あなたのピアノの「行先」、考えてみませんか?ー「ピアノの行先」アンケート調査分析ー

現在あなたや、あなたの家族が大切に使っているピアノ。様々な理由で、いつかは手放すときがくるかもしれません。
ピアノを習っていたお子さんが独立されるとき。
引越しなどの環境変化でピアノの継続が困難になったとき。
ピアノ教室をなんらかの事情で閉業するとき。
想い出の詰まったピアノの「行先」を、決めていますか?

3月に実施したアンケート調査の分析をもとに、ピティナ会員の相続・終活関連アドバイザーを務める齋藤弘道先生にアドバイスをいただき、ピアノを愛する皆様の「ピアノの行先」に関するお悩みやその解決方法を深掘りしました。

アンケート実施期間:2024年2月22日~4月7日
回答者数:211(現役ピアノ指導者:184/現役ピアノ学習者・演奏者・その家族:19/過去ピアノ指導者:3/過去ピアノ学習者・演奏者・その家族:3/その他:2)

アドバイザー:齋藤弘道先生
みずほ信託銀行の本部にて遺言信託業務に従事し、営業部店からの特殊案件やトラブルに対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げ(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」「非営利団体向け不動産査定取次サービス」等を次々と実現。

大半のピアノの行先は「未定」

今回のアンケートではまず、回答者が「ピアノの行先」について現時点でどのくらい考えているかを調査しました。すると、67.3%の方が「まだわからない」と回答。回答者の多くが現役のピアノ指導者、もしくは現在もピアノを学ばれている方だったため、「ピアノを弾かなくなる時」のことをまだ具体的にイメージできていない傾向がうかがえました。

いつか自分が使わなくなるピアノ/既に自宅で使われていないピアノの行先は決まっていますか?(回答者数:211)

「ピアノの引き渡し方」のパターンを考える時には、「いつ引き渡すか」「現物のまま引き渡すか換金するか」「誰に託すか」の分岐点があります。まず下図の中から、ご自身がどのルートでピアノを引き継ぐのが理想的か、考えることが重要になります。

図
まずは、ご自身のピアノを引き継ぐタイミングと、その引き渡し方、託したい相手を想像して、整理してみましょう。この分岐によって、準備にかかる時間や、やるべきことが変わってきます。「何から始めればいいかわからない…」という方は、まずこの図から「自分のルート」を考えてみてください。
ピアノの「寄付」希望

ピアノの行先に関して「まだわからない」と回答した方のうち、「ピアノの行先に希望がありますか?」という問いには、「家族・親族」という回答が51.0%を占める一方で、ホールなどの文化施設・学校などの教育機関・病院などの福祉施設・地域のオープンスペースへの「寄付」という回答が合計で70.6%となりました。引継ぎ先の希望はまちまちで、具体的な寄付先は思い浮かんでいないが、漠然と「寄付したい」と考えている人も多いようです。

(ピアノの行先について「まだわからない」と回答した方へ)ピアノの行先に希望がありますか?(回答者数:143、複数回答可)

実際にピアノを寄付したことがある方の声をご紹介します。教室の生徒の保護者や、支部・ステーションのネットワークなど、身近な繋がりの中から寄付先を探すケースが多いことがうかがえました。

Voice
  • 生徒の保護者がお住まいの市に掛け合ってくださり、廃校を活用した福祉施設へ寄付することができました。寄付した当時は、ピアノが新しく施設に入ったことが話題になり、地域のメディアでも取り上げていただいたようです。ピアノは愛着や思い入れが強いものですから、どこかで誰かが大事に使ってくれるということがわかる形で引き渡したかったので、とても良い繋がりになりました。
  • 画家の夫の知人が、経営する個人美術館のイベントスペースにピアノを置きたがっていると知って、寄付することになりました。運搬はいつもお世話になっている楽器店に依頼し、調律は美術館側に伝手があるということで、お互い良いタイミングで、負担感なくお渡しすることができました。ジャズコンサートや歌声喫茶などが開かれているそうで、とても喜んでいただいています。
  • 母校に寄付で貢献できるならと考え、出身大学のピアノサークルにピアノを寄付しました。寄付した際は授与式を開いていただき、学生が寄付したピアノで演奏を披露してくれました。大事に扱っていただけるか少し不安だった時期もありましたが、調律師さんから「今も良い状態で弾いてもらっていますよ」と報告をもらうたび、後輩の役に立てている実感が湧いて嬉しくなります。
近年は、自分が亡くなった時に残った財産から寄付をする「遺贈寄付」が増えています。遺贈寄付は、亡くなった後も生前の「おもい」を次世代に繋ぐことのできる社会貢献の手段として注目されています。所有者がご存命のうちは大切に使い、ご逝去の後に寄付して有効に活用してほしい、という方には、遺言書で遺贈寄付の意思を遺すという方法がお勧めです。
「特に心配事はない」?

「ピアノを託すにあたっての心配事」に関する問いでは、209の回答者のうち111名(53.1%)が「特に心配事はない」と回答しました。111の回答を「ピアノの行先を決めているかどうか」の回答別で見ると、「託す人/場所を既に決めている」人からの回答が25(「託す人/場所を既に決めている」人のうち83.3%)、「売却する」人からの回答が21(「売却する」人のうち63.6%)、「まだわからない」人からの回答が65(「まだわからない」人のうち45.4%)、という結果です。

ピアノを託すにあたっての心配事はありますか?(回答者数:209、複数回答可)

次いで「査定・運搬費等の費用」が24.4%、「引き継ぎ先が大事にしてくれるかどうか」が23%という回答結果が得られました。この懸念点を考えると、結果的に「信頼できて、自己負担してでも託したいと思える・または運搬費等の価格交渉がしやすい相手」、つまり家族・親族・生徒など身近な相手が実際の引き渡し先として選ばれやすい、ということがうかがえます。

「託す人・場所が決まっている」人は全体の14.5%と少数派ではありましたが、「特に心配事はない」と答えた割合が最も高い層でもありました。その行先の予定は「家族・親族」が80.6%という結果も出ています。託す相手が身近な存在であればあまり心配していない、と考えられている傾向がうかがえます。

(ピアノの行先について「託す人・場所が決まっている」と回答した方へ)誰・どこに引き継ぐ予定ですか?(回答者数:30、複数回答可)

理想の引継ぎができないケース

一方、家族の急逝で遺されたピアノの行先に悩んでいる声も寄せられました。現時点で心配事がなくても、病気や事故などの不測の事態に備え、早めに託したい相手と相談をしておくことが推奨されます。また、「寄付しようとしたができなかった」という経験がある方にお話を聞くと、寄付の受け手となる団体のスケジュール・予算等の都合で断念するケースがありました。寄付先との事前のコミュニケーションが非常に重要です。

Voice
  • 数年前に病気で亡くなった母のグランドピアノが2台、レッスン室に遺されています。亡くなる直前に親しい人に譲る話もしていたのですが、逝去後にいざ引き取ろうという段階になって、サイズが納品先にあわないことが判明しました。1台は生前、「いつか自分の室内楽サロンに置きたい」と言っていたのですが、それも結局サロンをつくるまではかないませんでした。なのでせめて、母がイメージしていた室内楽ができるようなサロンに寄付するなど、母が喜ぶ形での遺し方を見つけたいのですが、なかなか思ったような託し先は伝手がなく、生前にもう少し母の気持ちを聞いていればよかったなと悔やまれます。現在も、寄付先を探す、レッスン室ごとレンタルスタジオとして貸し出す、などの選択肢を検討しているところです。
  • 教育委員会を通じてグランドピアノの寄付を受けたい学校を募集していただいたことがあります。しかし、ピアノの移動の時期の都合で1週間しか希望校を公募する時間をとることができず、運搬費やスケジュールの調整を短い期間では決裁できない学校が大半でした。公立校は年度を通してスケジュールや予算を組んでいることが大半なので、事前にじっくり教育委員会と交渉できていれば、寄付できたかもしれません。ニーズがあることがわかっていたのに繋げられなかったのは残念でした。
  • 夫の友人が経営していたレストランをたたむことになって、店内に置かれていたグランドピアノを駅のストリートピアノとして寄付したいと自治体に申し出たそうです。自治体からは、置く場所やメンテナンス費用を理由に断られたと言っていました。公立学校が廃校になる際のピアノの引継ぎ先さえ、公共施設に呼び掛けて行先を探すことをしなかったそうなので、自治体のニーズ自体なかったのかもしれず、事前情報が重要だなと感じました。
ピアノに限らず全ての財産において、「家族や寄付先とのコミュニケーション不足で理想の引継ぎが実現できなかった」ということが起きていますが、ピアノは特に「場所が必要な財産」なので、保管場所や引き渡し・寄付の時期などについて、受け取る側と事前に入念なコミュニケーションが必要になります。人生100年時代とは言っても、現在の所有者の方が、いつ病気や事故など想定外の事態に直面するかは誰にもわかりません。いざという時に大切なピアノをどのような方法で誰に引き継いでいきたいのか、日頃から考えて必要な準備を整えておくことが重要です。
「マッチングプラットフォーム」が必要?

今回のアンケート調査で多くの方が回答した「寄付したい」というニーズを実現するために、新たな仕組みが求められています。必要な場所へピアノを繋ぐマッチングのサポートを求める声も多く寄せられました。

Voice
  • ピアノの寄付を希望している施設等の情報を、リアルタイムで知ることのできる仕組みがあると嬉しいです。
  • 公共施設に寄付するのも、個人では手続きなどが大変です。遠方の場合、運送費もかなりかかる場合があります。地域でピアノを寄付したい方がピアノの情報を登録し、公民館などの公共施設に繋いでくださる仕組みがあると助かります。
  • ストリートピアノや施設、学校に寄付出来るような仲介/紹介をしてくださるサポートがあると嬉しいです。

今回の調査をふまえ、引き続きピティナでは、皆様の大切なピアノがめぐる仕組みについて、模索を重ねてまいります。

◆ 企業・自治体・団体の皆様へ ◆

ピティナでは、ピアノ指導者・ピアノ学習者のおもいが詰まったピアノを次の担い手に繋げるスキームについて検討を重ねております。寄付の受け手となる学校・福祉施設・公共施設や、運搬費・一時保管場所などを提供していただける企業様など、協働の可能性がある団体様は、ぜひ下記のフォームからお問合せいただけますと幸いです。

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①「音楽家のための終活セミナーシリーズ」

アドバイザーの齋藤弘道先生による「終活」に関するセミナーを、今年は4回シリーズで開催しています。ピアノだけでなく、様々な財産の片付け方やその準備の仕方について学べる貴重な機会となっております。
第2回は6月11日、テーマは「相続」です。e-ラーニングでアーカイブ配信中の第1回をご覧になってから、ぜひお申し込みください。

②終活関連個別相談

会員の方は、アドバイザーの齋藤弘道先生に初回30分、無料で終活や相続に関する個別相談をすることができます。漠然と不安がある方も、具体的に相続・終活に関する悩み事がある方も、お気軽にご相談ください。

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