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- 新実徳英先生 (2018年3月16日(金):開催)
- 譜面の読み方、音楽の捉え方~自作エチュード①②を巡って
2017年度の音楽総合力upワークショップの最終回は作曲家の新実徳英先生をお迎えしました。新実徳英先生は東京大学で機械工学を専攻したのち、合唱に熱中したのがきっかけで作曲家を志し、東京藝術大学そして同大学院を修了という経歴の持ち主です。ファシリテーターの今井顕先生の「私達とは脳細胞の数が違う」と冗談を交えたご紹介からセミナーが始まりました。
今日の題材となる新実先生作曲「ピアノのためのエチュード―神々への問い―第2巻」はちょうどワークショップの日に出版でした。このエチュードは全3巻、9曲で構成されています。既に出版されている第1巻は若林顕先生の演奏で録音、未出版の第3巻も昨年末に同じく若林先生の演奏にて初演されました。その若林先生に「リストより難しい」と言わせたエチュードはどのような曲なのでしょうか。
このエチュード作曲のきっかけは「ピアノとはどういうものか」と先生ご自身に問うため、そして「ピアノの新しい面白さを得るため」だったそうです。合理的な動きと指使いを用いて、左右10本の指で何ができるのか、さらには人間の肉体がどのくらい動けるものなのかを追求しました。
まずは中田雄一郎さん、渡部由美子さん、鴨田友梨香さんが実際に演奏し、新実先生が2巻の3曲をそれぞれ解説、続いて若林顕先生の音源を聴き、同様に1巻の解説をしていただきました。
- 〈1巻〉
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Ⅰ.どこからどこへ?
Ⅱ.我々は漂っている?
Ⅲ.心の奥深くに何がある? - 〈2巻〉
- Ⅳ.宇宙は拡散している?~演奏:中田雄一郎さん
Ⅴ.宇宙は呼吸する巨大な生命体だ~演奏:渡部由美子さん
Ⅵ.惑星たちは踊る?~演奏:鴨田友梨香さん - 〈3巻〉
- Ⅶ.宇宙は切れぎれの余韻でできている?
Ⅷ.万物は流転する、神よあなたもですか?
Ⅸ.ビッグバンの直前はどんなだった?
Ⅳ.宇宙は拡散している?
冒頭に全てのものが含まれます。1小節目のものを2小節目で右手が先取りしつつ左右でずれていきます。この「ずれ」という言葉は学術的な言葉ではなさそうですが、非和声音は和声音からの「ずれ」、フーガのストレッタではテーマが折り重なって「ずれ」ていくと理解すれば一見複雑な響きにも共感できます。
Ⅴ.宇宙は呼吸する巨大な生命体だ
出だしはBACH音列。このシンプルな音の塊を材料として使い多様なことを作り出すのが作曲であり、それが研ぎ澄まされた結果、統一性と多様性が自ずから備わってくるのです。最後に最初の和音を使っての謎解きがあります。
Ⅵ.惑星たちは踊る?
アラビックな「C/Des/E/F/G/As/B」の音階が使われています。宇宙の原理は螺旋と波動です。渦巻星雲も天体の運動も螺旋状、植物の葉っぱも螺旋状に生える、そして我々人間の血管も螺旋状になっています。その「螺旋状の音階」をそのまま利用した曲です。
Ⅰ.どこからどこへ?
一体我々は宇宙のどの辺りにいるのか?137億年経っても、どこにいるのか座標がわからないという哲学的な意味も込められています。BACH音列がどこかで連結しつつ循環しています。
Ⅱ.我々は漂っている?
トリルは振動系の音だという捉え方で、音が絶えず揺れています。ソステヌートペダルによる余韻にも注目です。
Ⅲ.心の奥深くに何がある?
人間が心の奥で共有している「集合的無意識(心理学者ユングの用語)」の概念が意識された、緩やかな縛りの中で作曲された曲。右手3度の旋律に対して左手は7度で動き、不思議な明るさを感じる曲です。最終部分は自分探しでもがいている感覚で。
質疑応答では曲に関しての質問に加え、「現代曲を弾く意義」にも話題が及びました。その中で、新実先生の「音楽の中で一番大切なのは古典。バッハからベートーベンを熟知しなくてはならない。そして逆に20世紀以降の新しいものを知ると、古典の見え方が変わってくる。バッハの単純な音の中に、ものすごくたくさんの意味があることが見えてくるのです。食べず嫌いにならず新しいものを取り入れて古典への目を開くのはとても大切」という言葉は強く印象に残りました。
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