保谷第一小学校のクラスコンサートへは、西川潤子さんと一緒にフルートの多久潤一朗さんが出演。生徒たちの目の前で、自分と音楽との出会いやおもしろさ、音色の違い、そしてデュオのかけあいの楽しさなど、実際の音を通してじかに伝える授業となった。そして最後には生徒全員の輪に囲まれての感動の大合唱となった。
●"音の色"を感じて
演奏者が入る前から期待で元気満々の生徒たち。その感受性豊かな反応を見て、西川さんも今回は"音色"の話をもちだした。
「"音色(ねいろ)"ってね、"音の色"って書くでしょ?みんなのお洋服にも、絵にも、本当に色々な色があるけれど、私たち音楽家は、この楽器を通して"音の色"を描きます。目には見えないけれど、わかると思うよ。例えば、"ドミソ"って楽譜に書いてあるとするよね。」と"ドミソ~♪"と音を鳴らす。「どんな音がした?」―「強い音。」「ちょっとこわい。」「じゃあ、同じ"ドミソ"でも、この音は?」―「弱い。」「何だかやさしい感じがする。」
「そう、1つの"ドミソ"でも、この時の"ドミソ"は、強いのかな、弱いのかな、それとも"ドッミッソッ♪"のように、嬉しくてはねているみたいなのかな、と色々と想像しながら、音で描いています。みんなも、聴く時や弾く時に、ここはどんな色なのかな?様子なのかな?と想像してみてくださいね。」
音楽の表現としては難しい部分だが、この音楽室という狭い空間で、同じ"ドミソ"が、西川さんの手によってがらりと空気までが変わってしまうことを実感できたに違いない。
●音楽の原点は小学4年生の時のリコーダー
フルートの多久さんは、まず挨拶がわりに「タイスの瞑想曲」を演奏。その音色に生徒たちはうっとり。その後、音楽準備室にあった予備のリコーダーをおもむろに取り出し、こう話し出した。
「実は、ぼくの音楽の原点は、このリコーダーだったんです。小学生の時、このリコーダーが好きで好きでたまらなくて、暇さえあれば一日中吹いている子でした。みんなと同じように学校で習った曲を吹いたり、リコーダーを使って色んな吹き方をしてみたりして遊んでいました。」と、リコーダーを使って即興で吹いたり吸ったりして色々な音を出してみると、「すごーい!!」と大歓声。
「そのうち、あまりにリコーダーばかり吹いているのを見て、親がフルートを買ってくれたのが、君たちと同じ小学4年生の時でした。それから、この楽器と音色が大好きで、今まで続けています。」と話すと、意外にもこんなプロの演奏家が、自分たちと同じ小学生の時の音楽の授業で目覚めたことを知って、生徒たちは親近感のこもった目で見つめた。
●デュオでお話を
そして次には、クライスラーの「愛の喜び」をデュオで演奏。「この曲では、演奏しながらたくさん西川さんとお話をします。」と、デュオの"かけあい"の楽しさを伝える。
西川さんは、「例えば私が"タララララララ~♪"というメロディを弾くと、多久さんが"タラッラララ・ララ~♪"と「こんなのはどうですかー?」と返してくる。それじゃあ、ということで私も今度はこういう風に弾いて答えてみる...というように、実際に言葉には出さないけれど、そうやってお話をしているんです。だから毎回違うんです。」とやってみせた。
●ジャズにも挑戦!
今度はプロのミュージシャンと一緒にみんなも共演!うまく音楽で会話ができるかな?リコーダーでは「茶色の小びん」を演奏。グレンミラーの映画でも有名なこの曲を味わってもらうため、今日は特別バージョンで、3番まで演奏することに。
「2番まではいつも通り。でも3番では私たちは全く違う弾き方をします。びっくりしないでね!」と演奏スタート。3番になると、思いっきりジャズバージョンで演奏を始めた二人に、みんなびっくり!でも、負けじと一生懸命に追いつこうとがんばる。吹き終わった後、みんなの顔は充実した表情であふれた。
最後には、「君をのせて」と「音楽のおくりもの」を合唱。先生、ご見学のお母様方も含めてみなで手をつなぎ、大きな輪になって教室中を囲んだ。その声は音楽室の中心で響きあい、とても感動的な合唱でのしめくくりとなった。
「すごく音楽が好きなんだなーというのがわかったのですが、何で音楽が好きなんですか?音楽のどこが好きなんですか?」という質問に多久さんは、「それは、むずかしい質問だね。君は、食べ物は何が好き?」「ハンバーグ。」「じゃあ、何でハンバーグが好きなの?ハンバーグのどこが好きなの?」「うーん...」「それと同じように、どこが何で好きかっていうことは具体的には言えないけれど、でも、好きだっていうことだけはわかる。そういうものだと思うよ。」と。ちょっと深いことも学んだようだ。終了後も握手やサインをせがんだり、もっと音を出して!と名残惜しそうに教室に残っていた。
~感想より~◆ 「愛の喜び」は、何となくフルートとピアノの音楽の会話が伝わってきた感じ!「茶色の小びん」の3番目はすごかった。私、参加した!(4年3組) ◆ 私は音楽はきらいだったけど、好きになりました。すごくがんばりたいと思いました。(4年3組) ◆ 楽しそうに楽器をひいていた所がよかったです。(4年3組) ◆ 1時間だけじゃなくて、何時間でも聞いていたかったです。とっても心にのこりました。家にかえったら家族のみんなに今日のことをいっぱいおしえます。(4年2組) ◆ はやかったりおそかったり、音がいっしゅんで変わったりしたので、すごかったです。(4年2組) ◆ ピアノにはなれていると思っていたら、知らないことがいっぱい!少し下にもぐってみたけど、すごい大きな音がした。(4年3組) ◆ フルートの方がリコーダーも吹いてくれてとてもうれしかったです。(4年3組) ◆ フルートは、帰ってから先生にふかせてもらったら、私はまったく音をならすことができなかったので、くやしかったし、やってみたいなと思いました。(4年3組) ◆ ぼくは、えんそうを聞いてビックリして心の中で飛びあがりました。「なんてうまいんだろう」と小声で3回も言ってしまいました。(4年2組) ◆ 二人とも曲が変わると別人のようでした。「集中力もすごいなぁ」と思いました。(4年1組) ◆ ぼくは、このクラスコンサートで、音楽がどんなに大事なのかがわかりました。西川さんや多久さんの演奏をきいて、心がおどるような気分になりました。このとき、音楽は、自分にきびしく、人によろこびをあたえる物だと、はじめてわかりました。ぼくは教室に帰ってきた時、心の中で、もっと歌やリコーダーがうまくなれるようにがんばろうと思いました。その時身ぶるいが体の中を走りました。(4年1組) ◆ ピアノとフルートの音が一緒になった時は、ただきれいと言うのがもったいないくらいでした。すーっごくすてきでした。(4年1組) ◆ 最後にあくしゅした時に何回も何回もならんで、あくしゅをしてもらいました。あとで、あーもうこの手は一生つかわない、あくしゅしたのに物をもったりするのがもったいないなと思いました。(4年1組) ◆ 「ありがとうございました」って、数えきれないほど言い、うれしかったです。(4年3組) |
演奏者
西東京市在住。桐朋女子高等学校音楽科を首席で卒業後、桐朋学園大学音楽学部卒業。1998年ピティナ・ピアノコンペティション特級金賞受賞など、国内外の多数のコンクールで優勝。モスクワのチャイコフスキー記念モスクワ音楽院大ホールにて、ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番を演奏。併せてCD録音を行いアメリカで発売。国内のみならずオーストリア(ザルツブルグ)・ウルグアイ・フィリピン・イタリア・アメリカ・香港・シンガポールなど世界各国でソロ・室内楽・オーケストラとの共演で活躍し高い評価を得ている。 「西川潤子のピアノ日記」
東京藝術大学卒業。現代音楽アンサンブル「BOIS」、現代フルートカルテット「Nozzles」メンバー。主に現代音楽のプレーヤーとして国内外の同時代作曲家の作品の初演、再演に携わる傍ら、オーケストラ、ポップス、ジャズバンドなどでの演奏、また自ら作、編曲も行い、自作の曲を演奏した「ポンキッキーズ21」出演や「題名のない音楽会」出演など独創的な活動を展開中。全日本クラシック音楽コンクールフルート部門優勝、朝日現代音楽コンクール入選。
プログラム
ショパン「幻想即興曲(ピアノ)
マスネ「『タイス』の瞑想曲」(フルート)
ドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」(ピアノ)
クライスラー「愛の喜び」(フルート)
ウィンナー「茶色の小びん」(リコーダー合奏)
久石譲「君をのせて」(合唱)
赤尾暁「音楽のおくりもの」(合唱)
◎エフエム西東京「西川潤子のようこそクラシック!」で2/12にクラスコンサートの様子を放送。
◎「西川潤子のピアノ日記」には西川さんのコメントが!