音楽教育の未来-ピティナの「社会貢献」を考える-
2021年もあとわずか。12月は、1年の終わりに一人ひとりがちょっとずつ「誰かのためのアクション」を起こすことを呼び掛ける、寄付啓発月間です。
近年ピティナでは、クラウドファンディングや遺贈寄付、物品寄付など、様々な寄付の窓口を広げ、会員や音楽教育に携わる方に限らず、団体内外の皆様にご協力を呼び掛けています。
その意図するところとは?
福田成康専務理事に、社会貢献のための資金繰りの考え方と、音楽教育の未来について尋ねました。
インタビュアー:川野辺雪菜(准認定ファンドレイザー)
福田専務の社会貢献への強い関心は、お母様で初代ピティナ代表の福田靖子先生から受け継いだとか。
母は、社会貢献ということを、義務的な行為とはまったく考えていませんでした。むしろ「自分の幸せに直結すること」として考えていましたね。「社会貢献しよう」という意識で事業の発展に努めたのではなく、自分が社会と繋がっていることが幸せだから取り組んでいた、という感じです。私もその感覚を受け継いでいて「人や社会の役に立てる」ことが幸せそのものです。つまり、事業の先の人や社会と強く繋がっている、ということですから。
人や社会の幸せが、自分の幸せの延長線上にある感覚なんですね。
ただ、幸せが循環すること、継続性ということはとても重視しています。
小学生の頃、小口の募金はしないという母に理由を尋ねたことがあります。そうしたら「自分は『公園を寄付する』ような社会貢献がしたい」と。つまり、その寄付がより長く・多くの人の便益になるような社会貢献に興味がある人だったんです。目の前の人の役に立つお金の使い方もありますが、母から学んだのは「循環するお金の使い方」でした。誰かのためにお金が正しく使われて、それに感謝した人が他の誰かのためにお金を使うようになる。それが真に継続的な活動の在り方だと思っています。
寄付は、その応援の結果何かが実現すると「また応援しよう」と思ってくださる方もいる。応援の気持ちが乗ったお金という意味では、循環する継続的な資金ですね。
はい、だからとても重要です。ピティナへのご寄付も、大変ありがたいと同時に「また応援したい」「一緒にピアノ教育を盛り上げていきたい」と思っていただけるように、いただいたご寄付が最大限活用され社会に循環する事業運営を行わねばならないので、いつもプレッシャーの中で仕事をしています。
ピティナでは近年、クラウドファンディングや遺贈寄付、モノを通じた寄付など、様々な寄付の窓口を広げ、外部の非営利団体との連携を強化していますね。その意図するところは?
本当に継続的に社会の役に立とうと思うと、もっともっと資金力が要ります。今、さらにご寄付を呼び掛けているのは、ピティナが社会の一員として次のフェーズへ向かっていくためです。より多くの方に資金面でも活動面でも関わっていただき、より多くの方へ事業・サービスにして返していく。そんな循環をつくる施策です。
これまでの収益構造を見ると、多くはイベントからの事業収入と会費が占めていますね。
今までは、まず会費で支えてくださっている皆様に、勉強の場や生徒と出会う場などを提供する「共益」的な活動が中心でした。次は、この過程で築かれたコミュニティを活かして、より多くの方を対象にした「公益」の活動を広げていきたいと考えています。
もっと寄付や支援性の資金が入ってくるようになったら、どんなことを実現するのが真の「継続的な社会貢献」とお考えですか?
既に取り組んでいるピアノ曲事典や調査研究の領域を強化し、より多くの方にご利用いただけるデータベースは作っていきたいです。
あとは、経済的にピアノ教育を受けることができない子に対して、民間教育バウチャーを無料で提供する仕組みを創れるかもしれません。
学校に音楽専科の先生がいない学校も多いです。ピティナの地域コミュニティと寄付があれば、そうした学校に地域のピアノの先生を派遣する官民連携教育も実現できるかもしれません。
ピアノで「文化を創る」取り組みももっとやりたいですね。特級やショパンコンクールで「ライブ配信でピアノコンクールを見る」という文化が育ったのは近年の大きな成果ですが、もっともっと多くの人が日常的にピアノや音楽に触れる文化をつくりたいです。昨今の流行の中では、ストリートピアノに着目しています。
夢が尽きないですね!
でも、これまでの事業を回しながらさらに大きいことをやるには、まだまだ資金力と体力が要ります。だからこそ、個人からのご寄付はもちろん企業からの協賛や自治体の助成金など、あらゆる資金調達に挑戦して、ピアノや音楽を通じた豊かな社会を醸成する仲間を増やしていきたいです。
先日「寄付白書2021」(発行:日本ファンドレイジング協会)が発売されました。本書によると、コロナ禍で個人寄付の総額は推計1兆2,126億円と、2011年の東日本大震災の時の寄付額を超える規模になっています。日本の寄付の動向について、どのように見ていらっしゃいますか?
寄付はますます増えて、非営利の活動が活性化していくと見ています。というのは、遺贈寄付の金額がこれから伸びてくるのが間違いないからです。
亡くなった方が、遺言などで相続財産をNPOや社会貢献団体に寄付する方法ですね。昨年からピティナでも、受入の体制整備をしていますね。
はい。多くの人は自分の子どもに資産を相続しますよね。でも最近は家族観や生き方が多様化して、おひとり様も増えているし生涯未婚率も上がっています。そんな社会で「資産の相続先は自分の子どもだけ」という考え方は長くは続かないでしょう。そこで、遺伝子的なつながりのない他者や団体に託す相続が、寄付という行為として増えてきているのだと思います。
国境なき医師団の2018年調査では、20~70代の男女1,200人のうち、49.8%が「遺贈したい」「してもよい」と回答したというデータがあります(出典:寄付白書2021/日本ファンドレイジング協会)。他の団体のリサーチでも、前向きな認識が広がってきていますね。
相続人がいない方の資産は、放っておくと亡くなった後、国庫に帰属します。もちろん、それで良い方は良いですし、自分自身のために使う道もありますが、感謝している活動や団体がある人はそこに託すのも一つの選択肢です。大切なのは、どの選択肢が自分にとって幸せか、ちゃんと考えることです。
特に資産を渡す人がいないなら自分が感謝しているフィールドに還元する、という考え方もあるということですね。
はい。私自身は、感謝している団体があるので遺贈寄付したいです。自分の遺したもので、自分の大好きなものや応援している活動が発展していく。それって、幸せじゃないですか?
今後、寄付や社会貢献といった観点から、音楽教育のフィールドはどのように伸びると見ていますか?
正直、どれくらいの成長規模かは見えていません。それを語るには、音楽による社会的インパクト評価、定量化の研究が足りていないからです。音楽・芸術教育の価値の可視化がもっと必要です。
音楽教育によって、たとえば子どもの創造力やコミュニケーション能力といった、非認知能力がどのように向上しているのか?といった追跡調査も重要ですね。
はい。あとは一例ですが「孤独」の社会課題への寄与は考えられます。寿命に一番悪影響とされるのが「孤独」というデータもあり、孤独担当大臣が各国で立てられるほど注目されている課題です。
なるほど。孤独問題の対策に力を入れているイギリスでも、近年学校の音楽の授業の対策に力が入っていると聞きます。
寄付という行為もある意味、孤独対策になると思っています。冒頭にも言ったとおり、寄付をするということは、寄付先の受益者や社会と繋がっているのと同義ですから。
家族がいる場合といない場合、それぞれで自分・家族・社会のいずれにお金を使うかという場合分けを考えた時、より繋がりが増えて幸福度が上がるのは、社会に使う選択肢があるときだと思うんです。
ご自身は、どんな形で社会と「繋がっていたい」ですか?
重視しているのは「今の自分に影響を与えている度合い」と「効率的に寄付金を使ってくれるかどうか」です。今、目の前で困っている人を助けるのも重要ですが、そもそも困らないような社会を創っていく人材の育成も重要です。その意味では、私は現在は「社会を牽引する人を育てる」領域の活動に寄付しています。
音楽・芸術教育も、豊かな人材を育む重要な活動ですね。音楽で人生が豊かになったと感じている人が、音楽や音楽教育に寄付して、繋がりを感じていただけたら嬉しいですね。
効率的に資金を使うという意味では、ピティナではご寄付を決して無駄にしない運営をしている自負があります。音楽が大好きな人が、次の世代の音楽教育が豊かになるようにとピティナにご寄付くださって、ご自身もこの活動の発展を幸せに感じてくれたら、とても嬉しいです。
12月は寄付月間。年末大掃除のついでに寄付できるキャンペーンを展開中です。より多くの方に、ピティナの社会貢献の考え方にご賛同いただけますと幸いです。