2019年5月9日(木)に伊藤楽器 船橋イトウミュージックシアター(船橋店3F)にて久保春代先生(講師)、舘野泉(特別ゲスト)先生をお招きし、「スオミ・ピアノ・スクール -監修者・ピアニスト舘野泉氏を迎えて-」を開催いたしました。
まずは久保先生より、スオミの生まれた国フィンランドの自然と人々についてのお話がありました。一年の半分を厳しい冬に閉ざされるフィンランドの人々は謙虚に自然と向き合い、長く暗い冬をどう乗り切っていくか、物事に対して先を見据えた考え方を持っているとのことです。充実した社会保障もその表れで、スオミ・ピアノ・スクールにも結果を出すことを急がない長い目の教育という考え方が反映されています。
次に久保先生の演奏を交えながらテキストの解説に入りました。
各巻が進むごとに描かれているイラストのキャラクターも『旅立ち』の巻の《うさぎ》、次の1巻では柔軟、敏捷性、注意深さを増した《ねこ》へ、更に2巻では知性を持った人間に近い《さる》へと進化していきます。子どもはイメージの広がる表情豊かなイラストのキャラクターと共に成長している実感も得られるのではないかと思いました。
スオミは子どもの指導書でありながら、私達指導者にもその根本的なことに気づかせてくれる素晴らしい教材だと思います。スオミを指導の軸として、私達自身が常に学びながら子供の音楽の世界を広げてあげたいと思いました。
後半は舘野先生と久保先生の対談へと進みました。舘野先生の子供時代は草野球や相撲、遊びの時間を楽しみながらも、ピアノの時間になるとごく自然にピアノに向かわれていたそうです。
ご子息バイオリニストのヤンネ舘野氏の子供時代や音楽家への道のりについても話されました。スタートは早くはなかったそうですが、演奏家としての道のりをヤンネ氏はゆっくり焦らずに基本的なことを諦めず、良いものを身につけながら歩んで来られたとおっしゃっていました。父親として舘野先生は、絵画や建築にも良いセンスを持つヤンネ氏はいずれ何かをつかむだろうと信じ静かに見守っていらっしゃったそうです。
フィンランドの人々の長いスパンで物事に取り組む姿勢、謙虚さ、我慢強さを垣間見た思いでした。
また脱力についてのお話では、高校生時代のコハンスキー先生との出会いが大きな転機となられ、脱力を身に付けてから縛られていた身体も手も楽になり人生が変わったように感じられたとのことです。スオミでも最初から大切にしている脱力ですが、当時はまだ脱力という言葉は広く知られていなかったそうです。
音楽と呼吸の関係についての質問には、作曲家・間宮芳生氏の左手のための作品『風のしるし』の、風=風の神にまつわる神話についてお話をされました。
「呼吸することは命であり、音楽の中の呼吸とはこの風と同じ、常に意識する大切なことです。ペダルを踏む時、曲の終わりに響きが消えゆく時にも、常に呼吸を感じている。」
とおっしゃいました。音楽の根源に触れる深いお話でした。
そして「ピアノを弾くことは運命的なこと。演奏することが自分の使命である」というお言葉が心に残りました。
最後に舘野先生の演奏でセミナーはしめくくられました。
・月足さおり作曲『雫~しずく~』より「風の彩(いろ)」
・マグヌッソン作曲『アイスランドの風景』より白夜を描写したと言われる
「うららかなひと時、夏至の深夜の煌々と明るい夜に」
・光永浩一郎作曲『サムライ』
心に深く語りかけてくる演奏に会場はしみじみとした感動に包まれました。