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- 練木繁夫先生(ピアニスト)(2018年10月31日(水):開催)
- ピアニストとアンサンブル
アンサンブルとは「共に」「統一」「調和」などの意味を持ち、音楽においては二人以上で演奏することを指します。
ピアノは普段一人で演奏する機会の多い楽器ですが、デュオや他の楽器の伴奏などでアンサンブルと関わっています。アンサンブルでは、自分以外の音に耳を傾けなくてはならないので、演奏者の人数が多ければ多いほど、呼吸を合わせるのが難しくなります。独奏の時とは違った緊張感があります。
では周りの演奏者と上手く合わせるには、どうすればよいのでしょうか。
今回のセミナーではアンサンブル経験の豊富なピアニストである練木繁夫先生のお話からポイントを押さえていきます。
インディアナ大学へ留学し、ピアノや室内楽の勉強をしていた練木先生は、大学教授であり、チェロ奏者であったシュタルケルと出会います。そして練木先生が25歳の時に、シュタルケルに誘われて演奏活動を始めるのです。チェロの巨匠との30年に渡る演奏活動から、技術面だけでなく精神面も学びます。
アップとダウンの動きや手首の柔軟、脱力など、弦楽器とピアノの奏法には共通点がありました。弦楽器の動きと一体になろうとすることで、相手との呼吸や音色に寄り添っていきます。他の楽器と合わせる時は、まずその楽器を理解することが必要です。
違う楽器の視点からピアノを見れば、音色の追求の為の様々なアプローチが可能でしょう。その結果、奏法の引き出しも増えて、その中から合う音を選択できるようになります。
シュタルケルは「ピアノの左手にはハーモニーがある」と言い、そこに調和の要素があると説きました。ピアノにおいては一般的に右に旋律、左は伴奏で控えめにと思いがちです。しかしシュタルケルは伴奏者を脇役ではなく、一人の演奏者として考えていたのでしょう。それは左手の動きでハーモニーを作るチェロ奏者ならではの考えだったのかもしれません。
練木先生とシュタルケルは年間100を超える公演を30年間続けてきたそうですが、どのような状況でもきちんとした演奏を披露出来る彼の姿からプロの精神を学んだそうです。
「弾けなくなる時はお客さんより早く自分がわかる」
満足のいくパフォーマンスを観客に贈り続けたシュタルケルの言葉です。
練木先生にとってのアンサンブルは「ピアノを超えた世界」です。一人でピアノを弾く以上のアプローチ先があるからです。アンサンブルを学んだからこそ、今の自分の演奏にたどり着いたのだと言います。
私がアカペラ合唱団に在籍していた時の話です。
その合唱団の先生は、アンサンブルコンテストで金賞を受賞する実力を持ったチームを多数指導していました。私達もその指導によって、各パートが「複数人の声の集まり」から「ひとつの声」に聞こえるようになっていきました。リードする人の声に周りが合わせていくのです。美しいハーモニーは声同士が寄り添い、一つになる事で生まれるのです。
独奏だけでなく、アンサンブルの体験をレッスンに取り入れていきたいものです。身近で取り組み易いのは連弾です。早期から相手の音に耳を傾ける体験をして、音楽を通じて会話が出来るようになれば、その後の様々な場面でのアンサンブルにも影響を与えていくでしょう。
一人ではなく誰かと共に作り上げるアンサンブルだからこそ、調和した時の喜びも大きなものになります。
ピアニストもハーモニーを作るメンバーの一人として、積極的に音楽に参加する事が大切です。その役割を全うした時こそ、音楽の神髄である調和が生まれる瞬間であり、そこには独奏では見る事の出来ない、ピアノを超えた世界が待っているのかもしれません。
こちらの講座は「音楽総合力UPワークショップ2018」のeラーニングコースでご覧いただけます。eラーニングコースは随時受け入れており、途中からでも2018年度すべての講座のご視聴が可能です!
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練木先生から室内楽を通して学んだ演奏や人とのつながり、またパートナーであったシュタルケルの貴重なお話が伺え、大変感銘を覚えました。私自身も室内楽の経験を通して、色々な場面で変化を感じました。そして演奏してくださったショパンはそれはそれは素晴らしい音楽でした。