グランミューズ部門

グランミューズ部門入賞者記念コンサート出演者インタビュー
栗本康夫さん
A1カテゴリー第1位
栗本 康夫さん
本職は眼科医/医学研究者。最近では、世界初のiPS細胞治療の手術を執刀し、臨床チームリーダーを務めた。ピアノを、芹澤佳司、E.F.ザイラー、小島久里、荒金泰子各氏に師事。長富彩、斉藤雅広、横山幸雄、金子一朗、佐藤卓史、萬谷衣里、J.デムス、J.ブロッホ、M.ルーウェ、J.ウェーバー、J.B.ヤング各氏の指導も受ける。学生時代は京都大学音楽研究会を中心に演奏活動を行うが、大学院卒後はピアノを中断。40歳を過ぎてピアノを再開し、2009年ピティナ・ピアノコンペティショングランミューズ部門B2カテゴリー第1位。2011年同A2カテゴリー第1位。2013年大阪国際音楽コンクールPOA第1位。2013年いかるが音楽コンクールグランプリ。2013年日本クラシック音楽コンクール一般男子第2位。2014年国際アマチュアピアノコンクールA部門第1位。2016年ピティナ・ピアノコンペティショングランミューズ部門A1カテゴリー第1位。
当日の曲目
  • スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第5番 Op.53

幾度の中断を乗り越えて果たした入賞
ピアノの素晴らしさを伝えていきたい

2004年からグランミューズ部門の各カテゴリーに挑戦を続け、今回見事A1カテゴリーの頂点に立ちました。振り返っていかがだったでしょうか?

ピアノの練習を続ける励みにとピティナ・ピアノコンペテションへの参加を始めてから12年、B1入選、B2第1位、A2第1位を経て、遂にA1の第1位を頂きました。決してコンペのためにピアノをやっているわけではありませんが、ひとつの目標としていたA1優勝を達成でき、感慨深いものがあります。
コンペであるかどうかを問わず、本番のステージは、例えどんなに弾きなれた曲であってもとても難しいものです。王子での決勝のステージでも、普段ではやらないような多くのミスをしでかしました。しかし、本番でそうなるであろうことは解っていましたので、とにかく気持ちを込めて自分なりの音楽を奏でようと心しておりました。審査員の先生方にそうした部分を評価していただけたのが良い結果に繫がったのかなと考えています。この受賞を励みにもっともっと良い演奏が出来るように頑張って参りたいと思います。

栗本さんは現在医師としても活躍されていますが、現在に至るまでこれまでピアノとはどのように接してきたのでしょうか。

ピアノを最初に始めたのは5歳の頃でした。当時は親にやらされていたのであって、好きでやっていたわけではありません。小学校に入ると、友達が放課後は野球や缶蹴りをやって遊んでいるのに自分はピアノの練習で一緒に遊べないのが嫌でグズグズ言っていたら「そんなに嫌ならやめてしまえ!」と父親に一喝され、ピアノをやめることになりました。今から思えば大変に残念なことでしたが、その後、自らクラシック音楽が好きになり、好きでピアノを再開したのが今の幸福なピアノライフに繫がっているので、それはそれで良かったのかもしれません。小学6年生の時にバイエルからピアノをやり直しましたが、中学受験、高校受験とたびたび中断し、大学生の頃は比較的熱心にやっておりましたが、大学院を出た後、非常に忙しい病院に赴任したためにピアノを続けることが難しくなり、またしてもやめてしまいました。
10年弱の中断を経て40歳を過ぎてピアノを再開したのはアメリカ在住中でした。ハーバード大で博士研究員として働いていたのですが、仕事はほぼ9時〜5時の生活で土日も休めたので時間に余裕ができ、電子ピアノを買って好きなピアノを再開したのです。しかし、日本に帰国するとまたしても仕事に追われる日々でピアノからは遠ざかりがち、その状況を打開すべく練習のモチベーション作りにと考えてピティナのコンペを受け始め現在に至っています。

普段社会人として限られた時間の中で、どんな風に練習に取り組んでいるのでしょうか。心がけていることはありますか?

社会人アマチュアの友人達は皆さん練習時間の確保に苦労されていますが、私は毎朝、早起きしてピアノの練習をしています。8年前に転倒して右手小指を骨折し、ギブスが外れた後の伸びきったまま動かなくなった小指を見て、ここで真面目に取り組まないと一生ピアノが弾けなくなってしまうかもしれない!という危機感を持ったのが朝練を始めるきっかけでした。毎朝の習慣とすることでコンスタントに練習を続けることができるようになったし、朝は一日のうちでも最も集中して練習することが出来るので、短時間ではあっても夜の練習に較べて練習成果は出やすいと感じています。「良い習慣は才能を超える」という言葉がありますが、ある程度まではその通りだと思います。
実際の練習にあたっては、楽曲を良く理解することを特に重視しています。曲の構造が良く理解できれば細かなテクニックは後からついてくると思っているので、ある程度の段階までは指使いなんかも気にしません。その結果、時間が足りなくなって本番直前になっても指使いが定まっていないとかテクニックの問題が克服できていないなんて事もしばしばあるのが困ったものなのですが(笑)、指使いの運動記憶だけで弾いていると、ちょっと暗譜落ちしただけで破綻して復帰できなくなったりするので危険でもあります。

入賞者記念コンサートの曲目は、どのように選んだのでしょうか。聴いていただきたいポイントやコンサートにかける意気込みを教えてください。

白寿ホールでのグランミューズ受賞者演奏会で弾かせていただくのはこれで3回目になりますが、この度はA1で優勝させていただき、このコンサートにソロで出演するのもこれが最後かと思います。そこで、これまでに取り組んできた曲の中から最も好きな曲を選びました。今回演奏するスクリャービンの5番ソナタは10曲あるスクリャービンのソナタのちょうど真ん中に位置していますが、スクリャービンが初期〜中期のロマン派的なものと訣別して後期の神秘主義的作風へ移りゆく正にその境目にあってスクリャービン独特のロマンティズムとミスティシズムが剣ヶ峰に立つような奇跡的なバランスを保ちつつ、他のソナタには見られない爆発的なエネルギーに満ちた稀有な佳作です。かつてこの作品を米国でスクリャービンのスペシャリストの先生の前で演奏した際には「丁寧な達者な演奏などいらない。ミスタッチなど気にするな。この曲には狂気と爆発が必要だ。」と少々乱暴とも言えるコメントを頂きました。もちろんミスタッチは少ないに越したことはありませんが、私にとって未達の課題である「狂気と爆発」を白寿ホールでの本番で達成できれば本望です。

今後の目標にしていることを教えて下さい。

ただただ好きだから!ということでこれまでピアノを続けてきたのですが、最近、自分がピアノを演奏することで、高校や大学受験を前にピアノを続けるかどうか悩んでいる子供達に、ピアノっていうのはいい歳をした大人の社会人がクソ忙しい中でも何とか時間をやりくりして続けていきたいと思える素晴らしいものなんだよっていうメッセージを伝えられればな、というようなことを漠然と考えています。

決勝での演奏

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