今回から「読譜のポイント」に入ります。
誰もが「ピアノを弾けたらいいな!」と願うと思いますが、楽譜を読む事が出来ないとピアノは弾けません。
音楽にたしなみがない人の中には、楽譜を難解な暗号文のように感じてしまっている人がいるようです。ピアノを習い始めても、読譜を難しいと感じてしまうと、読むのが面倒⇒練習したくなくなる⇒レッスンに行って怒られ...というような、悪い循環に陥ってしまうことになります。
読譜は「得意」になりましょう! ピアノが上達する近道です。
読んだ内容を直接指につなげられる回路が出来れば、楽譜を音にしたくなり「次の曲はどんな曲だろう?」と弾いてみたくなります。色々な曲にたくさん出会って欲しいです。
講座などではたびたびご案内していますが、そのために私は「即読譜法」をお勧めしています。このやり方であればピアノを弾いたことのない方も、簡単に弾けるようになります。初めてピアノに触る方が、2、3回のレッスンで、ソナチネを弾く事が出来たこともあります。魔法みたいですが、ありえます。そして読譜嫌いを救ってあげてください!
ソファミファソ、ドレミレド、ドレドレド、ドミソミド、ドレミファソ、 ソミレミド、ドレドミソ、ソソソファミ、レソファソレ、ミファソミド、
どれも、よく耳にするモチーフで歌いやすいものですよね。歌いやすいと言うことは、続く音どうしの音程がそう離れていないからだと思います。上記のメロディーで、4度以上の音程は、1箇所しかありません(レ‐ソ)。
実際の曲、ソナチネアルバムの1巻1番から10番までを調べてみました。89.7%が、1度から3度までのつながりで出来ているメロディーでした。(この調査では一オクターブは「同じ音」として扱った方が良いと考え、1度としています)
曲の約90%は、1度から3度まで出来ています。ということは、鍵盤上では、同じ音か、隣か、一つ飛ばしの鍵盤を押さえれば、90%弾けるということです。(上か下かは判断しなければなりませんが)
1度-3度を認識して即、指の動きにつなげられ「90%は初見で弾ける!」というのが即読譜法です。
今まで「ト音記号の一番下の線の音は、「ミ」だから、鍵盤の「ミ」の場所を弾きます」などとこだわり過ぎて、一音一音アルファベットを唱えるような感覚で楽譜を見てきた人が多かったと思います。特に幼い子供にとって、どれも同じように見える玉を一つずつ覚え、それがわからなければ弾けないと思い込み、その結果として、難解なものになってしまっているのではないでしょうか?
そして、一音一音が正しく弾けても、一つのモチーフ=言葉として認識されなければ音楽的には聴こえません。初めてひらがなを読む子供の棒読みのように「き、よ、う、は、 よ、い、て、ん、き、で、す」のような感覚では、まったく美しくなく、意味もわかりにくくなります。レガート奏法はピアノ演奏で最も難しいことの一つですが、レガート奏法が出来ない原因は、読譜の仕方にもあると思います。
音程の、1度から3度までをすばやく認識すると、それによってできているモチーフに敏感になります。そして、同じモチーフなどを見つけられるようになると、構成力を身につけることにもつながり、より弾きやすくわかりやすい音楽が生まれると思います。
次に必要なのが「1度から3度までを、即見分ける!」ことです。
これには、線と間(かん)の音符を見分けられる事が肝心です(その見分け方は最初にカードなどを使って練習すると良いです)。
同じ線(間)上の音符が1度=同じ指、隣同士の線間の音符が2度=隣の指、隣同士の線線(間間)が3度=ひとつ飛ばしの指(1と3,2と4など)と、音程を見た瞬間指が動くようになる事が理想です。
ある程度ピアノを学んできた人が読譜に困っている場合の指導法をご紹介しましょう。ある曲の楽譜の中で、2度の音程だけを拾い出し、青い線で音と音を結んでみてください。そこは「青信号」の意味で「どんどん隣に進んでください!」ということです。ハ長調の曲ならそのまま弾けるはずです。意外と「2度」=「音階」は多いのです。
「何だ、弾ける!」「意外に簡単」と思わせればしめたものです!
音を音名に変えなくても、弾け、実際には、正しい音名の音を弾いているわけです。メロディーが聴こえてくるはずです。
楽譜上の音名はもちろんいずれ知らないといけませんが、「知らなくても弾ける」ということも知っておくと気が楽になります。聴いたことのあるメロディーが簡単に鳴らせるようになると嬉しくて、読譜がとても楽に感じるはずです。
導入の時期には音程読みと一音読みを徐々にこなして、日本語の読み書きと同じく、誰もが楽譜に親しんで欲しいものです。そして、簡単に音を出せるようになるぶん、その他の事に神経をまわすことができます。楽譜から読み取れる内容について想いをめぐらし、より良い音楽を奏でて欲しいのです。
ピアノを習っている全ての人が読譜を得意とし、喜んでいろいろな曲に挑戦してくれると良いなと思います。
即読譜法で育ったある年長さんが、一週間でブルグミュラー25の練習曲を全部練習してきました。「どこかで聴いたことのある曲」が弾けるようになってとても嬉しかったのだそうです。
ところがその時の演奏はあまりに考えがなく、ただ弾くだけだったので、3曲ほど弾き進んだところで「やっぱりチビちゃんにはこの曲は無理だったのね。もっとステキに弾くにはもう少し大きくなってからかな?」と、弾くのをやめさせました。
そして、そのレッスンの終わり頃、お母様から「実は全部弾いて来た」と聞いてびっくり!
改めてピアノに向かわせると確かに弾ける!「即読譜法」をそのまま実行してくださった結果のすばらしい読譜力です。しかしあまりに幼くて、意味はわかりません。でも自分が出している音が知っている曲で、嬉しくて次々弾ける、ということに興味をもったのでしょう。残念ながら「どう弾いたら美しいか」ということには思い至らない年齢だったのですが。
彼女は、ほとんど何の難しさも感じずに、楽譜を次々音に出来ます。年齢が上がり、取り組む楽譜が難しくなった時、それはとても強みになります。中学生になった頃には、ショパンのスケルツォとバラードを1曲ずつ、同時に音取りしてレッスンに来るまでになりました。音取りに時間がかかってしまうと、とても忙しい中学生の生活の中では、なかなか楽しいピアノとはならないと思います。もちろん、今では「チャラ弾き」を脱し、考えてピアノを弾くようになってきていると思います(笑)。
武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。
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