ロンドンレポート

英国王立音楽院『ミュージック・イン・コミュニティ』第3回

2011/03/03
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英国王立音楽院『ミュージック・イン・コミュニティ』第3回~音大ミュージアムとのコラボレーション
Family Play Dayの看板
Family Play Dayの看板

音楽家になるために必要不可欠として英国王立音楽院(ロイヤルアカデミーオブミュージック)のカリキュラムに取り入れられた『ミュージック・イン・コミュニティ』。学生演奏家のグループで地元の小学校を訪問する形に加え、音大の中や外部の施設を使ったワークショップも開いて、一般の希望者も参加できる機会を作っている。今回は音大併設のミュージアムとの、次回は身体表現の専門家とのコラボレーションのワークショップの様子を紹介しよう。

--- イベント情報---
名称:ファミリー・プレイデー 「メンデルスゾーンと一緒に妖精の曲を作ろう」
日程:土曜 10:30-12:00(5-8歳)/14:00-15:30(8-11歳)
場所:英国王立音楽院(ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック) ミュージアム内 ピアノギャラリー
対象:一般 5-11歳の子どもとその保護者
参加費:無料

アカデミーのミュージアムでファミリーワークショップ
アカデミーで開催された学校ワークショップ
アカデミーで開催された学校ワークショップ

今回のファミリー・プレイデーが行われたのは、アカデミーのミュージアムの1フロア。ミュージアムはアカデミーのすぐ隣の建物なので、学生やスタッフも行き来しやすく、また一般の親子がアカデミーやミュージアムに足を運ぶきっかけにもなる。1階にはショップと特別展示スペース、2階は弦楽器、3階には鍵盤楽器のコレクションが常設展示されている。さほど大きなスペースではないが、様々な時代の貴重な楽器を間近に見ることができ、また2,3階には修理工房が併設されており、ガラス越しに見ることもできる。

午前中は5歳から8歳、午後は8歳から11歳の子どもとその保護者が、鍵盤楽器フロアに8組ずつほど集まった。両親ともに参加している家族や、友達の家族と参加する姿も見られる。スクエアピアノやトルコ行進曲用のペダルつきのピアノなどを少し脇に寄せた床に、親子、そしてワークショップリーダーのジュリアン・ウェスト、今回の参加学生5名が混じって円を描いて座った。胸にネームタグを貼っている。アカデミーの建物には来たことがある人はいるが、ミュージアムは初めてという人がほとんど。「ここに来るまでに何があったか教えて?」と聞くと、「ピアノ!」「ホルン」「作りかけの楽器があった!」などと、既に子どもたちはこの場所に興味津津の様子。

参加者の中には、ピアノやチェロ、ドラムなど何らかの楽器を始めている子が、特に午後の大きい子のグループには多くいた。友達に誘われて初めてという人から、いくつもファミリー向けイベントに参加している人、アカデミーの学生に楽器を習っていて情報をもらった人、何か楽器を始めさせようかと思うが、音楽が好きかどうか、どんな楽器に興味を示すのかまだ分からないので、音楽を間近に体験できる機会をインターネットで探していて見つけたなど、熱心な親も多かった。


自筆譜の図像とハンドチャイムで音楽を想像してみる
チューバを覗き込む子ども(Christopher Placeのチルドレンセンター)
チューバを覗き込む子ども(Christopher Placeのチルドレンセンター)

今回のファミリー・プレイデーのテーマはメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』。ミュージアムがその自筆譜を公開中の企画展示『オーケストラの魔術師』との連携企画だ。まずはジュリアンがピアノで序曲の冒頭部分を弾いてみる。「これは、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』というお話をもとに作られた音楽。今まさにお話が始まろうとしていて、お話の雰囲気を作っているところなんだ。劇場に行ったことある人いるかな?じゃあ、ライトが消えてこれから始まりそうな雰囲気って、わかるよね。」と話しだす。

「今私が弾いたところは、本当はオーケストラと言ってたくさんの楽器の人たちが弾くのだけれど、その楽譜がどうなっているか、見てみる?」とミュージアムコレクションのメンデルスゾーンの自筆譜のスライドを映す。「作曲したメンデルスゾーンが自分で書いたものが残っているんだよ。どう見るかわかるかな?まず一番左に演奏する楽器の名前が書いてある。ほら、オーボエ、クラリネット、トランペット...。そして左から右の方へ、上下が同時に起こっていくんだ。」と楽譜を指しながら説明する。楽譜の図像で見ると、最初にいくつかの楽器が同時に始まり、途中で別の楽器が加わったり移ったりするのが目で見て分かる。

「最初の所、どんな雰囲気の音か演奏してみたい?」と聞くと積極的な子がさっそく手を挙げる。ジュリアンはそれぞれ1つの音がするハンドチャイムを渡し、1つずつ音を鳴らしてみる。「これが同時に鳴るとハーモニーになるんだよ。」と最初の4つの和音を順にみなで奏でてみる。「これはお話を話し始めようとしているところ。『むかしむかしある所に...』ってね。どんな感じで始めたい?」と聞くと、ある子が「静かにやさしく始める」と答え、なるべくやさしく和音を奏でてみる。「ボーン」とやわらかい和音が響く。「どう?お話が始まりそうな感じがする?」と言うと、みんなうなずく。


何で音楽があてられたのかな?

「『真夏の夜の夢』には、人間と妖精が出てくるんだ。中でも妖精パックは、すばしこくていたずら好きで、人間に魔法をかけちゃうんだ。」と言って、妖精の絵のスライドを見せる。「それから、森の中で眠る静かなシーンや、盛大な結婚式のシーンもあるよ。」と森の風景とダイアナ妃の結婚式の写真を見せた。「これから聴く音楽が、どのシーンのものなのか、あてられるかな?彼らが弾いてくれるよ。」と、学生演奏家たちを紹介。

フルート、ヴァイオリン、フレンチホルン、クラリネットの4名が、まず1つ目の曲を演奏する。軽快な感じの音楽に、子どもたちは「妖精」と「結婚式」に意見が分かれて決めきれない。「3つ全部聴いたら分かるかもしれないね。」と次の曲へ。今度はホルン1人で静かでゆったりとした音楽を演奏。子どもはすぐに手を挙げて、「森で眠っているところ!夢を見ている感じ」と答える。3曲目が始まると、子どもたちは一斉に「あっ!」と表情を明るくし、母親に「結婚式で聴いた!」と耳打ち。おなじみの結婚行進曲だ。さて、それで1曲目は「妖精」と分かったわけだが、もう一度聴いてみることに。

ジュリアンが尋ねる。「どうしてこれが妖精の曲だってことが分かるのかな?何か気付くことはある?」すると子どもたちからは、「小さなステップがたくさん聞こえる。」「いたずらっぽく飛び回ってる感じがする。」という意見。フルートで吹いてみると、確かに速くて短い音がたくさん出てくる。「音は大きかった?小さかった?」と聞くと、「小さかった。」と。「そうだね、メンデルスゾーンは妖精の様子を、速くて短いたくさんの音と、小さくて軽い音とを使って表したんだね。」とジュリアン。

「それに比べて、結婚行進曲の方はどうだった?大切でわくわくするように聞こえるのは何でかな?さっきと比べて速さはどう?」と尋ねると、ダイアナ妃の写真を指して「ゆっくり。だって、ドレスで堂々と歩くから。それに、勝利の音楽みたいにお祝いしている感じがする」と言う。「それはきっとこの音のことだね。これはファンファーレと言って、あなたが言ったように、戦いに勝って帰る時にトランペットで吹いていたんだよ。」「じゃあ、眠りの音楽はどうしてすぐに分かったの?」と聞くと、「静かだった」「すごく優しい感じ」「ゆっくり」「私が眠くなったから」などの答え。「そうだね。たった1人でホルンが優しい音で、長ーい音をゆーっくりと吹いていたね。」


楽器と演奏の仕方を実験しながら音楽を作る
ミュージアムガイド
ミュージアムガイド

ここからは、今のイメージをヒントに、学生たちと3つのグループに分かれて、3つのうち好きなテーマの音楽を自分たちで作ってみることに。このグループでは、大学院生が指揮を執り、メンバーの希望の結果、妖精の音楽を作ることに。「どうやったら妖精の音楽らしくなるかな?」とリーダーが聞くと、子どもや親から「小さい音」「ステップみたいに短い音と休みをたくさん入れる」とアイディアが出る。「どうやったらここにある楽器を使って、音楽で表せるかな?」と聞くと、「たくさんの楽器で、短い音をすごく静かに鳴らす」「低い音より高い音の方が似合う気がする」と。「じゃあ、いいなと思う楽器を手にとって、どうやったら高くて速くて静かな音が出せるか、実験してみて!」と投げかける。

「あっ、こんなのは?」とマラカスを小刻みに振ったり、ドラムもバチの代わりに指先で優しく音を出してみたり。「ドラムやマラカスも、陽気で大きな音にしか使えないわけじゃないんだね。色んな音の出し方があるね。よく発見したね!」と学生が褒める。学生たちの楽器でもトライ。選んだハンドチャイムの和音をヴァイオリンで奏でてみると、子どもから「ちょっと悲しそう。もっと速く弾けない?」とリクエスト。ヴァイオリニストは「じゃあ、こんな弾き方はどう?」とトレモロやピチカートをやってみせ、子どもに選ばせる。

こうして素材が決まると、今度はどうやってそれらを演奏するかだ。「全部一緒に鳴らす?」と聞くと、「ううん、少しずつ始めて増やしていって、最後はまた静かになる。」というアイディア。「最初はどの楽器で始める?」と聞くと、ヴァイオリンのトレモロとハンドチャイムを指名。「どう?オープニングによさそう?」とリーダーが尋ねると、他の子たちも「いいね!」と納得。「次はだんだんと増やすんだね。いいなと思う順番とタイミングで指名して。」と言うと、別の子が音を聴きながらシェーカー、ボンゴ、トライアングル、木魚と次々に指名していく。学生は模造紙に順番を書く。ヴァイオリンの学生が「私はさっきのままでいい?」と聞くと、「素早く飛び回るところだから、ピチカートに変えて」と希望。ヴァイオリンがピチカートでリズムを刻みだすと、ボンゴの子もそれにあわせてリズムを変えてきた。「いいね、よくヴァイオリンの音を聴いていたね。それで行こう!」ということに。全部加わって盛り上がった所で、終わり方を決める。「これはどう?」とある子がゴングを取り上げ、静かに3回ゆっくり鳴らす。「うん、妖精のパーティも終わって、元の世界に戻ったっていう感じでいいね。」と採用。


小規模でも関連性と定期性を大事に企画
アカデミーミュージアム入口
アカデミーミュージアム入口

40分程して各グループが集まり、お互いに披露。リーダーが指さしたり、大きさを身体で表したりするのを見ながら、先ほどの音楽を再構成していく。同じ妖精を選んだ他のグループも、別の楽器でまた違った音楽ができている。テーマは明かさずに最後に当てると、それぞれの音楽のポイントを抑えた後だけに、みんなぴたりと当たった。こうして1時間半で音楽を作って演奏するワークショップが拍手で終わった。「1階にスライドで見せたメンデルスゾーンの自筆譜が飾ってあるから、ぜひ実物を見て帰ってね!」と声をかける。

「アカデミーのミュージアムでは、過去にも年に一度などワークショップをやったことがありましたが、小規模でももっと頻繁にやった方がよいのではないか、また定期的にやることで、参加者も時期を予測できるのでいいだろうということで、各タームに1回ずつ、年3回やろうと企画しています。」とミュージアム担当のフィオナが語る。「関係のないイベントでここに足を運んでもらうのではなく、ミュージアムのコレクションと絡めた企画をするようにしています。それでないと、他ではなくここでやる意味がなくなってしまうので。」と構想を語った。帰り際には、周りの古楽器を覗き込み、アルバイトの学生に演奏してもらっている姿なども見られた。

スケジュール例
10:30-11:10 イントロ&全員で『真夏の夜の夢』の音楽のワークショップ
11:10-11:45 グループ別に音楽づくり
11:45-12:00 集まって発表

(アカデミーの『ミュージック・イン・コミュニティ』の理念については、こちらの記事を参照

取材・執筆:二子千草


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