会員・会友レポート

<インタビュー>エリザベート・ヴァイスハーレ先生を尋ねて/犬飼ヤンコウスキー和子先生

2005/05/12
エリザベート・ヴァイスハーレ先生を尋ねて

 ウィーン時代、梯剛之さんを指導した先生として知られるエリザベート ドヴォロジャック ヴァイスハーレ教授(Prof.Elisabeth Dvorak Weisshaar)。子供から音大生まで幅広く指導し、多くの名ピアニストを育てたヴァイスハーレ教授に、当協会正会員の犬飼ヤンコウスキー和子先生がインタビュー。お二人はウィーン国立音楽大学のリヒャルト・ハウザー教授のクラスで一緒に勉強した仲間で、毎週公開レッスンで会っていたそう。今も学生時代の愛称「シシー」と呼んでいる。
今回は子供のピアノ教育において大切なことを、インタビューして頂いた。「音楽で大切なのは『3K』」― シシー先生の芸術性に富む指導方針に注目したい。



ウィーン市内を一望
◇ 教え子である梯剛之さんが1998年ロン・ティボー国際コンクールで第2位を受賞されまして、その後日本にいらっしゃったのですよね。

―そう、東京で Takashi Kakehashi がオーケストラとピアノコンツェルトを弾いた時には、皇后陛下も出席してくださいました。コンサートの後にホールの特別室へ案内されて、美智子妃と英語でお話ししました。とても丁寧な感謝のおことばをいただきましたよ。美智子妃もピアノを弾かれるのです。

◇ それは良かったですね。梯さんは12才頃からウィーンに住んで(日本の小学校卒業後、ウィーン国立音楽大学準備科に入学)レッスンを受けたそうですが、先生との相性が良かった例ですね。日本人の生徒さんは今何人くらいですか?

ヴァイスハーレ先生と、4歳か
ら習っている和久井冬麦さん

―4人です。オーストリアのコンクールで1位になった和久井冬麦さんは5才から見ています。4人ともたまたま学校に入学してきたので、私が教えているわけです。
小さい子供はまだ何をしたいかわからないでしょう。私も預言者ではありません。ですが例えば、ステージであがらない性格かどうか、いい指をもっているか、音楽的才能があるか、すぐ理解できる頭脳をもっているか、正しいリズム感があるか等、いろんな要素がそろってピアニストになれる可能性があるわけです。
子供が14才くらいになると自分で考えだします。「これが私の一生でしたい事なのだろうか?」 私の生徒ですごく才能があり、センシブルな弾き方をする子がいました。残念ながら彼女はあがり症なのでステージで演奏するのが苦手です。どんなに上手に弾けてもピアニストには向いていません。私は14才くらいまでにピアニストとしての土台をつくり、あとは子供自身に何をしたいかを決めさせます。

◇ 梯さんの場合は、迷いなしにピアノだけに進んだのでしょうね。ところで私はハウザー先生のレッスンから学んだことの一つに、10才~11才の子供の教え方があります。

―私がハウザー先生から学んだ事は、レッスンで他の人が弾いている時に突然「シシー、今の演奏で何が間違っていた?」と聞かれる事です。そしてディスカッションが始まるのです。今私が公開レッスンする時も同じように、「今の演奏、何が間違っていると思いますか?」と他の生徒達にききます。そうすると日本の生徒たちは他の人を批判するのは失礼だからと思って、なかなか話しません。これは他の人を批判することではなく、他の人のレッスンをちゃんと注意してきいているかどうかをみているのです。

◇ レッスンは6時間位皆で集っていたから、いつまでも集中して聴いているのは大変でしたよね。でも後で考えるとすごく役に立っている。どういう人にどの曲を与えるとか。あなたも子供をピアニストのように弾かせるのが得意ですね。

モーツァルト「ドン・ジョバンニ」で柿落し
が行われたオペラ座

―私はピアノを弾く場合に大切なことを3つにまとめました。それは「3K」、すなわちKennen(知識)、Können※(演奏能力)、Kunst(芸術)です。 Kennenはたとえば朝にKonbanwa(こんばんは)といわないでOhayogozaimasu(おはようございます)ということ。これは知っていないと出来ません。そして弾ける技術がいります。中でも最も大切なのはKunst(芸術)。オクターブをひく芸術、三度をひく芸術、響かせる芸術、自然であること、美しさを見つけて認識することです。

◇ハウザー夫人がいつかこんな事をいっていました。「シシーの子供の生徒さんたちの演奏を、目をつむって聞いていると大人の卒業試験を聞いているみたい。」どのように子供たちを教えるのですか?例えばどのように7才の子に、Chopin : Nocturn cis moll の感情をわからせるのでしょうか。

美しいドナウ河の紅葉

―それはレッスンを聞いてもらわないと説明できないけれど。何でも私が奏いて教えます。生徒がこの曲を弾きたいといってきたら、私もその曲を練習します。

◇なるほどそうすれば可能ですね。いつかあなたの15才の生徒さんが リヒャルト・シュトラウス: ブルレスケ ニ短調AV85を、また13才の子がラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲をコンツェルトハウスで堂々と弾いていました。あんなに弾ける子の演奏を聞くのは、聴衆にとって大きな驚きと喜びでした。今日はお話しをどうもありがとう。

<追記>Weisshaar先生の日本人生徒さん達に、ウイーン生活の利点をきいてみました。

●和久井冬麦さんのお母さん。「国立の音楽学校や市立の音楽学校の学費が年に約30ユーロと安いのがありがたいです。それにいろいろコンサートをしたり、ムジークフェラインで演奏会があったり、ウィーンの方々に聞いていただけるチャンスが多いのがいい経験です。」

●10才から家族全員でウィーンに移り住んだ生徒の一人、仙波瑠璃子さん。「最近ベートーヴェンの家のすぐ近くにある大きな教会でピアノコンツェルトを弾きました。ベートーヴェンも聞いていた鐘の音をきいたり、教会の響きや雰囲気に触れたり、本当にウィーンならではの素晴らしい経験が出来てよかったと思います。」


ピティナ編集部
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