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- 宮田まゆみ先生 (2018年2月14日(水):開催)
- 現代の雅楽/古代と現代を結ぶ音楽
第9回目の音楽総合力upワークショップは、東洋の伝統楽器「笙」を国際的に広めた第一人者として知られる宮田まゆみ先生をお迎えしました。ファシリテーターには宮田先生との共演をされたこともある作曲家の藤原豊先生。2時間余、普段あまり関わることのない雅楽の世界の興味深いお話をお聞きしました。
まずは宮田先生の演奏で雅楽の古い曲「平調調子」の演奏を聴かせてくださいました。「平調調子」は源氏物語の中にも登場し、少なくとも千年以上前には演奏されていた曲ということになりますが、出所は日本か中国か分かっていません。近代的な感じと雅やかな響きを併せ持つ曲です。笙から発するまろやかな音に引き付けられつつ、どのように発音するのか、ブレスタイミング、タンギング、またピアノの440Hzとピッチが違うことなどに好奇心がかき立てられます。
雅楽には3つのジャンルがあります。
- 古代歌謡~日本古来の音楽。楽器の数が少ない。
- 渡来楽舞~8世紀朝鮮や中国から渡ってきた。楽器は数十種類。
- 詩歌管絃~和歌や漢詩に伴奏を付けたものなど日本独自の平安時代中期の雅楽の文化。
その昔、雅楽が大陸から日本に渡り、やがて平安中期には貴族の日常に存在したことは、明治時代に西洋音楽が日本に入り、程なく日常的に聞かれ演奏された変遷と似ているのです。
さて、笙という楽器に話は戻ります。笙という楽器はどのような歴史を持つのでしょうか。
今から3300年ほど前の殷の時代、「笙」という漢字が残っています。空洞の棒(竹)を集めて束ねて結んだ様子が甲骨文字に見て取れます。そして驚くことに、その文字は「龢(和)」と進化します。笙が「和音(=調和)」を求める楽器として今から3300年前の殷の時代の甲骨文字に存在するということは、もしかしたら楽器はその前から存在していたのかもしれません。中国神話では人間を作ったと言われる女神、女媧が笙を作ったという伝説もあるそうです。
その後、笙は黄河と揚子江の間に住んでいたミャオ族が歴史の中でだんだん南へ追われ、それと一緒に楽器も広まり、日本へは前述の通り、奈良時代に伝来しました。
紀元前6世紀、古代ギリシャでピタゴラス音律が発見されたのと同じころ、古代中国でも音律の体系が整えられていました。中国で管楽器の「管」の長さにより考案された「三分損益音律」が、ギリシャで「弦」を使った「ピタゴラス音律計算法」と原理的には共通し、純正5度を積み重ねていく方法で音階がそれぞれに存在したのです。現在私達が使っている音律の元は一般的にはピタゴラス音律と言われていますが、ピタゴラス以前の中国に既に音階を持った楽器が存在したことは興味深い事実です。
これら2つの音律が時を同じくして別の場所で生まれたことを考えると、もしかしたら人間が体で感じる「純正5度の周波数比」が「2:3」となる音律法則を始め、宇宙の惑星の体系やその他世界の様々なものの「万物の調和の状態」というものを古代の人は体で分かっていたのではないでしょうか。現代社会に比べ、当時の自然に近く視覚的にも聴覚的にも邪魔なものの少ない環境の中で、人間はより鋭く「バランス」というものを感じることができたのかもしれません。もしかしたら今の私達はそれらを応用しているのに過ぎないかもしれません。
宮田先生は音大時代はピアノ科の学生だったそうです。3年生の時に国安洋先生の音楽美学の授業で古代ギリシャ人の宇宙観や文化、古代における音楽の在り方を学び、「宇宙のハーモニーを聞いてみたい」と強く思うようになります。大学を卒業した年、ある見慣れた風景の光と音の響きからインスピレーションを感じ"天啓"を受け、笙を始めたそうです。
「人間の体も宇宙の一部であり、宇宙から生まれてきている。その感覚が体に備わっているのかと思う」とおっしゃっていました。
日本の歴史に目を向けてみると、既に古事記の中に琴が何回か出てきます。笙は物語ができたころはまだ日本に入ってきていません。古事記の中の「大国主」の中に、大国主が「生太刀、生弓矢、天の詔琴」を携えて逃げたというエピソードがあり、琴が演奏行為だけではなく、儀式において大きな役目をもち、為政者にとり重要だったことがわかります。また「暗」という字は宗教儀式が「音」を使って執り行われたからだと考えられます。暗い場所で琴を奏でて神様を喜ばせ、通信したのでしょう。このように日本の歴史、古事記や漢字の成り立ちを見ると雅楽というものもわかってきます。
最後に、古典雅楽「越天楽」、そして源氏物語にも登場する舞楽「青海波」を宮田先生の演奏で聴かせていただきました。資料の平安中期の源氏物語を読み平安絵巻の楽器や舞などを見て、その当時を想像しながら笙の音を楽しみました。源氏物語の中で演奏された音楽が今なお引き継がれていることに日本人として深い感動を覚えます。
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