2018年1月6日(土)汐留ベヒシュタインサロンにて今井顕先生をお招きし、「モーツァルトへのレシピ -古典の風格を整えよう Vol.5-」という題で講座が開催されました。
今回は『幻想曲を演出する ‐幻想曲K.397(d-moll)、K.475(c-moll)を題材として‐』というテーマ。 ファンタジー、それはモーツァルトにとってピアノを超えた世界であり、オペラのシーンを思わせる表現でもあること、オペラのセリフの間合いが大切なのと同様に、ピアノでもその間合いを表現していかないといけないこと。
シェイクスピアが、セリフに魂を込めろ!と言ったことが、同じように音に魂を込めろ!という気持ちが大切。
バッハもハイドンもモーツァルトも皆人間の心を持っていた。その心を音楽で表現したい、アナリーゼも規則も大事だが、もっと大切なのは人の心情を表現すること。そして、レオポルド・モーツアルトの言葉として『曲のアフェクトを感じる、それは音楽家の大切な感性』という印象深いお話が前置きにありました。
d-moll幻想曲では、出だしのAndanteには、英語のgoの意味があること。アリアの前の休符、静寂も音楽であること、」低音に見られる下降する音型は地獄に引き摺り下ろされるような恐怖! 逃げ出したい感情、諦め、叫び、、、、、そして穏やかな微笑みのメロディー。 この暗から明への切り替えがまさしく天才モーツァルトであるところ! そしてこの曲は初版譜では第97小節のい音上の七の和音で終わっていた、、そこから先は弟子が書いたのであろう。ただ内田光子氏のCDでは、彼女のオリジナルが付け加えられている。
一方、c-moll幻想曲では、モーツアルト直筆の楽譜を見ながら、c-moll 調号を書き入れながら消した後があること、モーツアルトが書き進んでいくうちに調号を使うことのは実際的でないことに気がついた。なぜならば、すぐに音楽はh-mollに転調していっているので、、、 参考資料として配られた直筆から、モーツアルトが側に居るような不思議な気分に浸った時間でした。
またここでも下降する軸のラインは、ドンジョバンニを思わせる地獄へと向かう恐怖、嵐のような音型に沿う2度音程には痛みが表現されている。対話風の音型にはそれぞれの登場人物の気持ちをいれて、、、など
今井先生の演奏からモーツァルト劇場に誘い込まれたようなセミナー、形にとらわれず、何よりも心で音楽を表現することの大切さを改めて思ったひとときでした。