラムノートになるのかを考えていきたいと思います。