- ショパン:バラード第1番 ト短調 Op.23
これまでグランミューズ部門の各カテゴリーに挑戦してきましたが、昨年は見事A1カテゴリーで第2位となりました。振り返っての感想を聞かせてください。
全国決勝では今までに感じたことのないくらいの緊張とプレッシャーで押し潰されそうでした。そんな中、当日の演奏では納得のいかないものもありましたが、それも今の自分の実力だと思い、演奏後は「結果はどうであれやりきったのだから」と不思議と気持ちはすっきりしていました。そのため、2位をいただけたことはとても嬉しかったです。今回入賞できたのは、全国決勝出場が決まってからの3週間、今までで一番自分のピアノと冷静に向き合えたことが大きかったのではないかと思います。
古谷さんはこれまでピアノとはどんな風に接してきたのでしょうか。
7歳でピアノを始めました。始めたのはそんなに遅くはないと思うのですが、高校3年生まではただ音を読んで強弱を付けるという意識しかない中でのことだったので、今思うとほとんど何も感じず何も考えずにひたすら弾いていたなと思います。それでもピアノは好きだったので音大という選択肢も考えましたが、結局諦めて、英語の道へ進むべく一般大学への進学を決めました。浪人1年経ての進学でしたが、志望大学の志望学部に入れなかったこともあり、再びピアノへの思いが湧いてきました。大学を辞めて就職し、仕事も上手くいかず転々としている間に次第に何も手につかなくなってしまった時期もありました。そんな中、ピアノは唯一の癒しであり、私の救いでもありました。それがちょうど5年前、もう一度ピアノを勉強し直そうと思うきっかけとなりました。 音符を音にすることだけをしてきた自分にとって、それからはとても大変でした。身体はガチガチだし音も汚く色は一色、理論も何もわからないし、曲も作曲家もどれ程も知らない...そんなリスタートでしたが、それでもこの曲のここが好きという感覚があったことだけは救いだったと思います。
辛い時期でもピアノを支えとして乗り越えてきたのですね。グランミューズ部門には出場してみてどんなことを感じましたか?
グランミューズ部門の素晴らしいところは、途中から真面目にピアノと向き合い始めた人でも気軽に参加できるというところだと思います。実際参加してみて、ほとんどのカテゴリーで再開組が多いと感じました。その分、皆さん意識も高く思いも強いので、他の愛好家のコンクールに比べてレベルも高く、切磋琢磨しながらレベルアップしていくことができます。その中でA1カテゴリーは私の憧れでした。いつかはとは思っていたのですが、その思いが強くなったのは3年前、予選や本選でA1カテゴリーの参加者の演奏を聴いたときでした。レベルの高さに圧倒されたのを覚えています。そして、翌年、2015年から参加し始めました。
本選から決勝大会までは、どんな練習を重ねていたのでしょうか?
決勝大会までは3週間という期間があったので、なぜいつもここが弾けないのか、なぜあの音色が出せないのか、常に「なぜ?」と問いかけながら練習しました。そうすると、自分の悪い癖が見えてきて、その原因の多くが脱力ができていないからだということが分かりました。そこからはひたすら、その部分で力が入らないように、あるいは瞬時に抜く感覚を頭と身体に染み込ませるために、丁寧にさらいました。
結果、今までで一番発見の多かった3週間となりました。良い発見がありながらも、油断すると昔の効率の悪い練習の癖が出てくるときがあるので、練習を始める前に「今日はこの曲のこことこの曲のここ...」と、練習メニューを決めるようにしています。
入賞者記念コンサートの曲目はどのようにして選んだのでしょうか。
今回選んだショパンのバラード第1番は、5年前に再度勉強し直す前、よく自分で弾いていた曲です。この曲をもっと魅力的に弾けるようになりたいともどかしく思ったのを覚えています。人間の持つ様々な気持ちを盛り込んだような曲なので、コンサートでは、不安、孤独、深い悲しみ、希望、喜び、絶望、などプラスの感情もマイナスの感情もどちらも音色で表現できればと思います。
コンサートへの抱負をお願いいたします!
自分本位にならないよう、聴いて下さる方々のためにこの曲の良さを伝えられるよう演奏したいです。
次の目標や取り組んでみたいことがあれば教えてください。
もっと色々な音色を出せるようになって、厚みや広がりのある立体的な演奏ができるようになりたいです。また基礎である古典が全く弾けないことに気がついたので、じっくり時間をかけてバッハやベートーヴェンなどに取り組んでいくつもりです。