第01回 金子勝子ピアノ教室
1.どうしても金子先生の教室に入りたい!/ 2.先生に導かれる音楽表現/ 3.環境を変えたレッスンとレパートリーの広げ方/ 4.教室は先生と生徒のコミュニティ/ 5.先生との絆は心の支えです
1.どうしても金子先生の教室に入りたい!
金子勝子先生は、ピティナ発足当初より活動に携わり、指導者賞受賞回数は最多の22回、現在は指導法研究委員長、協会監事を務めている。歴代の生徒には大崎結真、弓削田優子、根津理恵子など国際的にも活躍する優秀なピアニストを多数輩出している傍ら、趣味として学ぶ大人の生徒や、現役のピアノ教師など生徒層は多岐にわたっている。生徒一人一人の個性やニーズに合わせて指導するその力量には特筆すべきものがある。
今回の取材では主に大人の生徒さんを中心にお集まりいただいき、金子先生との絆の深さがうかがえる、アットホームな雰囲気の中でのインタビューとなった。(取材日:2002年6月24日)
左手前から大前拓也さん、大澤勇さん、後ろ左から石綿絵美さん、金子勝子先生、平嶋裕美子さん |
─ 金子先生の教室に入門したきっかけは?
平嶋:家の周りにはたくさんのピアノの先生がいらっしゃったんですけれども、レッスンでご自身が演奏して教えてくださる正統派の先生というのを希望しておりまして、口コミで知りました。金子先生はものすごく評判は良かったんですよ。順番待ちで、無理やりお願いして入門しました。
─ それ以来30年近くのお付き合いになるのですね。
平嶋:はい。その頃から音大進学を希望していましたが、手作りの楽典の問題集を作って下さり、レッスンの待ち時間にそれをやるのが日常でした。行くとお友達もいるのですごく楽しいレッスン場でしたね。
娘も今中学生ですが、幼稚園の時からお世話になっています。
─ 親子2代にわたっての絆ですね。石綿さんは?
石綿:コンクールを受けた時に、同じグループにいた方ですごく音楽的で楽しそうに弾いていらっしゃる生徒さんがいたので、コンクールの結果待ちの時間に「どなたに習っているの?」と伺いました。
今までの私にとってのピアノは、早く手を動かして!というだけのものだったのですが、
その方の演奏を聴いて衝撃を受けました。
それが金子先生のお弟子さんだったのです。
ここが金子勝子音楽教室 |
─ 大前さんは、普通大学を卒表し、今年の春から金子先生に習っているとうかがいましたが?
大前:今までは殆ど専門的なレッスンを受けてこなかったんですが、今年昭和音大に入学して、はじめて本格的なピアノレッスンを受けています。有名な先生についたのも初めてです・・。とてもご親切に、「時間あいたから、弾きにこない?」って連日レッスンしてくださったりします。まだ始めたばかりですが、金子先生のレッスンは新鮮さでいっぱいという感じです。
─ 他にはどのような生徒さんがいらっしゃいますか?
金子:うちの教室は、小さい子から社会人、ピアノ指導されている方まで本当に幅広い方がいらしています。でも共通することは、みんなピアノが好きで真剣に取り組んでいるということ。音大に進まなくても、ピアノを何かに生かしたいと思っている方を教えたいですね。発表会やリハーサルなどで生徒が集まる機会が多いので、お互いに自然と切磋琢磨されているという感じです。
2.先生に導かれる音楽表現
─ では、実際の金子先生のレッスンはどのような?
石綿:中学生の頃は、ツェルニー、バッハ、ソナタなどをやっていましたが、全部最初から 根気良く教えてくださいました。そして、何故か先生のお宅でレッスンを受けるとだんだん 気持ちが乗ってきて、スムーズに弾けるんです。それは先生が側で歌ってくださるからだと思うんです。気持ちが伝わってくるというか。
平嶋:先生が歌ってくださると、オーケストラのどの楽器なのかという音色までわかるような気がします。 先生が導いてくださり、音のイメージがつくんです。
─ 指揮者のような感じですね。
大澤:コンクールの時、落ち着きませんか?ステージのピアノに座って音を出し始めたとき、 金子先生の歌声が聞こえるんです。だから緊張がすっと取れるような感覚。例えば音が欠けたりしたら「そうじゃないでしょ?!タンタタタン」って聞こえるんです(笑)
大前:ある日レッスンの時、先生が「こうでしょ!」ってピアノをたたくんです。 そしたらピアノの蓋が落ちてきまして・・・。とてもパワフルなレッスンですね。。
平嶋:家で練習してい時も、先生が注意している言葉が後ろから飛んでくるんですよね。練習も気が抜けない。何年かたつと、楽譜を見ると、多分ここはこうおっしゃるだろうと 予測できるようになります。この左手が歌えていないとか、この和音が消えているといわれるだろうと。
─ レッスンに持っていくまでの仕上がり具合もだんだんとレベルアップしていくということですね。
大澤:レッスンの中で、突然歌えなくなっちゃったり、リズム感が狂ったりして落ち込んでいると、 「もうやめ!」って先生がおっしゃり、レコードがぱっとかかるんです。とにかく色々な人の演奏を聴きなさいと。ショパンのエチュードだと15人くらいのレコードがあるんじゃないでしょうか。
─ レッスン室の壁一面にずらっと並んでいるのがレコードですか?
金子:そうです。特に同じ曲で、違う演奏家のレコードを聴かせて、 いろいろな捉え方があるということがわかるでしょ?その中で自分にフィットするものが出てくるはず。その上に自分のものを重ねる。1人の演奏カだけを聴くのは危険ですね。演奏家どおりに弾くということではないのです。この人はこう弾いてるけれど、あなたはどうする?って。だからレッスンは常に相談という感じですね。
大澤:あとは映像でも勉強します。ショパンコンクールのDVD等を見ると、 コンクール等は同じ曲をいろいろな人が弾いているので、指の角度、肘の使い方、 フレーズの歌い方、指使い等テクニック的なことも徹底的に見ながら確認し、先生とディスカッションしています。
─ 先生の解説が入るというわけですね。
3.環境を変えたレッスン
─ 金子先生は「ホールレッスン」をされていると伺いましたが?それはどのようなレッスンなのでしょうか?
平嶋:発表会やコンクール前には300人くらいの規模のホールを借りて、 3~4時間レッスンしてくださるんです。ホールを予め予約しておくと、先生がホールに出向いてくださり、大きな空間での音の出し方などを調整してくださるんです。緊張の良い練習にもなりますね。
大澤:なんといっても、本番前にフルコンでレッスンしてもらえるんです。低音と高音、音の飛び方などのバランスを整える作業をします。本番よりも緊張しますね。
─ 小学生なども、ホールレッスンされるのでしょうか?
平嶋:もちろんです。小学校のうちからこういう体験ができます。
─ コンクールに出場される生徒さんも多いと伺いましたが?
金子:ピティナのコンペティションは大半の生徒が受けています。
私からも人前での演奏の機会ということで、コンクールを勧めますが、生徒が見つけてくることも多いですね。
─ そのような中で、レパートリーはどのように広げて行くのですか?
大澤:コンクールの曲をやってるだけで、みんな勝手にレパートリーが広がって行きます(笑)年に2、3本受けているのではないでしょうか?コンクールに参加しているお蔭で、いろいろなところから声がかかり、来年はコンチェルトを弾く機会に恵まれました。
石綿:私も受験の準備の頃、特別受験だからというわけではなく、数ヶ月毎にコンクールに参加していく中で、知らない間に入試が来てしまったという感じです。的確なプログラムに乗って。コンクールを受けつづける中で、受験に必要なレパートリーを広げていったということでしょうか。
4.教室は先生と生徒のコミュニティ
─ 金子先生の教室には、立派なホームページがありますが?
金子:大澤くんが作ってくれたんです。特にレッスン日記は、彼のアイデアで、私と生徒さん双方向の交流が生まれてるわね。
大澤:普通は門下が一同に会する機会は年に数回と少ないですが、どなたかがコンクールに入賞されたというニュースが掲示板に載ると、お披露目演奏会やりましょうっていうような、生徒側から勝手に企画が上がってきたりします。ホームページで他の生徒さんが頑張っているな、ということがわかるので、自分も頑張ろうという気持ちになります。
大澤:他の生徒さんのレッスンも自由参加なんですよ。平嶋さんも小さい子のレッスンを
全部ご覧になって、熱心に研究されています。
平嶋:私が音大に入って、ピアノを教え始めようとしているとき、金子先生が「まずうちに見学に来なさい」とおっしゃってくださいました。1日中先生の横について、ずっと生徒さんのレッスンを見学しました。小さい子の教え方なんて、なかなか見る機会がないので本当に助かりました。
─ 教室全体が、熱気に溢れ、同じ方向に向かって走っているという感じですね。
5.先生との絆は心の支えです
─ 長く金子先生に師事されているお二人にお伺いしたいと思います。今までのレッスンの中で印象的だったことは?
平嶋:指導者検定の受験で一度挫折をしまして、ピアノが弾けなくなった時期がありました。その時周りは腫れ物をさわるように「大丈夫?」とか「がんばってね」とか言うのですが、金子先生は、「あなたおかしいんじゃない?」とはっきりおっしゃってっくださって(笑)自分を見失っていた時期に、先生に指摘されたことで冷静に自分を見つめ直すことができました。
金子:そういう時は、私自分の話をするわよね。私もこういう事があったのよって。だから納得してくれるみたい。
平嶋:金子先生は人生の先輩としても、もう頭があがりません。
─ 石綿さんは受験の時期に入門されたそうですが?
石綿:私は実際に教えていただいたのは2年間だけだったのですが、芸高に入ってからも、厳しい環境の中でくじけそうになった時、「先生だめーー」って金子先生のところに駆け込んでいました。そのとき、「こうじゃなきゃだめよ」というアドバイスをもらうと、「ああそうか、こうしてみよう」とすーっと心のもやもやがとれ、また頑張ろうという気持ちになれました。心の支えですね。 厳しいことを言われても、私のことを思っていって下さるというのがわかるので、先生のところで泣くようなことは一回もなかったです。内容的には、非常に厳しいことをおっしゃるのですが(笑)
─ 信頼しているからこそ、ご注意の言葉が心に響くんですね。