【公開録音コンサート】パリ公演(2013年12月4日) 実施レポート

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2014/01/09
公開録音コンサート パリ公演
実施レポート

 去る12月4日、クリスマスのイリュミネーションが燦然と彩るパリの街の一角、エスパス・ハットリ第二回目の公開録音コンサートが行われました。

 第一回に引き続き、第二回も『シューマンとヘラー~ドイツとハンガリー=フランスの二大ロマン主義作曲家』(原題)として、二人の作曲家に焦点を当てた企画でした。ピアニストは、演奏者は、エコール・ノルマル音楽院、パリ国立音楽院等で研鑽を積む4名、平沢春菜、田口翔、中山翔太、入川舜各氏。 プログラム構成、企画指揮は上田(本記事の執筆者)が担当しました。

【出 演】
平沢春菜
平沢春菜


田口翔
田口翔


中山翔太
中山翔太

入川舜各
入川舜

 前回のレポートでもご紹介した会場所有者の服部祐子(さちこ)氏は、パリ日仏文化センター(1993~)創設者で、長年、日仏文化交流の中心的存在として活躍されています。今回も、本企画に関しまして、多大なご理解とご尽力を頂き、演奏会が実現しました。

今回は、無料ご招待の来賓を含め26名の方々にお越し頂き、200€(28,242円)の入場収益が得られました。今回も、Yamaha Artist Services Europeに調律へのご支援を賜りましたほか、新たに公益財団法人アサヒグループ芸術文化財団からの助成を受け、企画を無事に運営することができました。

 演奏会は、服部氏のご挨拶に始まり、続いて上田による解説(内容は、 こちらから日本語で―当日はフランス語―お読み頂けます)。
そして演奏の一曲目は平沢氏によるシューマンの『パガニーニの奇想曲による6つの練習曲』作品3。リストの「パガニーニ練習曲集」のさきがけとなった曲集で、ピアニストを志していた若きシューマンの闘志溢れる作品です。二曲目はヘラーの『ロンド・スケルツォ』作品8。これはシューマンが「まるで僕の作品を弾いているようだ」「僕よりも銀の輝きを放っている」と深い共感を示した作品とのこと。頻繁に変化する楽想は20代のヘラーの既に円熟した才能を感じさせました。いずれも急速なテンポの作品ですが、平沢氏の敏捷な指の下で鋭い輝きを放ちました。入川氏が演奏された3、4曲目もヘラーの作品で、『セレナード』作品56と『タランテッラ』作品52です。これらは、友人ショパンへの傾倒を感じさせる作品ですが、透明感ある硬質な和声、旋律の節回しにはヘラー独自のセンスを入川氏は巧みに引き出していました。

 後半は、再度、上田の解説を挟んでシューマンの『森の情景』作品82で幕を明けました。中山氏の手で神秘的な森の姿が精緻に描き出された、田口氏がヘラーの『シューマンの主題による変奏曲』作品146、『森にて 第二集』作品128の二作で演奏会を締めくくりました。シューマンの没後、フランスでシューマンの音楽言語を「フランス語に翻訳」したという解説のとおり、シューマンのエセンスを吸収しつつも透明感と明快さを備え、健康的で、時に神秘的な独自の世界を創り上げたヘラーのエスプリを、田口氏は全身で体現されていました。いずれのピアニストにとっても、今回のプログラム、特に録音の前例のない作品を説得力ある演奏に仕上げるには、大変な集中力を要したことと思います。

 終演後、会場からは、是非CDにして欲しいという声も聞かれました。初めて聴く作品の演奏に接したときの感動を更に深め、また意義ある文化活動の記録を保存・普及するという観点から、インターネットの音源配信はもちろんのこと、「形あるもの」として録音を残していく必要を感じました。今後も、野心的な演奏会が開かれることを期待したいと思います。

平沢春菜 平沢春菜

再びパリ公演に参加させていただくことができ、とても光栄でした。前回と同様、この時代(19世紀)の特徴である技巧的作品にどのようにアプローチできるか、考えるのに苦労しました。技巧的な面だけに気を取られず、培ってきた音楽性と経験を照らし合わせながら曲を構築することは、有意義な経験になり、自分と向き合う良いきっかけになったと思います。聴衆の皆さまにはこのコンサートシリーズのこれからの発展、可能性についても各々コメントをいただきました。演奏だけではなくコンサートの全体像についても目を向けられるよう努力し、更に向上させていきたいと思います。

田口翔 田口翔

前回に引き続き、今回もありがたいことに、パリでの第二回公開録音公演に出演させて頂きました。 当初、私も有名曲しか知らない、一音楽学生に過ぎませんでしたが、あるひとつの時代に焦点を当て、その中で生まれた未知の作品をも含めた作曲家たちの比較検討、そしてより全体的なその時代の検証というコンサートのコンセプトに触発され、快く参加させて頂いた次第です。  このように、きちんと演奏する曲目の作曲された時代を俯瞰し、統一性をもたらすコンサートというものは、意外と多くはないかもしれません。それは演奏される曲の時代という、演奏者にとっても重要な一つの側面をコンサートのプログラムに投影することがいまひとつなおざりであることに原因があるのかもしれません。  私は2度にわたり素晴らしいコンセプトの演奏会に参加させて頂いたことで、多くを学ぶことが出来ました。今後も自分のレパートリーにすることも考えながら、知られざる曲たちとの出会いに期待を寄せています。

入川舜各 入川舜

世の中に楽曲と名のつくものは、無数にありますが、その中で演奏者が何を選んで演奏していくかは、大変重要な問題です。なぜなら、それによって楽曲の価値も定まってくるからです。現在名曲と言われる楽曲があるのは、その曲が何度も繰り返し演奏されて、次第に名声が広まったからだといえますが、今回演奏した曲たちは、現在における価値観が「0」です。0では何も発展することが出来ません。ですから、0から1へ価値観を増やそうとする試み、これは演奏家がすべき大変重要なことだと思います。今回の演奏会は、これらの曲が生み出された時代を研究している上田さんの協力なしにはできないことでした。私たち演奏家は、積極的にこのような共同作業を行っていくことが必要になっていくのではないでしょうか。

コーディネーター:上田泰史(音楽学 ピティナ研究会員) ピアニスト:平沢春菜、田口翔、入川 舜、中山翔太

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