第19回 多喜靖美先生
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緑溢れる東京都八王子市南大沢にある多喜靖美先生のレッスン室。ピティナのコンペティションにも 特級グランプリ、銅賞、コンチェルト部門上級連続 3 年間最優秀賞、グランミューズ部門 A1 カテゴリー全国第 2 位、第 3 位など多数受賞者を輩出されていらっしゃる多喜先生ですが、 多喜先生のレッスン室では、ソロのレッスンのみならず、室内楽、朗読とピアノの勉強会など、様々な要素をレッスンに取り入れていらっしゃいます。また、親子 2代でレッスンに通われている方、指導者の立場でレッスンにも通い続けていらっしゃる方など、色々な方がレッスンに訪れています。今回は3日間の取材で、多喜先生のレッスンの様々な側面を拝見し、また色々な生徒さん達にお話を伺うことができました。
1. 室内楽にも力を入れたレッスン
ピティナの室内楽委員もされている多喜先生ですが、プライベートのレッスンでも、室内楽の要素を多く取り入れていらっしゃいます。この日はご友人のヴァイオリニストの草野玲子先生をゲストにお迎えして、村田有希さん (桐朋学園大卒、指導者会員、昨年度アミューズ部門Aカテゴリー優秀賞)のベートーヴェンのヴァイオリンソナタ4番と、小滝翔平さん( 桐朋学園大 2 年 / コンペ及びステップ参加) のチャイコフスキーのトリオのレッスンが行われていました。
Video1. 室内楽についてのインタビューとレッスン風景 Windows Media Player |
─ 多喜先生が室内楽をレッスンに取り入れていらっしゃる理由はどんなことでしょうか。
多喜: まず、私自身が室内楽が好き、ということです(笑)。ピアノの演奏は一人でピアノに向かって練習して・・ということが多いですが、アンサンブルは人と一緒に演奏する楽しさがあります。私にとっては、自分を一番表現できるかな、と思うのが室内楽で、演奏活動もできる範囲で続けています。そんな室内楽を、自分が演奏するだけではなく、生徒さん達にも体験して頂きたいなと思い、レッスンにも取り入れているのです。
─ アンサンブルを経験することによってどんなことを学ぶことができるのでしょうか。
多喜:「ソロ演奏に結びつくアンサンブル」ということを心掛けています。ピアノ自体が、本来何人かでパートに別れて演奏するべきところを一人何役もこなして弾く楽器ですが、その感覚が足りないんじゃないかな、と思う演奏によく出会います。ですから室内楽をその感覚作りに役立てて欲しいです。「一人アンサンブル」という意識ですね。
夏休み二日間で行われた多喜先生企画の室内楽セミナー。東京フィル主席チェリストの金木博幸氏と、来日中のポーランド出身ドイツ在住のヴァイオリニスト、ヤツェック・クリムキーヴィッチ氏をゲストに迎えて室内楽を研修。 |
多喜:私のところでは今日のようにプロの演奏家をゲストにお招きして、生徒さん達と共演していて頂く、という形式でのレッスンを時々行っています。音楽大学等に入っても、学生同士の室内楽の機会はあっても、プロの演奏家と協演できる機会は滅多にないと思います。学生同士で試行錯誤しながら音楽を作り上げていくのも、もちろん大切なことですが、やはり上手なプロの方たちと一緒に弾くと、ほんの短時間でも大きな効果があり、例えたった一時間でもそこから得られるものは大きいと思います。PTNAの室内楽研修での方法が予想以上に効果があったので、ウチでも応用しているのです。
村田有希さん(桐朋学園大卒、指導者会員、昨年度アミューズ部門Aカテゴリー優秀賞) 「ピアノは打鍵楽器なので、つい息遣いを意識しなくなりがちなのですが、 弦楽器と一緒に演奏することで、 フレージングや呼吸の仕方、レガートや構成作りなどとても勉強になり、ソロにもとても役立っています。」 |
小滝翔平さん(桐朋学園大 2年、学生会員、コンペ及びステップ参加) 「室内楽を経験することによって、 ソロのコンサートの時にも、自分の演奏だけにのめりこむのではなく、 お客さんとの一体感を感じることができるようになりました。 これからも色々な室内楽の曲をどんどん挑戦していきたいです。」 |
─ 音大のピアノ科にいてもなかなか室内楽の機会はないと聞きますが、ましてや年齢の小さいピアノ学習者となると、更に室内楽の機会はありませんよね。
多喜先生監修の日本ではじめての室内楽導入本 「しつないがくはじめの一歩」 東音企画から好評発売中 お問い合わせ・購入はこちらから Video2 多喜先生インタビュー 「しつないがくはじめの一歩」について Windows Media Player |
多喜: そうですね。経験がないのでどうやって教えていいのかわからない、という先生達の声もよく耳にします。特に小さいお子さんや初心者の方は、室内楽の導入教材自体がない為になかなかレッスンに取り入れる機会がありません。私には小学生の息子がいます。ヴァイオリンやチェロを習っているお友達も多く、せっかくなので子供同士で合わせられたらと思い、ピアノ学習者の為の室内楽の導入教材を調べてみたのですが、私の調べた限りでは出版されていませんでした。では作ってしまおう!ということで東音企画から出版させて頂いたのが「しつないがく -はじめの一歩-シリーズ」です。
多喜: この教材は、初心者の方達が普段練習しているブルグミュラーやバスティンなどのソロ曲をそのまま演奏して、それにヴァイオリンやチェロのオブリガードを合わせる、という形式なので、アンサンブルを経験したことのない生徒さんや、教えた経験の少ない先生方も、気軽にアンサンブルの「はじめの一歩」を踏み出して頂けると思います。
きっとソロで弾いていた時には感じられなかった別の感覚を味わえるのではないでしょうか。そして、ソロ演奏に役立つ様々な要素を学ぶ良い切っ掛けにもなると思います。
多喜: 室内楽をより多くの方に体験して頂きたいと思っています。PTNAでは『室内楽研修』もありますし、『ステップ室内楽体験』はそのミニ版として、前日の「合わせ&レッスン」ではマスタークラス形式を取り入れたグループレッスンが行われています。合わせのコツだけでなく、「室内楽の基礎知識」がピアノ奏者の立場から学べる良い機会ですので、気軽に参加して頂きたいなと思っています。
・ピティナ室内楽研修会
『東京室内楽研修会』
2005年2月11日(金・祝)、12日(土)、13日(日) エプタザール
・室内楽イベント (ステップ室内楽体験)
『体験しよう!室内楽』
10月24日(日) 国立AIスタジオ午前10時?午後5時
問合せ ピティナ多摩川ステーション 042-366-0451
2. ピアノがもっと好きになる! ―「お話とピアノによるシリーズ」オリジナル作品製作の勉強会 ―
多喜先生は各地のピアノ教師の勉強会に講師として招かれて講演や公開レッスンを行っていらっしゃいますが、ご自宅でもいくつかの勉強会を開催されています。今回は「お話とピアノによるシリーズ」のオリジナル作品製作のグループを取材させて頂きました。古田裕美子さん。本番では妹さんと交替でピ多喜先生は各地のピアノ教師の勉強会に講師として招かれて講演や公開レッスンを行っていらっしゃいますが、ご自宅でもいくつかの勉強会を開催されています。今回は「お話とピアノによるシリーズ」のオリジナル作品製作のグループを取材させて頂きました。
見学にいらしていたPTNA事務局の小野千草さんに 朗読を手伝って頂き、「お話とピアノ」シリーズを実演 (池田ゆかりさん「ふしぎなバイオリン」 ) Video3. お話とピアノシリーズについて Windows Media Player |
─ 多喜先生が「お話とピアノ」シリーズを始められたきっかけは?
多喜: 数年前に、母が入院していた病院でのロビーコンサートを頼まれました。小児科に入院中の子供達にも喜んで欲しいな、と考えたのが「絵本を読みながら、知っている曲などを織り交ぜて演奏してみよう」というこの方法でした。これが思いのほか、子供達にも大人の方にも喜んで頂けたのです。お話だけ 30分、ピアノだけ30分では飽きてしまっても、それを組み合わせることで楽しんで頂けたのではと思います。今ではお客様の年齢層などに合わせていくつかのお話しを用意してアチコチで公演しています。 息子(宇野蘭之介君/8歳)にも朗読を手伝って貰っているのですよ。 このやり方をたくさんの人達に体験して頂けたら、と思って勉強会でも取り上げました。
─ 勉強会はどのような方法で行われるのですか?
多喜: それぞれの方がお話を自分で選び、どういう曲をどの場面に当てはめるかを考えながら選曲していきます。実際に上演することが大切ですので、必ず一人一人が実演の場を想定して作り始めています。ご自分や知り合いの発表会だったり、近くの幼稚園だったり。月に一度毎回一時間半の勉強会なのですが、皆で曲の当てはめ方や、言葉との合わせ方などをディスカッションします。実際に上演するところまでもっていくのには思ったより大変だったようで、一年も掛かってしまいました。
─ お話の題材はどんなものがあるのでしょうか。
多喜: 今回の勉強会では「ヘレンケラー」、「長靴をはいたねこ」、「ふしぎなバイオリン」「星の王子様」の四作でした。
─ 1つの作品を作るのにだいたいどの位の曲数から選曲するのでしょうか
多喜: 私の場合は 20曲決めるのに約400曲以上ですね。勉強会ではそれぞれの方が持ち寄った曲を皆でチェックするので、その数は膨大になります。色々な曲を知ることが出来て、その意味でもとても良い勉強になると思います。
「星の王子様」をご自身の発表会で上演された古田裕美子さん。本番では妹さんと交替でピアノと朗読を担当。 「外国人の牧師さんが、すごく良かった!と握手しにきてくれて、とてもうれしかった。」 「お話とピアノ」シリーズ製作勉強会のメンバー。手に持っているのは、それぞれ自分のオリジナル作品のシナリオ。左から、池田ゆかりさん、古田裕美子さん、多喜靖美先生、大槻恭子さん、横山智一さん。 |
─ お話とピアノシリーズの特徴は?
多喜: ピアノさえあれば (アップライトでも)どこでも簡単にできる、ということです。バイエルだけでも、大曲を入れても、どんなレベルの方でも自分の弾ける曲のレベルに合わせて構成することができます。また「音楽でイメージを表す」ということを身をもって体験することができるので、再び実際のソロの曲の向き合った時に、「イメージを考える」ということにより現実感が持てると思います。
─ 実際に「朗読とピアノ」作品作りを経験してみて、どうでしたか?
池田ゆかり (武蔵野音大卒/指導者会員/昨年度室内楽研修受講) 題材・ふしぎなバイオリン: ソロ演奏の時は固定観念でイメージが勝手に作られてしまっていたけれど、「朗読とピアノ」を体験することによって、 1曲1曲のそれぞれの色があることがとてもわかり、今までソロを弾く時に「イメージすること」が足りなかったということに気付きました。
古田裕美子 (国立音大卒/指導者会員/室内楽ステップ参加) 題材・星の王子様: 今までは、曲と向かい合ったとき、ここが弾けない、あそこが弾けない、ということばかり気をとられてしまっていましたが、これを通して、「イメージを膨らませて弾く」ということが少しできるようになりました。
大槻恭子 (尚美短大専攻科卒/指導者会員/室内楽ステップ参加) 題材・ヘレンケラー: これからも 1曲1曲イメージが膨らむようにメロディを歌いながら人の心に残るように演奏していけたら、と思います。
横山智一 (東京音大卒/指導者会員/今年度グランミューズ全国大会第3位) 題材・長靴をはいた猫: これをやることによって、楽しませる、という意識が生まれました。あと子供心・遊び心が自分の中で少しうまれて、純粋な感性に帰ることができたという感じです。
池田ゆかり: 今まで自己満足の世界にいたな、と思います。自分ひとりでやっていい気持ちになっても、全然周りには伝わっていなかったり。
─ 確かに、ソロだけやっていると「楽しませる」という意識を忘れがちになってしまいますよね。「一生懸命やった成果を聞いて下さい」というだけになってしまったり。
多喜:「音楽」では具体的な物は表現できないですよね。音だけを聞いて「夕日」を皆が思い浮かべるっていうのはありえません。でも何かイメージを伝えようとしながら演奏すると、聴いている人にそれが伝わり違うイメージを膨らませることが出来る。お話がつくことでイメージを共有することもできる。でも共有といっても個人個人のイメージの膨らませ方は様々である。そういう意味で、音楽の本来持っているものを更に確認して演奏することができるようになるんじゃないかな、と思います。是非、ソロ演奏のためにも、こういうことをやって欲しいなと思っています。
3. 指導をしながら自身もレッスンへ ― PTNA指導者会員の生徒さん達 ―
多喜先生の教室には、指導者の立場で演奏活動を続け、PTNAのコンペティションや室内楽活動にも関わっている生徒さん達がたくさんレッスンにいらしています。今日はその方々に集まっていただき座談会形式でお話を伺いました。
座談会に集まって戴いた多喜先生の生徒さん達。 見学にいらした日本ベーゼンドルファ社社長室の 福田多恵子さんと共に。 皆さんピティナの指導者会員でもある。 |
─ 皆さんPTNAの指導者会員ということですが、ご自身が多喜先生のレッスンを受けることで、ご自分の生徒さんに対するレッスン方法等に影響を受けている点はありますか?
宮下朋子 (桐朋短大専攻科卒/指導者会員/一昨年度アミューズAカテ優秀賞/昨年度奨励賞): レッスンで、生徒に言いたい事や気になることはいくつも出てくるけれど、多喜先生はいつも「今はこれを言うと後々良いだろう」という大きな流れの中で教えて下さる。その影響で、私も生徒さんに対して「今何を言ってあげたらいいんだろうな」ということを考えられるようになってきました。
中村佳子 (国立音大教育科卒/指導者会員/今年度グランミューズB1カテ予選通過): 確かに、あれもこれも今やらなきゃ大変、手遅れになるかも、という風に思わなくなってきました。もっと引いて、全体を見ながら教えるのもいいんだな、ということに気付きました。
多喜: 私はレッスンで「教えすぎない」ということをモットーにしているので絶対に時間をオーバーしてまで教えないように気をつけています。1週間にほんの一つのことができるようになるだけで、1年間ではものすごく上手になる。逆に一回のレッスンで色んなことを全部言ったから上手くなるかというと、反対に消化不良になります。先生の役割は、誰もが持っている自然治癒力のような物を刺激する為にちょっとした方向性を示してあげることだと思っています。何が必要かを自ら考え自ら直してゆく力、それを身に付ける事が大切だと気付かせてあげるように心掛けています。
スタインウェイとベーゼンドルファが並ぶレッスン室。このピアノで演奏できるのも、生徒にとってレッスンの楽しみの一つ。 |
長谷川友紀 (武蔵野音大卒/指導者会員/今年度グランミューズA1カテ全国大会第2位): 私も今まで細かい細かいところばっかりに視点がいって指導してしまっていたと思う。今の時点で何を言ってあげたら いいんだろう、と考えると、余裕を持って教えられるようになりました。どんなタイプの生徒でも自分が焦らないし、自分を追い込まないし、逆に生徒に自信を持たせてあげられるようになったと思います。
永嶋敦子 (国立音大卒/指導者会員/今年度グランミューズA1カテ千葉支部賞受賞): 私は、「先生だったらこういうだろうな」という事が頭をよぎりながらレッスンしてます。楽譜の見方だとか、フレーズの作り方とか。
今年度グランミューズA1カテゴリー全国第2位を獲得した長谷川友紀さん。ご自分の教室の発表会では多喜先生の男の生徒さん達をゲスト出演させて"男のピアノのカッコ良さ"を生徒さん達やお父様方にアピールされているのだとか。 長谷川:学生の頃は、ピアノは「誰より誰が上手」とか「学校で何番くらい」それだけの世界の中で弾いていた気がします。大学卒業と同時に多喜先生のレッスンを受けるようになりました。今でも相変わらず練習は好きではないけれど、先生のお陰で、人に喜んで貰ったり、何か『伝える』ということが本当の音楽の良さだな、と思えるようになってきた。多喜先生がいなかったら、こうはなってなかったんじゃないかなと思います。 |
青木美樹 (国立音大教育科卒/指導者会員/指導者検定初級中級取得): 私はもともと積極性がないので、「逃げていてはいけない」ということや「皆の前で恥をかく」というチャレンジ精神を、多喜先生に習っているこの 10年で学びました。コンクールに出るとか人前で30分も弾くなんて今まで考えられませんでした。今、音楽教室の中で責任ある仕事も任せられるようになり、自分を苦しい立場に追い込まなきゃいけない、前に出る、という時にそのことが生きてます。
藤原嗣美 (指導者会員/今年度グランミューズB2カテ予選通過): 指導法もですが、何よりまず多喜先生のお人柄に影響を受けました。色んなことをお話してカウンセリングのようにして頂いたり。それが、自分の指導にももちろんつながるし、生きていく上で、多喜先生の存在自体がとてもありがたいと思っています。
長谷川友紀: みんな自分の中に引っかかっている部分が一杯あって、それを解くだけで音楽もうまく行ったりすることがあると思うのですが、なかなか自分で解けないし、解いてくれる人に出会えない。多喜先生はそれをうまく解いてくれていると思う。お話して帰るだけで、帰って楽譜見たときに、前とは違うように見えたり。
多喜: 弾けるか弾けないか、というのは案外心理的な影響がすごく強いでしょ。上手く弾けるかどうか以前に、ピアノの前に座る気力もない、っていう時だってあると思います。反対に「弾きたい弾きたい」っていう気分の時もあるし。私はカウンセリングしているつもりは全然ないけど、でもお話していく中で生徒さんが「またピアノを弾きたい」っていう気持ちに戻れるんだったら、それも大事なことだなと思っています。何か一つ二つ多く注意するよりもそちらの方がずっと効果がある場合もあります。
4.親子2代でレッスンへ
多喜先生の生徒さん達の中には、親子 2代で通われている方もいらっしゃいます。今回は3名の方にお話をお伺いしました。
4-1. 金子詠美さん、雅代さん親子
ピティナ正会員で『ピティナ東京室内楽研修会』講師、室内楽委員である金子詠美さんは、 6年生で初めて多喜先生のところにレッスンに来るまでは、お母様にピアノを習われていました。その後、詠美さんは音大、留学を経て現在ピアニストとして活躍中でいらっしゃいますが、数年前から詠美さんの勧めで、お母様の雅代さんも多喜先生のレッスンに通われるようになったそうです。
10月の発表会では連弾に挑戦するという金子さん親子。左から金子詠美さん、金子雅代さん。詠美さんはPTNA東京室内楽研修会講師でいらっしゃる他、ピアニストとしても活躍中。金子詠美さんのHPはこちら。 |
─ お母様にレッスンを勧められたきっかけは?
金子詠美(娘): 留学から帰ってきて、親子といえども一人の人間と人間という関係になれて、母が普段ピアノを弾いている姿を、はじめて客観的に見ることが出来ました。生徒さん達の相談も私にしてくれるようになったので「初心に帰って先生についてみたら?」
金子雅代(母): いやだったらすぐやめようと思ったのですが(笑)、とてもレッスンが面白く、今年に入って、和音も揃って音色も良くなってきた気がします。
多喜: 普通、お母様の方が先に習っていて次いで娘さんが、というパターンはよくありますが、娘さんが先にいらしてて、しかもお母様はピアノの先生として既にベテランでいらっしゃるのに、もう一度やりたい、とレッスンにいらっしゃるというのは、とても珍しいことですよね。
金子雅代(母): 毎回教わることは、真新しくて感動することが多いです。音の出し方とかペダルの使い方とか。
金子詠美(娘): (母は)昔に比べたら何倍も弾いてますね。
金子雅代(母): あまり練習時間はとれないのですが、レッスン 3日前になると、ふっと気をひきしめて練習しています(笑)
多喜: 最近すごくコントロールが効くようになってきましたよね。どんどん上手になっていますよ。以前は次のレッスンの方が来ると「もう結構です」と恥ずかしそうに止められてしまったのですが、最近は弾き続けていてらっしゃいますよね(笑)
金子雅代(母): 今年になってから「上達しそうだ」という感覚がやっと出てきました。
金子詠美(娘): 何歳になっても自分で音を出す、というのは大切なことですよね。
金子雅代(母): 室内楽もやってみたいと思っているのですが、まだ自信がなくて(笑)
金子詠美(娘): 今年はまずは、私と連弾なんです。
多喜: ピアノに関わる親子関係は難しいご家庭が多いですが、すごく上手くいってらっしゃいますよね
金子詠美(娘): (習い始めた小さい頃、)多喜先生のところは生徒さんのお母様が皆さん熱心にコピー譜に注意を書いてらっしゃったりしたので、うちもやらなきゃだめかな、と思って私の方から母にお願いしていました
一同: 笑
金子詠美(娘): レッスンから帰ってきて「ここは先生が注意したところでしょ、ダメでしょ」と言われたりもなかったですね。
金子雅代(母): 「言わなかったですねー。習いにいったんだから、先生にお任せしたままで、と思っていました 笑」
多喜: 珍しい親子関係ですよね。
─ 10月の発表会では何を弾かれる予定なのですか?
金子雅代(母) :娘と一緒にシューマンの連弾に挑戦します。これからブラームスの小品もちゃんとやってみたいですし、ベートーベンの悲愴も大好きなので、またやりたいです。
4-2.藤原嗣美さん
大阪から飛行機でレッスンに通われている藤原嗣美さん。もともとは息子さんが多喜先生に習われていましたが、今は お母様もレッスンを始められ、今年はグランミューズにも挑戦。
息子さんが先に多喜先生に習い始めたのがきっかけでご自身もレッスンに通われるようになったという藤原嗣美さん。 |
─ 藤原さん自身もピアノの先生でいらっしゃるのですか
藤原嗣美: 音大は出ていないのですが、ピアノは小さい頃から続けていて、子供が生まれてから、近所の方を教えるようになりました。
─ 多喜先生のところにレッスンにいらっしゃるようになったきっかけは?
藤原嗣美: 中学校 2年の息子がいるのですが、その息子が小学校3年生の時に知り合いの紹介で多喜先生のレッスンに通うようになりました。最初は息子のレッスンについてくるだけだったのですが、最近になって私もレッスンを始めさせていただきました。
─ 今年は藤原さんご自身もグランミューズにも挑戦されて予選通過されたのですよね?
多喜: 普通は子供のお尻をたたくだけで終わっちゃいますのにね
藤原嗣美: たたき方も、自分自身がまず経験してみてからでないと(笑)
─ 普通、子供が「じゃあ、お母さんが弾いてみてよ!」と反抗して言うことはよくあると思いますが、本当にやってらっしゃる方がいるというのは、すごいですよね。
多喜: そうやって、皆さん (先生方)も、子供さんにハッパをかけておられるお母さん方には、ご自身が習うことを薦めてみる、っていうのはいいかもしれないですよね。
─ お母様と息子さんご一緒にレッスンにいらっしゃるのですか?
多喜: 今は、別々にレッスンにいらしてるんです。子供に夢を持っていらっしゃるお母様は多いけど、藤原さんのように、全面的にポンと任せて下さったり、お母様も私と同じ方針でピアノに向かい合って下さっているので、とても助かります。
藤原嗣美 :(ピアノを弾くことを)これからも続けていけるな、という感覚があります。コンクールに挑戦したりというのはドキドキなのですが、それがどこか気持ちよかったりします。
5.多喜先生からのメッセージ
─ 最後に、ピアノを習っている方々みなさんへのメッセージをお願いいたします。
私のところの発表会は、『ピアノの集い』というのですが、文字通りそこに集まり演奏する方々はピアノを弾いている、ということだけが共通で、あとはバックグラウンド等は様々です。
ピアノは演奏してこそ命です。
プロもアマチュアも年齢も関係ありません。
皆さんも、才能がないからダメだ、歳をとっているからダメだ、ブランクがあるからダメだ、などと思わずに、弾きたいと思った時から、今何をやればどんな楽しいことができるかを考えて、各々の立場で演奏する機会を見つけていってくださいね。
◇ 多喜先生 今後の予定 ◇ ・ピテイナ・ステップの10月、11月の予定 ・ピティナ室内楽研修会 ・『しつないがく-はじめの一歩-』問合せ先 ・室内楽イベント ・多喜先生ご出演の主なコンサート予定 ・『音楽の宝箱』 |
~編集後記~
私が多喜先生のもとに初めてレッスンに伺ったのは今から20年前のことになります。
以来、音大入学までの14年間、毎週レッスンに通わせて頂いていました。
今回PTNAから多喜先生の取材をお引き受けして久しぶりに多喜先生のレッスン風景を見学させて頂きあの頃から今も変わらない部分と、新しく生まれた新たな魅力、両方をたっぷりと見させて頂いた気がします。
私が習っていた頃も、生徒達皆を連れての海外演奏旅行など、色々な企画を立てて下さっていた多喜先生ですが、ここ数年でますます幅広く斬新な企画が生まれていて、室内楽レッスン、朗読とピアノの勉強会etc.. どれも私自身すぐにでも参加させて頂きたくなるものばかりでした。
今回の取材に当たって、10名以上の生徒さん達がインタビューや座談会に協力して下さいましたが、生徒さん皆さんが口を揃えて仰っていたこと。
「多喜先生のお人柄、温かさ。」
これは、私が習っていた頃から、ずっと変わっていない部分かもしれません。
どんなバックグラウンドをもった生徒でも一人一人の生徒を、そのまま受け入れて下さり、「教え込む」のではなく、一人一人の可能性を伸ばして下さる。
新しいことに挑戦するのが恐い時にも大丈夫よ、とポンと背中を押して下さる。
ピアノを練習することや、舞台で演奏することが「キツい」「辛い」「恐い」ことでしかなかった生徒も
いつしか、ピアノを弾くことが好きになり、
コンクールやコンサートで演奏することも、
「わくわくしてしょうがない」瞬間になる。
何より音楽を心から愛し、
生徒さん一人一人を、干渉するのではなく温かく見守り伸ばしていく、というポリシー、
同時に、まるで魔法のように次から次へと溢れ出る新しいアイディアや
今までにない新企画、 それを現実のものにしていくバイタリティ。
そんな多喜先生の温かいお人柄やエネルギーは
確実に、生徒さん方、ご父兄の皆さん、そして多喜先生を囲む全ての方々に、伝わっているなと感じました。
最後になりましたが、取材に応じて下さった多喜先生、生徒さん方、ビデオ編集等を手伝って頂いたPTNAスタッフの方々、本当にありがとうございました。