2009年2月11日(水・祝)、銀座の王子ホールにて、恒例となった王子賞受賞披露演奏会が行われた。王子賞は、株式会社王子ホール様のご協賛により、コンペティション最高峰の特級・G級の金賞・銀賞受賞者4名に贈られるが、伝統の王子ホールの舞台でこれからの決意をこめたステージを披露できる素晴らしい褒賞となっている。今回は、特級に佐藤圭奈さん(グランプリ)水谷桃子さん(準金賞)の女性2名、G級に仁田原祐さん(金賞)阪田知樹さん(銀賞)の男性2名と、休憩を挟んで対照的な4人のステージとなった。
トップバッターは、G級銀賞、中学3年の阪田知樹さん。リストの演奏至難のエチュードを3曲並べるという大胆不敵なプログラムは、中学生とは思えないものだが、演奏を聴くと、この挑戦が決して無謀なものではなく、むしろしたたかで知的な戦略に満ちたものであることに思わず納得してしまう、ハイレベルな快演。落ち着いたテンポ設定も、技術的に難があるのではなく、目の前の音符をきちんと自分の音楽として消化し、フレーズの隅々にまで自分の意思を満たしていくために必要だという綿密な分析に基づいている。無理のない美しいエチュードが、クレバーで才能あふれるピアニストの明るい未来を鮮やかに映し出した。
続いて、G級金賞、高校3年の仁田原祐さんは、ブラームスの「8つの小品Op.76」(抜粋)という、渋いけれど音楽性がはっきり現れてしまう選曲。まとめづらく冗長になってしまうこともあるこの作品に、奇をてらうことのない、真摯で誠実なアプローチで真っ向から取り組み、自然な流れと優れたハーモニーのセンスで、音楽の良さを音楽自体に語らせる演奏を展開していく。目を見張るような驚きはなくとも、聞き終わった後に「良い音楽を聴いた」という人間らしい感動が湧き上がるような深い音楽作りは、優れた音楽性を感じさせた。
15分の休憩を挟んで、後半は高校2年生で特級準金賞に輝いた水谷桃子さん。すでに、数多くのコンサートで活躍しはじめている期待の若手。瑞々しい感性とダイナミックな表現力、優れたテクニックで、ぐいぐいと積極的に音楽を前に進めていく水谷さんの姿勢は、大曲でありながら、17歳らしい等身大のショパンをホールいっぱいに描いていき好感を抱かせ、スケールの大きな音楽作りで魅了する。ステージ度胸も見事で、すでに聴衆の心をつかむ術を心得ているのが末恐ろしささえ感じさせ、大きな拍手を浴びた。
トリはグランプリで、先日の特級グランプリ海外褒賞ツアー(レポートはこちら)でもイタリア・フランスの聴衆から高い評価を受けた佐藤圭奈さん。中高生3人の後に、25歳の佐藤さんが出てきてモーツァルトの幻想曲冒頭をじっくりと鳴らし始めると、そこには、3人の後輩たちよりも10年近く長い時間音楽を勉強してきた成果が、音の一粒一粒からにじみ出ていることに驚く。音楽そのものに、自分はこうありたい、という意志を強く漲らせ、派手さはないが安定した技巧と説得力ある音楽構成で、一味違う大人の音楽を描いてみせ、なるほど今年のグランプリ、と聴衆から納得の喝采を得た。
終演後は、詰め掛けた数多くの友人・知人・家族らに囲まれて、嬉しそうに祝福を受ける4人の横顔は、音楽の未来を担っていく大きな希望を感じさせた。
なお、4人は、3月20日(金・祝)に行われる「入賞者記念コンサート」にも出演する。特級の佐藤さん・水谷さんは、ソロ演奏のほか、室内楽の演奏も予定している。また、G級の仁田原さん・阪田さんは、ラヴェル「鏡」、ショパンのバラード1番と、いずれも大曲に挑戦する。是非第一生命ホールに足を運んで、2008年度入賞者たちのさらなる成長をご確認いただきたい。
|