ピアノステージ

Vol.03-4 ステージが育てる不思議な力(3)渡部由記子先生

2007/03/31
渡部由記子先生
ステージが育てる不思議な力(3)
「子供のコンクール体験は親次第といっても過言ではありません」と語る渡部由記子先生。これまでにピティナ・ピアノコンペティション全国決勝大会へ200名以上もの生徒が出場し、そのうち6割以上が受賞しているという渡部先生が、コンクールに参加する生徒の親に必ずお話されている3つの心構えについてお聞きする。

1.子どもの可能性に勝手に線引きをしない

「楽譜のところどころを隠すことで、曲の
構成なども考えるようになります。こちら
も、生徒さんのご両親に一緒に作ってい
ただいたものです。」

お子さんがコンクールに参加される場合、まず一番初めに気をつけていただきたいのは、お子さんの能力や結果に対して、けっして決め付けや思い込みをしないことです。子供の無限の可能性に対して、「どうせだめだ」などの諦めの言葉は絶対に口にしないでください。親が少しでも否定的な態度を見せると、子供にもすぐにそれが伝わってしまいます。体力重視のスポーツでさえ、結果は10%の技・10%の体力・80%は心で決まる、というのですから、音楽においていかに「心」の部分が大切になってくるかは明らかです。子供が最高の演奏をしている自分をイメージできるような環境を作ってあげることは、親の役目なのです。


2.怒らず叱らず、長所のみに光をあてる

必要な表現に応じて色分けした楽譜。
これも親子協力して作る。

次に、怒ったり叱ったりせず、必ず誉めてあげること。自信は、人から言われて初めてつくものです。虫眼鏡を持ってでも子供の良いところを探してあげ、やらないことを責めるのではなく、やったことを認めてあげるのです。例えば3つの長所と5つの短所があったとすると、長所を30,300,3000・・・とのばしていってあげることで5つの短所は気にならなくなる。「欠点をなおす」のではなく、長所に光を当ててあげることを考えてあげてください。


3・目標を持てるように手助けを

目標設定:目指すものを写真や絵に
して部屋に貼っておくことで遠い目標
に向かっても頑張れる。

最後は目標設定です。まずは、コンペ本番時点でのお子さんの理想像をイメージしてください。そして、今現在のお子さんの状態と比べ、目標に達するためには、何月までにどの状態にもっていけば良いかを、段階的に、そして具体的に考えるお手伝いをしてあげましょう。そのように、子供に合った高さの階段をひとつひとつ作ってあげて、本番までの地図や道しるべを示してあげてください。レッスンで注意された点を箇条書きにして、家で練習する時にわかりやすく示してあげたり、家で15分や20分単位で、練習後にシールをあげたり、ある程度がんばったらご褒美をあげる。そのようにして、努力する楽しさをこまめに体験させてあげるのもひとつの手ですね。


コンクールに向けての、段階別精神サポート

[本番数週間前] 人前での演奏機会を多く作ってあげる

ステージの疑似体験をさせてあげましょう(家でお客さんの前で弾く、レッスンの前後に人前で弾く、学校で弾くなど)。この時、本番と同じようにきちんとおじぎをさせて、演奏も録音しておくとなおよいでしょう。

[本番前日] 子供の前で不安を見せない

子供は親の不安を敏感に感じ取ってしまうので、子供の前ではゆったり、どっしりとしていることが大切。「明日は楽しみね」などの肯定的な言葉がけは必ず忘れないでください。

[本番当日] 誉めて、急かさない

出かける直前の練習では、必ず誉めてあげてください。上手く弾けなかった箇所は、ゆっくり弾かせて、すかさず誉めます。子供の本番前の不安をいかに取り除けるかも、親にかかっているのです。そして、コンクールに向かう途中や会場では、「早くしなさい」などとは絶対言わず、必ず時間と気持ちにゆとりを持たせてあげてください。

[本番直前] どんな状況でもポジティブシンキング

とにかくどんなことにも肯定的な態度を。演奏順が1番目でも、「早く終わってよかったわね」、最後でも、「全員の演奏を聴いてから弾ける!よかったね」と、何に対してもそれが最高の状態だと思うこと。たった一言の否定的な言葉が演奏に大きな影響を与えてしまいます。

[いよいよステージへ] 最高の演奏に向けて

ステージ袖で待っている時、本人が3つの気持ちを持っていることが大切:
(1)「私は一生懸命練習した!」
(2)「今から自分の最高の演奏をお聞かせします」
(3)「皆さん、どうぞお聞きください!」
どんなに練習してもミスは起こるもの。しかし、そこでお子さんが「ミスをしたとしてもトータルでは最高の演奏をするんだ!」と思って本番に挑めるように、どんな小さな不安でも打ち消してあげるような言葉がけを最後まで忘れないようにしましょう。

最後に・・・コンクールは、最高の親になるための訓練

結果がどうであれ、コンクールに参加するということは、目標を達成する方法を知るということです。こういった努力の方法を早い段階から知ると、後々の人生のあらゆる面で生きてきます。私は、コンクールは幸せのためにあると思っています。ここでいう幸せとは、苦労をしないことではありません。困難が立ちはだかったときに「自分は乗り越えられる!」と思えるように成長すること、そして自分を信じる心をもつことなのです。
また、このような体験は親自身の成長にもつながります。コンクール後、「子供との接し方を学びました!」とおっしゃる親の方は実に多いのです。子供がコンクールに参加することは、最高の親になる訓練が出来るということだと思います。


渡部由記子先生 渡部由記子(わたなべ ゆきこ)◎9才よりピアノを始める。田村宏、田辺緑、谷康子の諸氏に師事。 1972年、東京芸術大学ピアノ科を卒業。ピティナ・ピアノコンペティション全国決勝 大会へ、1989年から2006年までに生徒が合計227名出場し、そのうち143名(6割強)が 受賞している(金賞21名、銀賞25名、銅賞25名、他の賞72名)。自身もコンペティシ ョン指導者賞を18年連続受賞。他に、特別指導者賞を4回受賞、優秀指導者賞受賞。 全国各地でレッスン・講座を開催。全日本ピアノ指導者協会評議員、全国決勝大会審 査員、指導法研究委員、ステップ担当者連絡会委員、ステーション育成委員。千葉ピ アノコンクールと日本クラシック音楽協会の審査員も努める。元洗足学園大助教授。 日比谷ゆめステーション代表。
ホームページ: http://www.yukiko-w.com/

Vol.3 INDEX


2007年3月31日発行
教育の未来を考える(1)
今は子どもがどんどん自分でやりたいことを設定していく時代
寺脇研さん
ピアノのある生活(3)
竹馬の友によるデュオ 「団塊の世代の人達に、励みにしてもらいたい」
林智雄さん&古澤洽一さん
<ピアニスト>が育つ家庭の3つの視点
何も禁止されなかったからこそ、自然と道が開けた
根津昭義さん、栄子さん、理恵子さん
ステージが育てる不思議な力(3)
親はどう対応?~3つの心構えとは~
渡部由記子先生
調査レポート(1)
どうすればピアノを続けられる?
~中高生の「継続」と「両立」に必要な5つのキーワード~
ステージえとせとら(2)
ピティナ40周年記念コンサート ほか

ピティナ編集部
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