去る2月28日、東京で行われたミラノ国際ジュニアピアノコンクール派遣オーディションにおいて、幸運にも、娘の奏(8歳)が派遣者に選出され、6月11日から15日までイタリア・ミラノで開催された「第5回ミラノ国際ジュニアピアノコンクール」に参加してまいりました。
オーディションからの3ヶ月余り、永井礼子先生ご指導の下準備を進めて参りましたが、前泊地・東京への出発を翌日に控えた9日、娘が38.8度の熱を出すというハプニングが発生いたしました。一時は、渡航断念という選択肢も頭に浮かびましたが、「どうしてもミラノに行きたい」という娘の強い意向から、取りあえず10日は上京し、状態を見て最終判断することといたしました。
ミラノへの出発当日は、徐々に体調も回復し、イタリアへ出発。私達親子は初めて訪れる地ということもあり、大きな不安もありましたが、それ以上に大きな期待で胸がいっぱいでした。
食欲はないもののミラノ到着時(現地時間11日20:30)には平熱に戻り平気な顔の我が娘を見て、改めて、これからのイタリア滞在に心が高ぶりました。
ミラノでは、東京のオーディションからお世話になっていた黒田亜樹先生が、コンクールへのエントリーや滞在中の宿泊ホテルをご手配頂くなど、至れり尽くせりの準備をして下さいました。
宿泊したホテル「カ・ビアンカ」のホールにはグランドピアノが確保されており、ほぼ自由に使用できるという、絶好の環境が用意されておりました。
コンクール会場は、イタリアの作曲家、ジュゼッペ・ヴェルディが音楽家の老後のために私財を投じて建設された「カーサ・ヴェルディ」、使用ピアノは鍵盤の魔術師と言われた、ウラディミール・ホロヴィッツ氏が寄贈した「ベヒシュタイン」という、ヨーロッパの歴史の重みが醸し出される、特別な舞台が用意されていました。
娘にとって初めての海外でのコンクール。さぞかし緊張することと心配していましたが、全くの杞憂。本人は他の出場者や、お世話くださった開催事務局の方々の中に入っても臆することなくほぼ平常心の様子。準備した3曲を思い残すことのない内容で演奏できたようです。
その娘に参加したBカテゴリーで最高位(ASSOLUTO)の評価をいただくという思いもよらぬ朗報がもたらされました。
翌14日は各カテゴリーASSOLUTOによるファイナル審査が行われ、中国からCカテゴリーに出場されていたXing Changさん(12歳)とともに娘が大賞に選出され、併せて聴衆賞も受賞でき、二重の喜びを得ることが出来ました。
15日は、娘のほか、中国のXing Changさん、日本から参加しカテゴリーDで1位を受賞された西川響貴さん、山家有翔さんを含む6名の受賞者リサイタルが開かれ、たくさんの方々に3度目の演奏を聴いていただくことができました。
この夢のような3日間、審査員や多くの聴衆の皆さまから多大な評価をいただき深い感動を味わった娘にとって、かけがえのない財産を得たコンクールとなりました。
更に、黒田先生にお骨折りをいただき、受賞者リサイタル前の空き時間に、審査委員長、バルツァーニ先生の特別レッスンをセットしていただきました。イタリア音楽界を代表する先生の熱心なご指導は、娘にとってもう一つの貴重な経験になりました。
スケジュールの合間を縫って、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会のダヴィンチ「最後の晩餐」とスカラ座でのオペラ(当日は黒田先生のご子息も出演されていました。)鑑賞のほか、ミラノのシンボル、ドゥオーモやガッレリアを駆け足で見物し、ヨーロッパの歴史の重みを心に刻み込んでまいりました。
コンクール期間中は、開催事務局の皆さんにもご配慮いただき、心温まる「おもてなし」をいただきました。親子ともども大のイタリアファンになってしまいました。
今回、東京でのオーディションで評価をいただいき、ミラノ行きのチャンスを与えて下さったウララ・ササキ先生、ソニー・クラシカル レコーディング・プロデューサー武藤敏樹様、そしてミラノで物心ともに言い尽くせぬ程のサポートを頂いた黒田先生に心から感謝申し上げます。有難うございました。
また、本番の3日間は何かと緊張の連続でしたが、コンクールに一緒に参加されていた西川響貴さん,山家有翔さんご家族の皆様と行動を一緒させていただき大変心強く、安心して過ごすことができました。帰国後、再度お会いできる機会をと思っております。
わずか8歳の娘にとって、この1週間の出来事は余りにも刺激的で感動的なことばかりでしたが、これからも真摯にピアノと向い合い、沢山の方々にご指導を仰ぎ成長してくれることを願っております。
今回のミラノへの派遣にあたっては、福田靖子賞基金からのご支援にご配慮下さいましたピティナ専務理事の福田成康様をはじめ、沢田菊江先生、前回参加の下岡様、高尾様など沢山の方々から、多大なご支援をいただいたと伺っております。本当にありがとうございました。
私たち親子も、娘と同様、大きな感動を経験するお子様が次の機会に誕生することを願い、できる限りのお手伝いをする所存でございます。
最後に、この度のコンクール参加にご支援、ご指導、ご協力・お力添えを賜りました多くの皆様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
6月11日から16日にかけて行われました「ミラノ国際ジュニアピアノコンクール」(Concorso Piano Talents)で渡邉奏さんが演奏させて頂く機会を頂きました。
2月に東京で行われました「派遣オーディション」で思いがけず最優秀賞に選出して頂き、今回のコンクールに参加させて頂く運びとなりました。
数年前に当時ドイツに留学していました娘(ヴァイオリン専攻)がクレモナのAccademia Walter Staufferという財団にも在籍していました為、私にとりましてミラノは大変馴染み深い街でした。今回ミラノのコンクールの派遣という夢のようなお話を伺いまして、是非同行したいと思いました。 希望に胸を膨らませておりました所、幾つかの問題が起きました。
先ずはコンクールで弾く曲の選考という難題が最初でした。その理由は、奏さんは身体が特別に小さく(勿論手も極小です)弾ける曲を探すのがいつも大変なのです。
でも彼女が好むのは体格に反比例して、しっとりとした大人の感性が必要な曲ばかりです。選曲については黒田亜樹先生に御相談させて頂き、チマローザ:ソナタ第8番とフォーレ:即興曲嬰ハ短調、シベリウス:樅の木という3曲に決定致しました。
それからの3ヶ月はあっという間に過ぎ、明後日出発というその日、奏さんが高熱を出してしまうという第2の問題が起きてしましました。御家族や私の心配をよそに、奏さんの心には「行かない」という選択肢はありませんでした。
様々な薬を用意し、翌日ともかく東京まで行き様子を見る事にしました。 東京ではホテルで眠り続け、少しずつ熱も下がってきましたので11日には予定通り羽田空港よりパリ経由ミラノ行きの日本航空に搭乗しました。
機中発熱もせず、無事夜にリナーテ空港に到着した時は心からホッとしました。
夜8時になってもまだ空が明るい事に、奏さんや御家族は大変驚いておりました。
今回のホテルは、ピアノが3台もあり何時でも使わせて頂く事が出来る「カ・ビアンカ」を黒田先生がお手配下さいました。
わざわざ金額の交渉までして下さった事を聞き、感謝致すばかりでございました。
ホテルはナヴィリオという運河沿いに広がる地区にあり、ミラノの中心部とは異なりノスタルジックな雰囲気に包まれたエリアにありました。
娘が海外コンクールに参加する時には練習場所がない為、同行のピアニストはいつも苦労しておりました。
ところが、広い敷地にゆったりと建てられた「カ・ビアンカ」には音楽ホールがあり、24時間好きなだけ練習出来るという夢の様な環境でした。
奏さんがいつも通りに演奏出来たのも、こうした環境があったお蔭に違いありません。
ホテルでは一足先に到着されていた西川さん、山家さん達に色々な事を教えて頂いた事も力を与えて頂きました。
12日、奏さんが参加するBカテゴリー(8歳~10歳)の演奏は翌日ということで、私達は会場の見学に出かけました。 会場はイタリアの偉大な作曲家ヴェルディが音楽家の余生を音楽家らしく過ごせる様に作った養老院「カーサ・ヴェルディ」で行われます。 ホールにはホロヴィッツ氏が寄贈したベヒシュタインが置かれ、ヨーロッパらしい天上の高いよく響く素敵なホールです。 奏さんはこの様な素晴らしホールで弾かせて頂けるだけで有頂天になっておりました。
Bカテゴリー本番当日はホールでリハーサルも行われました。
ここでのエピソードになりますが、奏さんが演奏を始めた途端、係の女性が走り寄り、「あなたのカテゴリーは明日よ」と言われました。
きっと身体が小さかったからでしょう。私は彼女の年齢を告げ、カテゴリーBのリハーサル表も見せてやっと納得して頂きました。
初めての海外コンクールでしたが、堂々と情感たっぷりに三曲を演奏し、近くの席の方々から「涙が出た」「感動した」・・・とのお言葉を頂きました。
Bカテゴリーの中には高度のテクニックを要する曲を弾かれた方々もいて、やはり体格から生じる音の違いは否めないと思っておりました。
ところが審査結果発表となり、壁に貼られた成績表を見て大変驚きました。
そこにはコンテスタント全員の点数が書かれており、奏さんの欄には99点、そしてAssoluto(最高位)と記載されていました。
夢見心地の気分でその夜は黒田先生がお忙しい中、チケットの手配をして下さったオペラ「カルメン」を鑑賞するためスカラ座へ。黒田先生の御子息が合唱のメンバーとして参加されている姿を見まして、同じ日本人として誇らしくなりました。
翌14日には各カテゴリーの最高位から全カテゴリーの大賞を決めるファイナルが行われ、集中力を欠くことなく演奏する事が出来ました。審査員の先生方と会場の聴衆の投票により、奏さんは、カテゴリーCの中国のXing Changさんとピアノタレンツ賞(大賞)を分け合いました。ハードスケジュールの中、翌日は夜9時からGrattacielo Pirelliで授賞式と受賞演奏会が行われ、日本からのコンテスタント西川君、山家君、中国のXing Changさん、Matias Cuevasさん、Danilo Mascettiさんの6名が受賞演奏を披露しました。
黒田先生の撮られた映像を拝見しますと、何語で会話をしていたのか不明ですが、楽屋では和気あいあいとすっかり打ち解けた様子でした。
正に音楽に国境がないという事を痛感した数日間でした。
今回のコンクールにあたりまして全てに亘りサポート下さいました黒田亜樹先生、福田靖子基金よりご寄付下さいましたピティナ専務理事の福田成康様、沢田菊江先生、前回参加されました下岡さん、高尾さん、ピティナ本部の皆様の心強い支援を頂きました事、この場をお借りして深く感謝申し上げます。
今後もこのオーディションにより、一人でも多くの方が素晴らしい経験をされる事を心から願っております。