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- 下野 竜也先生(指揮者)(2018年6月13日(水):開催)
- ピアノ講師が目指すべきよい指揮者とは
第3回目のワークショップは、題名からとても興味深いものでした。
私は日頃のレッスンで、身振り手振りを使って、生徒達に速度や強弱などを誘導します。前々回の佐々木邦夫先生のワークショップでも、指揮が用いられていました。このようなアクションを使う講師は多いのかもしれません。
気軽に用いることが出来て、表現を伝えるのにとても便利な指揮ですが、私達はその本質を理解して活用できているのでしょうか。
私は子供の頃、テレビで見るオーケストラの指揮者を見て「この人は何をしてるのだろう。」と不思議に思っていました。楽器を持たずに踊るように動き、髪を振り乱して汗だくになる姿。
指揮者はオーケストラや合唱など、大人数での演奏を統率する役割を持ちます。
馴染みのある指揮者といえば、楽壇の帝王と呼ばれたカラヤン、ピアニストから指揮者の道へ進んだバレンボイムやアシュケナージ、日本の代表的な指揮者である小澤征爾がいます。それぞれに得意といわれる演目があったり、指揮の方法に特徴があったりと、一人一人が違った個性を持っています。
では同じ指揮者が振れば、どのオーケストラも同じ音になるのでしょうか。それともオーケストラの個性は確固たるものなのでしょうか。
指揮者が団員を従える支配者の様な時代もあった様ですが、現在は団員達と一緒に音楽を作り上げる、チームのキャプテンのような役割を担います。団員とコミュニケーションを取りながら、自身の音楽の方向性を伝えたり、相手を尊重したりと、それぞれの個性が積み重なって世界に一つの音楽が出来上がるのです。
下野先生の体験談によると、自分の思い通りになったからといってそれが良い演奏に繋がるわけではない事や、コンサート最中での団員との駆け引きによって、素晴らしい音楽が出来上がる事もあるそうです。指揮者と団員の間に信頼関係があってこそ、オーケストラは成り立つのです。
オーケストラという大きな楽器を奏でる指揮者の立場において、下野先生は「楽譜について何を聞かれても答えられなくてはならない。」と言います。指揮者は楽譜の上で、作曲者と飽きるくらい対話をして、どんなに小さな事も見逃さず、全ての事に対して言葉で説明出来るようにしているのです。多くの人に自分の音楽を主張する事の責任を、その言葉から強く感じました。それは私達ピアノ講師も持たなくてはならないものです。
ここで課題として取り上げられたのがクーラウの「ソナチネ」です。下野先生は楽譜に「なぜ?」という疑問を投げかけながら、作曲者の意図を探っていきます。拍子であったり速度であったり、理論で決まっている事は楽譜に記載がありますが、大切なのは自身の感じる感覚的な部分です。オーケストラが奏でている様だとか、嵐がきた様など「〜の様」という発想は限りがなく、一つの楽譜の数ページの中にも、果てしない世界が広がっていくのです。
そして「なぜ?」を突き詰めたその先にファンタジーがあるのだと下野先生は言います。そこへ行き着く事が、奏者の個性と魅力のある演奏に繋がっていくのでしょう。
1台でオーケストラを奏でられる音域を持つピアノ。ピアニストは常に指揮者と奏者の二役をこなしていると言えるのかもしれません。私達が生徒にとって良い指揮者になれるかというのは、自身が日頃からどれだけの知識と感覚を追求して演奏をしているかが反映されるでしょう。
私はこれまで、楽譜を読んでつかえずに弾ける事で、その曲をマスターしていると勘違いしていたのかもしれません。自分も生徒も使ってきた「ソナチネ」ですが、次から次へと出てくる下野先生の「なぜ?」に答える事が出来ない事で、自分の指揮のアクションがいかに表面的なものだったのかに気づかされました。基礎レベルの教材だからと軽く考えていたのかもしれません。
まずは講師が楽譜とよく向き合う事。そして理論だけで誘導するのではなく、生徒と共に作曲者と対話しながら、たくさんの「なぜ?」を見つけて、楽譜の世界を広げていく事が必要です。様々な要素を盛り込んで生まれ変わった「ソナチネ」に指揮のアクションをつけていったとしたら、それは以前と違って大変忙しいものになるでしょう。
理論と感覚が織りなすファンタジーを自分も生徒達も感じていけるように、私達講師はいつも探求する心を持ち続けなければなりません。
こちらの講座は「音楽総合力UPワークショップ2018」のeラーニングコースでご覧いただけます。eラーニングコースは随時受け入れており、途中からでも2018年度すべての講座のご視聴が可能です!
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このワークショップを受講して、自分が楽譜を見きれていなかった事がわかりました。またレッスンでは指揮を活用していますが、フィーリングの部分が多かったので、きちんと言葉にして伝えていける様にしたいです。全ての生徒さんの楽譜と向き合うには時間が必要なので、まずは中級くらいの生徒さんの楽譜から見直していこうと思います。