今こそ音楽を!第3章 脳科学観点から~澤口俊之先生インタビュー(2)
ピアノを習うと脳のワーキングメモリがぐんと伸び、それが人生の成功に関係する様々な基礎的要因と関わるという。では、なぜ一般知能が一時的ではなく、恒常的に上がるのだろうか・・!?澤口俊之先生インタビュー第2回目も必見!
ピアノの稽古をすると語彙が増えるという論文もあります。左右の脳を繋げる脳梁という神経束の一種がありますが、ピアノをすると言語に関係する神経束(軸索)が5倍くらい太くなります。音楽家にとっても前頭前野や頭頂葉だけでなく、この脳梁は重要です。さらに平衡感覚や感情や思考に関係する小脳や、記憶に関係する海馬も、ピアノ練習時間の総量を増やせば増やすほど機能的に良くなるというデータがあります。本来脳は抑制と活性のバランスで動いているのですが、ピアノの即興をする時も前頭前野や頭頂葉がダイナミックに活動しています。これらは創造性や社会関係などに関係しています。つまりピアノによって脳の構造が良い方に変わるのです。科学的に実証されているものの中で、ピアノほど良いものはありません。
形としては、恐らく古典的な稽古の仕方がいいと思います。楽譜を見ながらではなく、ちょっと先を見ながら弾く、やがては見ないで弾く。これはワーキングメモリに相当負荷がかかります。この形を崩さないで通常の稽古をして頂きたいです。子どもは2~3年、大人でも6年くらい続けてほしいですね。
ピアノを弾くことでADHD(注意欠損多動性障害)などの発達障害が改善されることも実証されています。以前重度の自閉症のお子さんを小学校の普通学級に入れたいというご両親の希望を伺って、ピアノを提案したのですが、半年後には言葉が増えてきて、小学校1年生で全く問題なくついていくことができました。その時はピアノだけでなくもう一つの訓練もしたので、何が一番効果があったのかは分かりませんが、ピアノができるお子さんにはお勧めしています。もしピアノ教室に障害児のお子さんが来たら、ぜひ彼らを受け入れて頂きたいです。最初は5分間座って弾くところからでもいいんです。
また一般知能が高いと、環境適応能力が高いので不登校になりにくいです。そのような能力を鍛えるにもピアノが1番良く、2番目は算盤、サッカーです。脳トレの中には良いのもありますが、面白くないと長く続きません。ピアノは上達していく面白さがありますね。また高齢者でも6年間くらい楽器を演奏すると、衰退している部分の脳の大きさが保たれます。
私は以前から、ピアノを小学校の必修科目にと提唱しています。開成中で1~2年生にピアノの授業があるというのは、ちょうどいいですね。(参考記事)まだ脳が変わる時期なので理に適っています。またピアノは空間性ワーキングメモリを鍛えるので、数学を解くための地頭を鍛える効果があります。
ピアノは脳を良い方向に変えるので、一般知能が高まると、勉強ができるだけでなく社会でも通用するでしょう。我々は勉強だけでなく、社会に出た後のことも重視しています。一般的に欧米では、欧米式IQが110以上で成功と言われています(ビルゲイツは140)。日本人は子どもが110くらいで平均値が高く、東アジアが世界で最も高いというデータがあります。
一般知能はGDPとも相関します。たとえば全米各州の一般知能平均値と年収平均値は相関しています。Googleでは入社試験で一般知能テストを導入していますが、一般知能が高いと地頭がよく、環境にも適応できて、コンピュータ経験がなくてもすぐに習得できてしまう。他の企業もそのようになっていく可能性があります。日本全体の一般知能が高まれば、日本全体のGDP、国力も上がるでしょう。その方法論は色々ありますが、楽しみながら長く続けるには、くどいようですが(笑)ピアノが一番いいです。
- 第1章:社会的観点から
はじめに 「社会は何を求め、音楽には何ができるのか」- 1.「表現する力」
表現したい本能は赤ちゃんから大人まで
表現様式を知った先にある世界 - 2.「文脈を読み解く力、創る力」
音楽家は優れた解読者でもある!?
体系的な学びは、他分野にも応用できる - 3.「本質を問う力」 リベラルアーツしての音楽~知識を知力に
リベラルアーツとしての楽器演奏~感覚を表現に
問いかけ体験して学ぶ、アクティブ・ラーニング - 4.「協働する力」 自分の役割を知り、他者とコラボレーションする
米大学AO入試で評価されることは
PISA世界学習到達調査に新たな指標 - 5.「世界とつながる力」
小さい頃から身につく異文化理解力・受容力
世界の音楽仲間に出会い、関わること
様々な世代と接すること - 6. 見えにくい力を評価すること
音楽や勉強での見えにくい力とは
音楽を含む全人的教育では、問いかけが鍵に
言葉になる以前の、感じる力
- 1.「表現する力」
表現したい本能は赤ちゃんから大人まで
- 第2章:歴史的観点から
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1. 古代・中世では、音楽を教養として
古代ギリシアの教養人=リラが弾ける人だった
中世では、音楽を大学教養課程として学んだ -
2. 近代では、音楽を専門&教養教育として(米)
ドイツからアメリカへ渡った音楽教育
ハーバード大でカリキュラム近代化・自由選択化へ -
3. 日本では、音楽を専門&師範教育として
日本に西洋音楽を導入したのは
近代から現代へ至る歴史の中で
大学音楽教育に音楽を取り入れる新たな動きも -
4. 民間が担ってきた教養としてのピアノ学習
指導者環境の変化によって、繋がり支え合う指導者
学習者環境の整備によって、動機づけが変わった
音楽環境はどんな学びの変化をもたらしたか -
3. 日本では、音楽を専門&師範教育として
日本に西洋音楽を導入したのは
近代から現代へ至る歴史の中で
大学教育に音楽を取り入れる新たな動きも -
4. 民間が担ってきた教養としてのピアノ学習
指導者環境の変化によって、繋がり支え合う指導者
学習者環境の整備によって、動機づけが変わった
音楽環境はどんな学びの変化をもたらしたか -
5. 専門と教養が融合する時~金子一朗さんインタビュー
1.音楽と数学はなにが似ているのか?
2.全員が弾く時代に、音楽の何を学ぶべき?
3.音楽・数学・歴史・全てを関連づけながら学ぶこと
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1. 古代・中世では、音楽を教養として
古代ギリシアの教養人=リラが弾ける人だった
- 第3章:脳科学的観点から
- 第4章:経済「音楽の見えない経済的価値とは?」
- 1. 暮らしの質全体を測るべき 日本国民は教養費・教育費にどれだけかけているか?
-
2. 自己成長~それは消費か投資か?
音楽を習う動機を7つに分類
人間には成長欲求がある
中高生・成人のステップ参加 - 3. 自己成長および社会との関係構築に
人間には繋がりたい欲求もある
社会への還元もステーション運営や社会貢献など
自己投資だと思える消費とは?自ら選び、自ら関わること -
4. 教養費を増やして医療費を軽減!?
教養・技能教育は1兆円、精神科病院は1.5兆円規模
高齢者×アートの取り組み、および社会的インパクト研究(英) -
5. 人的資本投資の21世紀~エコノミストに聞く
世界の新しい幸福度指標は「人」と「社会」
今現在の支出削減より、未来のための投資を -
6. 世界の文化費・教育費のトレンドは?
フランス×人間理解と能力開発
イギリス×全ての人にアートを&経済効果測定も
スウェーデン×民主主義社会の創造 -
7. 世界的に投資が進む人文学研究、音楽も力に
学際的研究が進むと、なぜヒューマニティーズが重要になるのか
ヒューマニティーズの音楽・芸術分野への応用
- 第5章:大学最新カリキュラム編
- はじめに
- 1. 音楽で思考法、実践力、創造力を養う~総合大学教養科目 慶應義塾大学~知識は実践してこそ!「身体知・音楽」
- 2. 音楽を深く学んだ社会人を育てる~総合大学音楽学部・音楽専攻
青山学院大学~芸術の学びを糧に社会へ
フェリス女学院大学~音楽が心にある豊かさ
金城学院大学~3タイプの音楽家像を想定して - 3. 音楽の可能性をさらに掘り下げて~音楽大学
音楽大学 その1「東京藝大~スーパーグローバル大学創成支援認定校に」
音楽大学 その2「東京音楽大学~演奏と作曲を同時に学ぶ」
音楽大学 その3「昭和音楽大学~博士課程&短大社会人コース」
番外編 音楽で思考法や創造力を養う~国際バカロレア東京学大付中高
- 第6章:ライフスタイル&ボディ編
音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/