過去10年間のニュースレターを紐解きながら、何が海外に伝わっているのかをまとめてみました。
ピティナでは毎年指導者検定の見直しや、新しい教育方法の研究・開発などが行われている。たとえば指導者検定は、全面・一部改訂(2008年、2009年、2012年)、演奏力重視への変更(2014年)を経て、3年毎ライセンスになったこと(2015年)を報告した。4つの技能(Teaching, Playing, Writing, Report)を万遍なく高めること、ステップや検定などで指導ポイントがつくこと、指導者にもパスポートがあること、そして3年毎に更新することによって継続的に指導力向上へ繋げていくこと、これらは日本ならではの「指導力とは何か」を多角的に可視化する試みといえるだろう。
また指導者が能動的に学んだり、ステージで発表する場が増えた。セミナーを年間500か所以上開催、リポート提出数も増加(2014年)、レッスン見学ツアーの開始・アクティブラーニングの促進(2009年、2015年)、ピアラーニング、指導セミナーポスタープレゼンテーションの実施(2013年、2014年)、音楽総合力ワークショップの開催・学際化(2012年、2014年)などが挙げられる。それに伴い、コミュニティブログは年間67万pv超え(2015年)、情報共有意識も高まっている。こうした一連の流れはステップ・ステーション活動普及のほか、「指導者もステージに」(2008年トップニュース)も大きな契機になっているのかもしれない。
また演奏を支える理論学習として、アナリーゼの普及(2008年、2011年)やピアノ曲事典に鍵盤音域表示など(2014年)、音楽教育現場に貢献する脳科学研究やITツール開発(2012年)も紹介した。
さらに最近の傾向として、若手指導者&ピアニストの活躍(2015年)も目覚ましい。
音楽がもつ資源、一人一人の指導者がもつ資源は、とても豊かである。ピティナの存在意義はそれを掛け合わせて、相乗効果を生み出すことにある。
演奏者の視点からいえば、連弾やアンサンブルである。2015年はデュオ部門再編成や2台ピアノ協奏曲カテゴリ新設などについて、「チームワーク」というテーマでご紹介した。伴奏ピアニスト紹介(2007年)も続行中である。
では指導者の資源はどのように伝わっているのか?まずは指導者一人一人を紹介し、ピアノ学習希望者と繋げる先生紹介オンラインサービス。1998年に開始され、2014年には斡旋数7,000件を超えるまでになった。特に2014年は指導者情報の詳細化と、ユーザーからのフィードバック機能を付加したことにより、サービスがより利用しやすくなったことを報告した。また先輩会員が新入会員にきめ細かくアドバイスするティーチングカルテを導入(2014年)、新入会員がより安心して活動に取り組める体制作りがなされている。
また指導者にとって、楽器や施設(ピアノ、教室、ITなど)、演奏力、企画・運営力なども資源である。海外の指導者にオンラインでアドバイスをもらえる第二指導者POSTシステム(2015年)、コンクール出場者などにピアノを貸し出すピアノルームシェア(2014年)などが挙げられる。日本の運営能力の高さは海外でも評判だが、コンクール当日、ステップ当日の流れを紹介したこともある(2003年)。
独自性・独創性は、まず自分自身を見つめることから。ピティナは1966年に邦人作品を広めるために創設され、1976年第1回コンペティションから邦人課題曲を採り入れている。邦人課題曲の審査プロセス、海外で演奏された事例、公開録音コンサートでの邦人曲プロジェクトなど(2008年、2015年)、ニュースレターでも度々取り上げている。
また全国各地の個性あふれるステーションシール(2013年)や、ステーションの企画・運営の工夫(2014年、2015年)を通して、地域から全国に発信する指導者ネットワークの活発さが伝わっている。
さらに、2014年に100回を超えた公開録音コンサートでは、「音源のない曲、少ない曲を録音する」という方針のもと、個性豊かなコンセプのプログラムが続出。またピアノ曲事典の開始(2004年)に続き、鍵盤楽器事典の開始(2015年)にともない、古楽器などの紹介・奏法研究などが進んでいることもアピール。さらに音楽と社会をテーマとした研究も広まりつつある(2015年)。
その他、指導者作曲による楽曲をミュッセで販売(2011年)、編曲ワークショップの開催(2014年)、指導ノウハウや研究の書籍出版(2014年、2015年)など、会員自らが手掛ける創作・研究成果についても言及している。
現在、生涯学習トレンドは世界的に広まっているが、日本でもすっかり定着した。ステップで「継続」が新しい価値になったことを報じたほか(2004年)から始まり、高校生が8年で50回継続表彰(2005年)、高校生親子4名が100回継続表彰(2015年)など、折に触れて継続表彰について紹介している。中でも、継続を可視化したピティナパスポート(2014年)は海外にはないもので珍しい。またステップには幅広い年齢層の方が参加しているが、95歳や80歳の参加者がステージで堂々演奏を披露したこと(2004年)、2~6歳のプレ初級参加者が増えたこと(2015年)など、いつでもどこでも誰でも参加できるステージという認識は、定着してきているだろう。
また今年コンペ40周年を迎えるが、初回から続けられているのが手書き講評である。これは2006年に紹介した。
社会との連携も年々増えている。国内では学校クラスコンサートや街中コンサート(2005年)、ステーションと学校の連携など。海外ではFACPやMTNAのカンファンレンス参加(2011年、2012年)、IFPSの創設(2013年)など、活発に外部機関との交流や連携を広めている。
バッハ音楽コンクールなどの「ピティナ提携コンクール」については、2010年トップページで報じた。コンクールの相互活性化だけでなく、ピアノ学習者が年間を通じてより学習成果を発表する機会が増えるように、との方針である。また音楽を通じた社会貢献「ピティナ・クロスギビング」では持続可能な社会支援が行われているが、2011年は東日本大震災の復興活動支援について、2012年はクロスギビングの活動全般について、それぞれトップページでご紹介した。こうした音楽を通じた地道な支援活動が、指導者賞褒賞などを通じて行われていることからも、資源が有意義に循環しながら生かされていることが伝わっているだろう。
また会員個人の国際コンクール入賞実績や審査員招聘、海外からのアーティスト・審査員招聘なども掲載している。昨今はSNSの発達などで、海外との距離は近づいている。一人一人の国内外での活動が活発になることで、音楽業界全体はさらに活気づいていくだろう。
ピティナ50周年を迎える2016年。どんなニュースが海外に発信されるだろうか、期待が高まる。