2017年9月25日(月)、日響楽器池下店2Fホールにて、奈良井巳城先生をお招きして、「世界音楽事情第4回 ロシアピアニズムの魅力」と題したセミナーが開催されました。
奈良井先生は、ロシアのモスクワ音楽院で研鑽を積まれた先生です。最初に、ロシアピアニズムの系譜、鍵盤楽器伝承の歴史と4大流派について。沢山の名だたる音楽家の顔写真を使って、裏話的な内容もはさみながら説明して下さいました。巨匠と言われるロシアの偉大なピアニストたち(リヒテル、ギレリス、ニコライエワ、アシュケナージなど)を遡っていくとリストにも繋がり、また、ジョン・フィールド、そしてクレメンティへとたどり着くということが、とても興味深かったです。
ピアノ演奏に必要なテクニックについても、ハノンやコルトーの練習曲を例に挙げながらお話しして下さいました。各指の独立、フレキシブルな親指、手首のしなやかさ、トレモロの時の腕の回転、関節をバネのように柔軟に使うことなど、時にはグッズも使いながら、理解しやすく伝えるための工夫も教えて頂き、すぐにレッスンで実践できる内容も沢山ありました。
そして、多彩な音色を作るための打鍵の仕組みについて、ピアノのメカニズムの図を見ながらわかりやすくお話し頂きました。タッチによって、ローラーやハンマージャック、ハンマーなどの動きが変わり、その事が倍音に影響して様々な音色となる。そしてその多彩な音色を作るセンスを磨くには、良い音色も良くない音色も沢山経験するのが大切ということも教えて頂きました。
? ?それから、表現力豊かに仕上げるための工夫として、『言葉から学ぶフレーズ作り』のお話しもされました。 「おはよう」と「おにぎり」の"お"の発音を例に挙げられ、「おはよう」の"お"は、後にくる文字が柔らかい響き、「おにぎり」の"お"は、後にくる文字が固い響きであることから、同じ"お"でも発音が微妙に違う(調音結合)。このことと同じように考えて音楽のフレーズを作るという事が、とても心に残りました。
最後に、スクリャービンの詩曲Op.32-1の貴重な資料を見ながら、出版されている楽譜とスクリャービン自身の演奏(ピアノロールで記録したもの)を楽譜におこしたものとを弾き比べて違いを示してくださり、ルバートやアーティキュレーションの捉え方についてもお話し下さいました。先生のピアノの音はとても美しく、もっと聴いていたかったです。先生の語り口が自然で、あっと言う間に時間が過ぎていました。奈良井先生、盛り沢山の学びを頂き、本当にありがとうございました。