ベートーヴェンのソロから室内楽作品までピックアップ
≪ソロ≫ 難曲中の難曲、ベートーヴェンのハンマークラヴィーア・ソナタを聴く。ピアノソナタ 第29番 変ロ長調 Op.106『ハンマークラヴィーア』に挑戦する、若林顕インタビューを掲載。
≪ソロ≫ 若手を紹介する「シンフォニー・ブランチコンサート」の今季シリーズの最終回。ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2『月光』を演奏。
≪ピアノ三重奏≫ ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第4番 Op.11『街の歌』を、ヴァイオリン、チェロ、ピアノの編成で演奏。千葉純子(Vn)、海野幹雄(Vc)、川井綾子(Pf.)による演奏。
≪ソロ≫ ベートーヴェンの32のソナタ全曲を講座と演奏会で紹介していくシリーズ野第5回。ベートーヴェン:ピアノソナタ 第12番 変イ長調 Op.26、第18番 変ホ長調 Op.31-3『狩』、第19番 ト短調 Op.49-1、第21番 ハ長調 Op.53『ワルトシュタイン』を演奏。
≪弦楽四重奏≫ ベルリン・フィル最高の4人組とのピアノ五重奏の共演。その前半では、ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第7番 ヘ長調 Op.59-1 『ラズモフスキー第1番』が演奏されます。
≪管弦楽≫ 飯守泰次郎指揮・東京シティフィルによるベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 Op.92を演奏。前半のコンチェルトは、特級グランプリ篠永紗也子さんが東京シティフィル賞として共演!
~若林顕先生 特別インタビュー~
この作品は、ラフマニノフのソロ作品の中でも最後に位置し、他の作品と違う、ある種「到達した」雰囲気を持っていて、音楽的にポイントを捉えた演奏をするのが非常に難しい曲です。夢や回想、民族舞踊のような要素、郷愁、寂しさ、エキゾチックな部分...複雑な要素と感情が走馬灯のように過ぎ去り、どこか<現在形>ではない、時空を超えた響きがするところに惹かれます。この20分のドラマをどう魅力的に描くか、大きなチャレンジです。
このソナタは、2000年頃から数年、何度も弾いていた時期があったのですが、今回改めて取り上げてみました。私自身は、第3楽章の表情・表現を特に重視しています。アパッショナートにこめられた複雑な情熱、これでもかというぐらいに何度も表記されたエスプレッシーヴォ、細かい強弱の指定...、楽譜のあらゆるところに、ベートーヴェンが「どうしてもこう弾いてほしい」という尋常でない心血を注いだ跡が見られます。この第3楽章に向けて第1,2楽章をどう構築し、そしてその後のフーガにどのような意味を持たせるか、サントリーホールという大きな空間に、ベートーヴェンならではの巨大な構成を描いてみたいと思います。このエネルギーに到達したからこそ、その後、30番から32番のソナタが、神の世界のような透明さを得たのだと思います。
もちろんこれまでもショパンの作品を弾いてきましたが、自分の中に生まれる表現やアイデアが、どちらかというとドイツ的なもので、ショパンとはやや異なるのかなと感じていました。ショパンの音楽の、フランス的、ロシア的なもの、あるいは精神の自由さ、煌びやかさ、ポリフォニーなどは、ベートーヴェンやブラームスとはまた別のものです。近年、妻の鈴木理恵子(ヴァイオリニスト)に影響を受け、ジャンルを超えた活動をするなかで、今の考えでまたショパンを弾いてみたいと思うようになりました。
どの曲も、そして作品全体としてももちろん素晴らしいのですが、敢えてポイントを挙げれば、テンポの遅いOp.25-7でしょうか。この曲にこめられた「苦しみ」「後悔」「懺悔」あるいは時に「怒り」のようなもの。昔のピアニストには、作品にこめたこのような<情>をあらわにするものがよく見られますが、私も、ショパンが曲に託した<情>をどこまでこめることができるか、挑戦したいと思います。
今回のコンサートは、私のピアニストとしての再スタートというか、新たな気持ちで次に向かっていくものだと思っています。これまでやってきたこと、今取り組んでいることで得たものを、お聞きいただく皆様に、そのまま正直にお伝えしたいと思います。