2018年11月8日(木)にカワイ表参道コンサートサロンパウゼにて松本 和将先生をお招きし、「ピアニスト松本和将のロシア名曲選 -レクチャー&コンサート Vol.1(全5回)- 第2回」を開催いたしました。
今回はムソルグスキーの《展覧会の絵》と聞いた時に思い浮かべる人が多いラヴェルのオーケストラ版との比較、またムソルグスキーが作曲したオペラ《ボリス・ゴドゥノフ》の音源を聴きヒントを得ながら、ピアノ作品を一曲ずつ解説されました。
松本さんは子供の頃オーケストラ版の《展覧会の絵》に聴き惚れ、なんとかピアノで弾こうと採譜したそう。しかし実は聴き慣れているオーケストラ版はピアノの原曲がラヴェルや他の作曲家によって編曲されたものと知り...ラヴェルによるオーケストラ版は卓越したオーケストレーションがうかがえるものの、それは果たしてムソルグスキーが思い描いた展覧会の絵の世界観と同じものなのであろうか。昨年一年間は松本さんにとってロシアイヤーで、楽曲を読み解いていく過程で、いかにもロシア的なオペラ《ボリス・ゴドゥノフ》に触れ、この疑問への手がかりを見つけられたそうです。まずプロムナード。ラヴェルオーケストラ版では金管楽器から始まりますが、この部分は合唱でソリストが歌うような風なのではないか。根拠として拍子を上げ、おそらくロシアの民謡など言葉(語感)によって生まれる拍子であり、ロシア語でよく耳にする「シュカ」のような子音がつくイメージなのではないかとお話しされました。また〈ビドロ〉や〈バーバ・ヤガー〉などは単に重みがあるという以上に、根が深い、凄まじさが求められているのではないか、と実演を交えながらお話しされ、その演奏には説得力がありました。一曲一曲お話を聞いているうちに、ハルトマンの絵を鑑賞する様子が想像でき、曲に挟み込まれるプロムナードに対するそれぞれのモチヴェーションについても理解の手がかりとなるようでした。土くささ、凄まじさなどに並んでロシアの作品の大きな特徴である「鐘」の響きについても、例えば透明感や幻想的な雰囲気を出すために使われるペダルとは異なる、音を混ぜるためのペダルが使われます。その響きは、打鍵力を必要とし、ペダルとの相乗効果で複雑な味わい(雑味)が生み出されました。
ドイツ音楽や古典を弾くときのような「端正な音」、これをロシア音楽にそのまま持ってくるとロシアの世界観は損なわれてしまう。「端正な音」であれば良いのではない。「もっと曲の世界観を彷彿させる演奏があっても良いのではないか」と繰り返しお話しされました。
12月6日には、二回のレクチャーで取り上げられた曲がコンサートで披露されます。お昼のひとときに、ロシア音楽の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。