王子賞レポート

2010年2月11日(木・祝)、銀座の王子ホールにて、恒例となった王子賞受賞披露演奏会が行われた。王子賞は、株式会社王子ホール様のご協賛により、コンペティション最高峰の特級・G級の金賞・銀賞受賞者4名に贈られるが、伝統の王子ホールの舞台でこれからの決意をこめたステージを披露できる素晴らしい褒賞となっている。今回は、前半が杉本佳奈美さん(G級銀賞)と加藤大樹さん(特級銀賞)、後半が矢野雄太さん(G級金賞)と仲田みずほさん(グランプリ)という、男女2名ずつの華やかな競演となった。

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トップバッターは、G級銀賞、東京音大1年の杉本佳奈美さん。グラナドスの名曲「スペイン舞曲集」から、メヌエットとアンダルーサは、コンサートの幕開けにふさわしい華やかさで開始。打鍵が安定し、音楽の基本的な構造を崩さない、安心して聴いていられる音楽を作る。スクリャービンの幻想曲は、特に思い入れのある作品だそうで「大好きな曲でロマンチックに演奏できたら嬉しい」とコメントを寄せていたとおり、作品への憧れに満ちて、フレッシュな感性を聞かせた。

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2番手は、加藤大樹さん(特級銀賞)。特級入賞の後、東京音楽コンクール優勝、浜松国際ピアノコンクールセミファイナル進出と、今乗りに乗っている19歳。ショパン=リストの歌曲編曲「私のいとしい人」は、特級セミファイナルや浜松でも披露した珠玉の小品。一音一音を最大限愛しむように発音し、音楽への限りない愛着に、あたたかな空気がホールを満たす。一転、プロコフィエフのソナタ第7番は、持ち前の見事なテクニックとリズム感、オーソドックスで安定的な中にも静と動の対比が見事で、「こうありたい」という意志を全ての音に感じさせ、極めて高水準の音楽を鳴らしていく。大器の片鱗を見せつけ、さらなる活躍を予感させた。

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後半は、G級金賞、高校2年の矢野雄太さんから。ラフマニノフのプレリュード Op.23-5はやや荒削りな箇所もあるが、躍動的でみずみずしく、音楽が生命力に満ちている。続くヒナステラのピアノソナタ第1番が、矢野さんの長所をフルに活かしきる好選曲。コンクールで演奏されているのを聴き、是非自分も弾いてみたいと挑戦した意欲的なレパートリー。音楽の鼓動が、決して作為的でなく、共感をもって鳴り、聴き手を高揚させる刺激的な演奏を披露した。

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ラストは本年度グランプリの仲田みずほさん。この春で東京音大大学院を修了する23歳は、ベートーヴェンのソナタ第31番という大曲に挑む。作曲家の偉大さを尊敬し、そこに祈りを捧げるような仲田さんらしい謙虚で真摯な熱演。作曲家を冒涜するような表現をいっさい持ち込まず、一音に最大限の愛情をこめることで構築していく長所がよく発揮される。リストのスペイン狂詩曲は、さらに情熱をもって音楽と真正面から向き合い、高いテクニックを披露した。
大きな拍手に応えてのアンコールは、ゴドフスキー。どこかで聴いたことのあるメロディを洒脱にアレンジしたぴったりのアンコールピースは、「ショパンの練習曲による53の練習曲」から第34番「マズルカ(Op.25-5による)」。仲田さんの違った魅力を存分に引き出し、ショパンをバックグラウンドにしたゴドフスキーの華麗な編曲に聴衆皆が酔いしれた。

終演後は、詰め掛けた数多くの友人・知人・家族らに囲まれ、記念撮影に応じたり、プレゼントをいただいたり、出演者たちもまた次に向かって進んでいく大きな力をいただいたようだった。

なお、仲田さん・矢野さん・杉本さんは、3月22日(月・祝)に行われる「入賞者記念コンサート」にも出演する。仲田みずほさんは、ソロ演奏とともに、室内楽の演奏で藤原浜雄先生・堀了介先生という日本を代表するプロとの共演を予定している。是非第一生命ホールに足を運んで、2009年度入賞者たちのさらなる成長をご確認いただきたい。

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