2019年11月15日(金)にカワイ表参道コンサートサロンパウゼにてピアニスト中井 正子先生をお招きし、シューベルトの即興曲に焦点を当てた「中井 正子 シューベルト:即興曲集 全8曲 ピアノ公開講座 第2回(全4回)」を開催いたしました。
本日のテーマとなったのは《即興曲》Op.90より第3番および第4番。かなり曲調の異なる2曲ですが、いずれも日本のピアノ愛好者には人気のある楽曲であり、平日午前の開催にも関わらず多くの方が聴講にいらしていました。
各曲の講義に入る前に中井先生は、シューベルトの楽曲の特徴について概説されました。シューベルトはしばしば初期ロマン主義の代表的な作曲家に数え上げられますが、実のところ活動期そのものは古典主義の代表であるベートーヴェンと変わらず、モーツァルトやハイドンともさほど差はありません。しかしながら、半音階的な転調や歌曲に端を発していると考えられる旋律の繰り返しやアクセントの付け方は、やはり古典主義の作曲家達とは一線を画しています。よって彼の音楽を理解するには、譜面を表面的に追うことに留まらず、転調によって織りなされるハーモニーの変化を感じたり、繰り返される旋律の意味付けを行う必要があります。
息の長い主旋律が特徴的な第3番は「アリア」の位置づけにある、と中井先生は仰っていました。よって、音と音の間の表情を埋めるために、主旋律に歌詞がついているつもりで、主旋律の繰り返しは歌詞の変化と捉えて想像を膨らませることが必要です。また、主旋律やベース音を担う外声は、あたかも対話しているかのように、細やかなニュアンスの変化を生み出す内声は、その音程の微細な変化を際立たせながら演奏する必要があります。
第4番は非常に明快な三部形式ですが、特徴的な走句があり、手の運動を意識して練習する必要があります。中井先生は実際に効率のよい手の動かし方を見せながら、いかにして手の運動を身体に落とし込ませるかという話を丁寧にされました。また明快な三部形式でありながら、微妙に旋律の周期が変わっていたり転調の在り方に変化があるのがこの楽曲の粋なところでもあり、演奏者はそれらの特色一つ一つについて、自分の解釈をもって演奏する必要があります。
これまでの中井先生の講座の中では、テーマの曲が2曲と非常に絞り込まれたトピックでしたが、それでも講座の時間はあっという間に過ぎてしまいました。これから登場する即興曲につきましても、中井先生がどのような楽曲へのアプローチを見せるのか、非常に楽しみです。