ピアノステージ

Vol.08-1 Stage+人(5) 横山幸雄さん

2008/10/31
子どもたちによる憧れのピアニスト・インタビュー 横山幸雄さん

第一線のピアニストとして活躍している横山幸雄さんへ、ピティナの生徒たちによるインタビューが実現。去る9月7日東京オペラシティコンサートホールでのリサイタルをアクセスパス席で聴いた生徒たちが、横山さんがオーナーを務める渋谷のレストランへ集合。普段はステージ上のピアニストと対話できる絶好の機会に、自分たちの感じたこと、質問をぶつけてみました!

作品と作曲家の真髄を求めて気に入るまで弾き続けた子供時代ピアノが上達するための演奏鑑賞
感動した経験、幸せを感じる時横山さんからの「メッセージ」横山幸雄さんプロフィール
作品と作曲家の真髄を求めて
守重結加さん
守重結加さん
桐朋学園大学2年

守重 本番に向けて、どのようにモチベーションを高めていらっしゃいますか?また、先日の演奏会では、聴衆がどんなに熱狂しても客観的に自分を聴いている印象でした。

横山 基本的にはやっぱり、よりいい演奏を...何と言ったらいいのかな、作品と作曲家の神髄に近づけるような演奏をしたいと思っているので、そこがモチベーションの原点であるように思いますね。自分がただ好きで弾いているだけだったら、うーん...、どうかな。
 (客観性については)今よりも例えば30倍くらい練習したら、完全に本番の演奏で入り込んだとしても、ほんの少しの冷静さがあれば、決定的な狂いが生じることはないと思うんだけれど、まぁ、なかなか30倍練習しないものでね、人間って。本番では、「いつどうなってしまうかわからない」という感じはあるし、間違ってから気付いて「はい、もう一回やり直し」というわけにいかないでしょ。冷静に弾きたいと思っているわけではないですが、やはりどこかに客観的に聴く冷静さが大事ですね。

小倉友里恵さん
小倉友里恵さん
太田市立
九合小学校6年

小倉 ピアノが違うと、弾き方を変えるんですか?

横山 答えから言ってしまうと、意図的に変えなければいけない場合もあるし、無意識のうちにそれをやっている時もある。同じピアノでも演奏会の最初と最後だと、楽器の鳴り方とかが違うし、同じホールでも何ヶ月か前に弾いた時と違う状態になっているので、毎回毎回、すぐに自分の耳で聞きながらコントロールしている感じ。僕も演奏活動をやっていると、いろいろなピアノを見ているので、その楽器の特徴がすごくわかるんだよね。それがほぼ理想の状態だったら、何も考えなくても出来るんだけれども、ちょっと動きが鈍かったり、音の反応が悪かったりした時には、それぞれのピアノに合わせて意図的に変えることもある。ピアノは持って歩けないからね。そこにある与えられたピアノに状態をあわせなきゃならない。とても難しいことだけどね。

堀内麻未さん
堀内麻未さん
東洋英和女学院
小学校6年生

堀内 コンクールに受かる秘訣は何ですか?

横山 コンクールに受かる秘訣?うーん、それはやっぱりいい点数をもらうことだね(笑)。でも「ここ、こういうふうに弾いたら、いい点数をもらえるかな?」なんて考えないでしょ?それでいいんだよ、君たちが勉強する時は、いい音楽をするということを考えていれば、それでいいんじゃないかな。点数を付けないとコンクールにならないから、便宜上付けているだけで、本来音楽は、点数を付けられるものではないではないんだよね。だから、コンクールに通ることだけを目標にするのは、あまり勉強としては意味がないと思う。


気に入るまで弾き続けた子供時代
西田朱里さん
西田朱里さん
国分寺市立
第四小学校5年

西田 子供の頃は、どんな練習をしていたんですか?

横山 どういう練習していたかなぁ。弾きたい曲をあれこれたくさん弾いていた、まずは。あまり練習という感覚はなかったかも。例えば料理するんだったら、気に入った料理が出来るまで何度も作るみたいな感じで、それを練習とあまり思わないみたいな感じ。気に入るように弾きたいなぁと、気に入るように弾けるまで何度もやってみる。いろいろ、「こう弾いたらこうなるかな」とか、「こういうふうに弾いてみたら思ったような音が出るかな」とか、いろいろ試してみた。あまり先生から、こういうふうに練習しなさいと言われたことはないし、言われていたのかもしれないけど、あまり覚えてない。何のためにこれを今やっているのかわからないというような練習はしたことないですね。自分が目的を持って、「ここがうまくいかない」とか、「ここをこうしたいな」と思って弾いて、それが練習になっていた感じね。

武田直也君
武田直也君
葛飾区立
東金町小学校2年

武田 直也 キラキラした音はどうやって出すんですか?

横山 どうやったら出るかなぁ。まず最初に必要なのは、「こういう音を出したい」「キラキラした音を出したい」とイメージすることね。そのイメージした音に近づいていくように練習をするんだけど、その時に必要なことは、人間の指はピアノを弾くためだけにあるわけではないので、ピアノを弾くための訓練をしなければいけないということ。それから、あとは無駄な力を入れないこと。そこを逆に言えば、無駄な力を入れずに、必要なところを訓練していれば、自分でこういう音を出したいと思った時に、よりイメージに近づくことが出来ると思う。なので、真面目に毎日練習しようね。


ピアノが上達するための演奏鑑賞
対談風景

保護者 ピアノが上達するための演奏鑑賞の方法について教えてください。

横山 まず他人の演奏に興味がないというのは、ものすごい大天才か、あまり音楽に興味がないか、どちらかじゃないかなと思います。僕は他人の演奏は、最近でこそあまり聴かなくなってしまったけど。演奏会に行くことによって、どういうふうな格好で弾いているとどういう音が出てくるのかというのは、CDだけ聴いていてはわからないような息遣い、実際的な奏法的なこともわかるので、何かそこから見つけたいなというのは、常に学生時代は持っていましたね。だから逆に今、演奏家の立場としてみると、「あまりそんなに細かくジロジロ見ないで」という感じではあるんだけど。学生時代はジロジロ見るつもりで、いろいろな演奏会に行っていました。同じ演奏家でも、毎回毎回同じ演奏をするわけではないし、そういう変化を聴くのも興味深いなと思います。
 音楽をやる原点って、例えば他人の演奏を聴いて「ああいうふうに弾けたらいいな」とか「この曲弾いてみたいな」とか、そういう部分ってすごく大きな要素だと思います。それこそ小学校でバラードの1番を弾けたりとか、早期教育の成果というのはあると思うんだけど、逆に、本当に音楽を楽しんだり感動したり感じたりするということが希薄になっていっていないか、というのが心配な部分です。このピティナのアクセスパスのような、殺到してもおかしくないシステムに殺到しないことの方が不思議で、そこに何か、ゆがみを感じます。


感動した経験、幸せを感じる時

保護者 先日の公開リハーサル、ものすごく集中していらっしゃる感じがしました。

横山 そうですね。気楽に聴いていられるリハーサルではなかったかもしれないですね。僕の演奏会に対する緊張感みたいなものが、全部聞こえたリハーサルだったかもしれない。大体あんな感じでリハーサルをやっています。そもそも僕は、普段練習するのに、別に誰が走り回っていようが寝ていようが、大勢いようが出入りしようが、全く気にならないです。どちらかというと人がいてくれた方が、「ちゃんと練習しなきゃな」となるので。けっこう、演奏旅行であちこち出かけることも多いんだけど、人がいる所で、演奏会の合間合間とかで練習することが多いというか、その方がはかどりますね。あまりみっともないことは出来ないじゃないですか。家だったら「あー、やめちゃおうかな」みたいなダラーッとした練習になりがちなので、人前で練習した方が効率いいですね(笑)。

保護者 今までに感動された演奏家や、素晴らしかったなという思い出はありますか?

横山 いっぱいあって、今パッと思いつくものが...。今思いつかないものよりも優れていたかどうか、ちょっとわからないけれど、例えば、晩年にホロヴィッツが来日した時の演奏や、リヒテルの最後の来日とか、ヨーロッパでのミケランジェリの演奏。こちらの気持ちの持ちようとして、もしかして二度と聴けないんじゃないかなと、心構えも全然違うので、普通に受ける感動とはまた違う感覚というのはありましたね。思えば子どもの頃からすごく色々な演奏会とレコードを聴いて、そういう意味では、毎日感動の連続だったと思います。ピアノ以外にも、オーケストラやオペラ、そういったものから受ける感動というのも大きいですね。様々な音楽を聴いて何か感じるものがあるというのは、音楽をやる一番の原点ではないでしょうか。

横山幸雄さん

保護者 一番幸せを感じるのは、どんな時ですか?

横山 それ、真面目に答える質問だよね(笑)?一番辛い時なら簡単なんだけどね。一番幸せな時は、ちょっと漠然とした言い方なんだけど、例えば演奏を通してでもそうだし、食事をしていてもそうなんだけど、何か一つの音楽なら音楽、料理なら料理というものに対して、「よかったね」という感動を、人と一緒に分かち合える瞬間はとても幸せだと思うのね。音楽も、聴いている人たちに何かを感じていただいて、感じていただけているだろうということを僕が感じることによって、成り立っている仕事だと思うので、それが出来るのは幸せなことですね。


一同 ありがとうございました。

横山幸雄さんからの「メッセージ」 無理のないところで、最大限、頑張る
横山:無理のないところで、最大限、精いっぱい頑張ってほしいなと思います。どちらかというと、無理な中で、中途半端に頑張っている人がいる。無理というのは要するに、先ほども言ったように、音楽は単なるお勉強ではないので、「こういうふうに弾きたいな」「こういう演奏をしたいな」「この曲を弾きたいな」という、自分のモチベーションに対して、最大限の努力をしてほしい。どんな演奏をする場合でも、例えば小学生の体格で、190cmのロシア人みたいな演奏は絶対出来ないわけで、自分自身の表現の道というのを探していってほしいなと思います。生徒のレッスンをしていて、「どういうふうに弾きたい?」ときくと、「わかりません」。「こういうふうに練習しなさい」「はい」「じゃあ、何でそんな練習をしているの?」ときくと、「わかりません」、という生徒がけっこういて、「じゃあ、わかるまで考えてから来て」と話します。先生に言われたままに弾く、練習する、そういうのがやや多いような気がするので、自主性を持って、自分のスタイルを、自分のやりたい形を見つけて、そこに向かって頑張ってもらえたら音楽への喜びが一段と広がると思います。
横山幸雄さん 横山幸雄(ピアニスト) Yukio Yokoyama,pianist
美しく洗練されたスタイルによる味わい深い表現を持ち味とし、豊かな色彩感覚と緻密な構成力を併せもつ本格派ピアニスト。71年東京生まれ。89年ブゾーニ、ロン=ティボー両国際コンクールに上位入賞。90年パリ国立高等音楽院卒業。同年、ショパン国際コンクールにおいて、歴代の日本人として最年少入賞を果たす。以来、人気実力ともに常に音楽界をリードするトップアーティストとして、確実に自己の道を歩みつづけている。活動は古典から近現代まで圧倒的な幅の広さを誇り、内外の一流オーケストラや著名アーティストとの共演も多数。ショパンやベートーヴェン、ラヴェルの全曲演奏会など、自ら企画する数々の意欲的な取り組みにより、高い評価を確立してきた。現在は、2010年に生誕200年を迎えるショパンのシリーズを各地で展開している。CDは既に18枚リリースしており、最新アルバム「バッハ:ゴールドベルク変奏曲」(ソニー)は各紙で絶賛。新日鐵音楽賞、モービル音楽賞、文化庁芸術選奨文部大臣新人賞など数多くの賞を受賞。上野学園大学教授、エリザベト音楽大学客員教授。 http://yokoyamayukio.net/
地図(クリックで拡大) 【会場協力】

リストランテG 《ホームページ

世界的ピアニストであり、美食家・ワインエキスパートとしても知られる横山幸雄氏が"最高の料理・ワインとおもてなしで、お客様に最高の喜びを"をテーマにしたレストラン。

東京都渋谷区東2-22-3 TEL:03-6419-8391

(取材・文:黒木真紀子)

Vol.8 INDEX


2008年10月31日発行
Stage+人(5)
アクセスパスの新企画 子どもたちの憧れのピアニストインタビュー
横山幸雄さん
Stage+人(6)
様々なジャンルとのコラボレーションを通して、ピアノの可能性を試していきたい
西村由紀江さん
10分でたどる作曲家の生涯(1)
ピアノの詩人「ショパン」編
西村稔
・ピアノピアノのある生活(5)私のステップ遍歴
 岡嶋拓也さん吉岡正人さん菊田美和子さん
・弾いたあなたへ、聴く特典!「ピティナ・アクセスパス一周年」
グランミューズ部門入賞者記念コンサート

ピティナ編集部
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