2019年5月9日(木)にカワイ表参道コンサートサロンパウゼにて、名ピアニスト松本 和将先生をお招きし、「ピアニスト松本和将のロシア名曲選 ~レクチャー&コンサート Vol.2 ラフマニノフ~ 第1回(全2回)」を開催いたしました。
今回はラフマニノフに焦点を当てて、レクチャー2回とコンサートの合計3回でその魅力を紹介してくださいます。
レクチャー第1回では、ピアノ協奏曲第2番を中心に、「ヴォカリーズ」(コチシュ編曲)、練習曲「音の絵」Op.39より第3・5・9番、「楽興の時」Op.16より第3番と第4番が取り上げられました。
レクチャーは「ヴォカリーズ」から始められました。この曲のピアノ版はいくつかあるようですが、松本さんはコチシュ編曲のものがシンプルできれいな編曲で、一番好きなのだそうです。
まず途中まで演奏して、解説に入りました。この曲を弾くには、どんな気持ちで弾くのかを考えることが大事で、奏法としては、地球の重力に逆らわないように自然な動きで弾くのが一番良い音が出るということです。横のラインがずっと続くように弾くにはどうすればいいか、どうやったらフレーズが繋がるか、といったことについて詳しく説明されました。例えば、頭の中に長いフレーズがないとつながらないとか、歌ってみて美しいフレーズを感じられること、声に出して歌う、頭の中で歌う、そしてどうやったら歌が繋がるかを考えることが大事だそうです。
腕の動かし方も大切で、腕の根本から存分に動かすようにして重さを乗せ、それを次のキーに滑らかに繋げていく。そのためには体の脱力、手首の力の抜き方や指の関節の力の抜き方が大切だと、いろいろ実演してくださいました。
続いて、協奏曲第2番を解説しました。
ピアノ・ソロの部分は勿論、オーケストラ・パートも部分的に弾きながら、全曲の構造、形式やテーマなど、大掴みに分析をしました。いろいろな所に主題のモティーフが散りばめられていて、凝った作りになっているそうです。この凝った作りの中でいかにして大きな気持ちの流れを表したか、ということがとても大事だということです。
どういう気持ちの流れがそこにあるのかを、全楽章にわたって解説なさいました。まず第1楽章では、暗く寂しい和音で始まり、そのまま暗く苦しい気持ちが繰り返し出てきて、その気持ちは解決せず、諦めとちょっとした憧れが出てきます。心の痛みを引きずりながら憧れの世界に近づきますが、最後は暗い世界に戻ってしまいます。
第2楽章は第1楽章の苦しみを引きずる感じで始まり、幸せな世界に憧れますが、それは遠い世界でなかなか辿り着けずに違う世界へどんどん追いやられます。しかし次第に今までの世界とは違う、広い明るい世界が広がります。
第3楽章では苦しみがまたよみがえります。オーケストラの演奏の間に光が見えて来て、喜びがこみ上げ、そしてクライマックスに向かいます。クライマックスでは、大いに盛り上がり、そしてめでたく大団円を迎えます。
松本さんはこの曲を、最後の大団円のために、気持ちのままに書かれた曲だと仰いました。この名曲の聴き方もこれから変わってきそうで、楽しみです。
残った時間で、練習曲「音の絵」Op.39と「楽興の時」Op.16について触れました。「音の絵」Op.39-3は、右手が忙しいがそこをいかに上手く弾くか、というエチュードで、歌と美しい和音に溢れた曲です。それを速く弾かなければならないところがこのエチュードの真髄ということです。Op.39-9は、美しい和音がたくさんあるので、それを感じること、どんな和音かを考えること、奥に隠れている和音はオーソドックスなもので、一つひとつの和音がどう繋がっているかを感じること、それが大事だそうです。あくまでも美しく、ということです。
「楽興の時」Op.16は、Op.39よりずっと分かり易く、第4番は古典的な和音が使われているので、それをよく感じながら弾くと美しくなり、第3番はラフマニノフの落ち込みとか希望とかをいかに感じられるか、その落ち込みは爆発しそうな気持ちを持った、非常に大きな嘆きになる、ということです。
ラフマニノフは、本当に気持ちの溢れた作曲家だと仰いましたが、講座を聴いてなる程と感じました。
最後のコンサートで松本さんの演奏を聴くのが大いに楽しみです。
コンサートは7月5日(金)19時開演です。
※カワイ音楽振興会HPより転載