海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

今こそ音楽を!第3章 脳科学観点から~澤口俊之先生インタビュー(2)

2015/07/31
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第3章:脳科学的観点から
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澤口俊之先生インタビュー その2

ピアノを習うと脳のワーキングメモリがぐんと伸び、それが人生の成功に関係する様々な基礎的要因と関わるという。では、なぜ一般知能が一時的ではなく、恒常的に上がるのだろうか・・!?澤口俊之先生インタビュー第2回目も必見!

2-1. ピアノで脳の構造が良い方向に変わる

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ピアノの稽古をすると語彙が増えるという論文もあります。左右の脳を繋げる脳梁という神経束の一種がありますが、ピアノをすると言語に関係する神経束(軸索)が5倍くらい太くなります。音楽家にとっても前頭前野や頭頂葉だけでなく、この脳梁は重要です。さらに平衡感覚や感情や思考に関係する小脳や、記憶に関係する海馬も、ピアノ練習時間の総量を増やせば増やすほど機能的に良くなるというデータがあります。本来脳は抑制と活性のバランスで動いているのですが、ピアノの即興をする時も前頭前野や頭頂葉がダイナミックに活動しています。これらは創造性や社会関係などに関係しています。つまりピアノによって脳の構造が良い方に変わるのです。科学的に実証されているものの中で、ピアノほど良いものはありません。

形としては、恐らく古典的な稽古の仕方がいいと思います。楽譜を見ながらではなく、ちょっと先を見ながら弾く、やがては見ないで弾く。これはワーキングメモリに相当負荷がかかります。この形を崩さないで通常の稽古をして頂きたいです。子どもは2~3年、大人でも6年くらい続けてほしいですね。


2-2. 発達障害者や高齢者にも効果を発揮する

ピアノを弾くことでADHD(注意欠損多動性障害)などの発達障害が改善されることも実証されています。以前重度の自閉症のお子さんを小学校の普通学級に入れたいというご両親の希望を伺って、ピアノを提案したのですが、半年後には言葉が増えてきて、小学校1年生で全く問題なくついていくことができました。その時はピアノだけでなくもう一つの訓練もしたので、何が一番効果があったのかは分かりませんが、ピアノができるお子さんにはお勧めしています。もしピアノ教室に障害児のお子さんが来たら、ぜひ彼らを受け入れて頂きたいです。最初は5分間座って弾くところからでもいいんです。

また一般知能が高いと、環境適応能力が高いので不登校になりにくいです。そのような能力を鍛えるにもピアノが1番良く、2番目は算盤、サッカーです。脳トレの中には良いのもありますが、面白くないと長く続きません。ピアノは上達していく面白さがありますね。また高齢者でも6年間くらい楽器を演奏すると、衰退している部分の脳の大きさが保たれます。


2-3. 日本全体の一般知能が上がると、GDPも上がる

私は以前から、ピアノを小学校の必修科目にと提唱しています。開成中で1~2年生にピアノの授業があるというのは、ちょうどいいですね。(参考記事)まだ脳が変わる時期なので理に適っています。またピアノは空間性ワーキングメモリを鍛えるので、数学を解くための地頭を鍛える効果があります。

ピアノは脳を良い方向に変えるので、一般知能が高まると、勉強ができるだけでなく社会でも通用するでしょう。我々は勉強だけでなく、社会に出た後のことも重視しています。一般的に欧米では、欧米式IQが110以上で成功と言われています(ビルゲイツは140)。日本人は子どもが110くらいで平均値が高く、東アジアが世界で最も高いというデータがあります。


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一般知能はGDPとも相関します。たとえば全米各州の一般知能平均値と年収平均値は相関しています。Googleでは入社試験で一般知能テストを導入していますが、一般知能が高いと地頭がよく、環境にも適応できて、コンピュータ経験がなくてもすぐに習得できてしまう。他の企業もそのようになっていく可能性があります。日本全体の一般知能が高まれば、日本全体のGDP、国力も上がるでしょう。その方法論は色々ありますが、楽しみながら長く続けるには、くどいようですが(笑)ピアノが一番いいです。


INDEX

菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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