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- 小森輝彦先生(バリトン歌手)(2019年2月13日(水):開催)
- 洋の東西のメンタリティーギャップ
~日本人が西洋音楽をするということ~Part.2
私達の日常の中に自然とあるクラシック音楽。その発祥の地は西洋ですが、様々な国において、伝統ある音楽や、新しいジャンルの音楽と共に親しまれています。日本の伝統音楽である能楽や箏曲などと比べても、国による文化や音楽の違いは一目瞭然でしょう。では私達は異国のものである西洋音楽をどのように理解して、表現していけばよいのでしょうか。
今回のワークショップでは、日本人初のドイツの宮廷専属歌手として活躍され、17年間、現地で西洋の文化に触れてきた小森輝彦先生のお話を伺いました。
2多くの信仰のあり方が混在してきた日本では、多様な文化が融合されています。西洋では一神教が主流であるためか、善悪を明確に区別する傾向があります。そのような背景からか、小森先生が西洋の生活の中で感じたのは、曖昧な表現をせず、はっきりと言葉にすることだったそうです。そのためには、物事を切り離して分析しなくてはなりません。
私達は言葉の分析を意識していくことで、西洋の文化を感じることができるのではないでしょうか。
音楽においての呼吸とはどのようなものでしょうか。私達は、曲の弾き始めや休符で意識するものだとか、実際に歌って息を吸う場所などと答えるでしょう。
小森先生がシューベルトの「菩提樹」を歌います。呼吸の部分を意識して耳を傾けてみると、テンポやデュナーミクなど、その後に続く音楽によって、呼吸の仕方が変化するのがわかります。指揮者のタクトと同じです。
小森先生の「深呼吸をするのはどのような時か。」という問いかけに、受講生から「心を落ち着けたい時」「怒りたい時」などの声があがります。そのような場面では、心拍は上がり、呼吸は浅くなっているでしょう。そこで深く息を吸ったり吐いたりすることで、心を落ち着かせようとします。つまり呼吸で感情をコントロールしているのです。
ここで、シューベルト《冬の旅》から「おやすみ」をフレーズごとに分けて、場面毎の感情を言葉で表す作業に取り組みました。
例えば希望→喜びを表現する場面では、色にすると「黄色」→「ピンク」、心の中は「ワクワク」→「やった」、気持ちで表すと「楽しみ」→「嬉しい」など具体的に言葉にします。
感じる季節によって色が変化したり、登場する人物の年齢によって、言葉のニュアンスが変わったり。このように、ただ「感情」という解答に留まらず、色、手触り、温度などのはっきりとした言葉に分析していくことで表現の幅が広がります。そこから個性が見えてくるのです。色も言葉も、その人のもつ印象や先入観によって表情が変わるものだからです。
表現する時の注意点として、ひとつのフレーズ内の感情と呼吸を一致させるよう、ワンカラーを意識することが大切です。途中で感情を放棄せず、体や表情をキープし続けることで次のフレーズとのコントラストがはっきりするのです。
心を知性と感情の2つから成り立っていると考えてみると、この二つの中ではしばしば矛盾が生じます。例えば「食べたいと思っているけれど、食べちゃいけない」など、そのような矛盾は音楽においても多く存在しています。
例えば小森先生が歌った木下牧子さんの「竹とんぼ」。歌詞の中の「高く飛んで欲しい。」という希望や願いと共に「本当に遠くに行ってしまったらどうしよう。」という心配や寂しさという異なる感情が混在する様子を表現されていました。このように2つの感情を表現する場合は「硬いけれど温かい」「冷たくてゴツゴツしている」など、多層的な表現をすることで、その音楽の強さを引き出すのだそうです。小森先生のように呼吸法を熟練することで、一つのフレーズ内でも表情を変える、ワンブレスツーカラーという表現が出来るそうです。
呼吸についての考察は、身体そのものが楽器である小森先生ならではの視点で、驚きと発見がたくさんありました。感覚的な捉え方から、まず分析の過程を作ることで、何気なく行なっていた呼吸の方法が変わっていくでしょう。そしてはっきりすることで、個性豊かな表現に繋がっていくのではないでしょうか。自分の音楽を主張をするのは勇気のいることです。しかし、思い切って一歩踏み出すことで新たな世界が見えてくるかもしれません。
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フレーズを言語化し、呼吸を考える事で自然な感情表現に繋がると思いました。楽譜に書いてある事よりも、どう感じるかを大切にすることで自主的な表現が出来るようになるのではないかと感じました。子供達への指導の際も、楽譜にとらわれすきず、感情面を大切に取り組んでいきたいと思います。