秋は豊かなレパートリーに触れて発表会やステップの楽しいステージに立ちながら、次の収穫に向けて音楽の基礎をじっくり磨く時期でもあります。スポーツでも、筋トレやリフティングは、ツライけれど、より高く飛ぶためには欠かせない「仕込み」です。各地の先生方に、基礎テクニックの指導の工夫を伺いました。この秋、基礎をばっちり固めて、次のレベルへ踏み出しましょう!
- 先生のご指導の中では、基礎練習をどのように扱っていますか?
- 「こんな音を出したい、こんなふうに弾きたい」と思ったときに遠回りして苦労しないように予め指を作っておいてあげたいという思いから、基礎に力を入れています。いざ、曲を弾いてみた時に、基礎ができていないと、どんなに言ってもなかなか良くならずに、本人がしんどくなってしまいますから、できれば小さいうちから自然と基礎を身に付けさせてあげたいですね。
- 具体的な指導のポイントは?
- 基礎練習であっても、子どもたちの想像力を信じて、豊かな言葉を掛けることが大切です。そのためには、まず私たち指導者が、基礎練習の教材にも素敵な曲や音楽的な瞬間がたくさん詰まっていると気づくことです。そしてそれを、イメージを膨らませるような言葉で子どもたちに伝えます。子どもは言葉かけ一つのちょっとしたイメージで、どんどんポイントをつかんでいきます。私は、ハノンやチェルニーを「キラキラのご本」と読んで、音をイメージする力、自分が思う音が出ているかを聴く耳、イメージを音にできる指を自然と身に着ける素晴らしい教材だと思っています。
- 先生は、チェルニーをステージで弾く企画も積極的に実施していますね。
- 教室の発表会では「チェルニーリレー」と題し、全員で100番、30番、40番、50番を演奏します。年上の生徒が50番を素敵に弾いている様子を見て、「私も弾きたい!」と自らチェルニーを練習する生徒が出てきます。
また、ステップでは、「チェルニーの部」を作っています。他の教室の生徒さんたちの演奏も聴くことができて、色々なチェルニーがあることが、自分の生徒だけでなく、他の教室から参加してくださる皆さんにも伝わると良いなと思っています。ステージで弾かなくても、チェルニーを練習している子は多いですから、聞いた子どもたちにも興味を持っていただいて、輪が広がったらうれしいですね。
- 「ひとつのお部屋(小節)に音が8つ入っているね。みんな同じ顔をしているかな?この音だけ風邪引きさんの音だね。みんなキラキラの音にしてみよう!」(ハノンで音の粒や音色を揃えるために)
- 「仲間はずれはいないかな?」「怒っている音はいないかな?」(ハノンを全調で弾いて白鍵・黒鍵のバランスを取る)
- 「メトロノームさんとどっちが楽しそうな音かな?競争してみよう!」(メトロノームと合わせた時)
- 「スキップをさせてみよう」「長靴を履かせてみよう」「バレエシューズを履かせてみよう」(リズム練習)
- 「カニさんが歩いているように弾いてみよう!お酒を飲んでいるみたいにクネクネしていないかな?」(スケール練習)
- 先生は基礎練習をどのように捉え、指導していますか?
- 「基礎テクニック練習が必要である」「ちゃんとやっておかないと後で泣きを見る」ということをレッスン中に刷り込み、本人に「チェルニーやハノンを弾くことが一番の近道である」と気づかせることが大切だと思っています。
例えば、ソナチネを弾いていて指が回らない場面で、ハノンの●●でやったことだよね。あの時もっとちゃんとできるようにしておけばよかったね。もう一度やってみる?」とか、右手8分音符/左手3連符が合わない場面で「チェルニー100番の●番でやったよね?」など、曲と基礎テクニック教材を結び付けて、指導を進めていきます。 - 教えるなかで気をつけておられることは?
- たとえコンクールや発表会があろうと、基礎テクニック教材はお休みしないと決めています。「時間がないからコンクールの曲だけをしましょうね」などとしてしまったら、二度とやらなくなってしまいます。限られたレッスン時間の中ですべてをチェックするのは難しいですが、現在やっている曲の調・並行調のスケール・アルペジオや必要となるテクニックなど、関連付いている内容は、曲の合間にさっと弾かせて、常にチェックしています。
- 先生は、基礎テクニック教材も含めて、現在練習している曲でステップに参加させることが多いですよね?
- 子どもたちは、いつもの先生だと、母親と同じくらい甘えたり横着をしたりするようになってくるものです。それを阻止するために、ステップのステージを活用しています。ときには「アドバイザーの先生、なんて仰るかしらね~、楽しみね」などと意地悪に突き放しながら準備し、「ほらね、先生がいつも言っていることと同じことが書かれているでしょ」とメッセージ用紙を一緒に確認します。アドバイザーの先生方が、普段のレッスンを見ていたかのような的確なコメントを下さり、生徒たちは、第三者からの指摘は素直に聞きますね。
また、現在練習している曲でステップに申し込むので、教室の他の子がどの曲まで進んでいるのか、お互いに進度を知ることになり、「あの子はチェルニー100番の●番まで進んでいる!」と対抗心に火がついて継続できるというような効果が見られたこともありました。
- 幼少期の基礎練習について、先生が心がけていることは?
- 幼少期の基礎練習では、テクニックの習得だけにとどまらず、聴く力、読む力、音楽表現など、総合的な音楽力の基盤を作ることを目指したいと思っています。また「ピアノは楽しい!」「音楽って面白い!」という喜びをたくさん経験して欲しいこの時期。基礎練習も楽しみながら積み上げていくレッスンを心がけています。
- 先生はご自身でも編集出版されるなど教材を熟知されていますが、基礎を磨くテクニック教材の選び方のアドバイスをお願いします。
- 幼少期のテクニック教材では、4小節や8小節で終わるような短いテキストを活用しています。読譜の量を生徒の負荷がかからないレベルにすることで、短時間でも集中して基礎練習に取り組むことができます。また曲数をこなすことで、初見の訓練にも繋がります。この時期のテクニック教材は、楽譜だけにとらわれず、タイトルやイラストなどからイマジネーションを膨らませる指導を行うことで、テクニックと共に音楽表現を深く学ぶこともできます。教材は一つに絞らず、生徒の現状や今後の目標に合わせて選択しています。
- 基礎練習をレッスンに取り入れる工夫を教えてください。
- レッスンでは、コンクールや発表会の忙しい時期でも必ずテクニック教材を指導します。時間が足りないことを生徒も指導者も言い訳にせず、長い曲の教材であれば一部分だけでも取り上げて聴いています。孤独になりがちな基礎練習も生徒にとっては「先生が毎回聴いてくれる」と練習に対して前向きな気持ちが芽生えますし、指導者にとっては1フレーズだけでも聴くことで生徒の問題点に気づき、次へ進むためのアドバイスを与えることができます。その他、レッスンノートや練習ノートなども活用しながら常に基礎練習の時間配分と課題を生徒と共に考えることで、自発的な練習にも繋がります。この指導方法を始めてから、コンクールの結果が向上するだけでなく、受験時でもピアノレッスンを休まずに通っている生徒が多くなり、基礎練習を継続する効果を感じています。
小さいうちはレッスンしながらノートに練習の順序を書き示し、その順に取り組むよう指導します。そして家での練習が習慣化するよう、記録をつけてもらっています。
【練習手順の例:】- ①音名を歌って弾く(音・音程を読み鍵盤と一致させる)
- ②音符の名前を言いながら、パーティーC以降は拍子を数えて弾く(拍子・リズムを確認)
- ③歌詞を歌って弾く(ブレス・フレーズを感じる)
自己チェックできる生徒は、宿題をどれだけ達成できたか◎◯△×をつけてきますので、レッスンでは△×がついた項目に時間をかけます。練習のポイントを掴めていないと思われる生徒に対しては、レッスンのはじめに1曲通して聴くことをせず、宿題を出す段階で提示した「練習の順序」に沿ってレッスンを進めることもあります。
中級以降になると取り組む曲が長くなるので、効果がないうえ時間がかかる「なんとなくの通し練習」は禁止しています。生徒本人が「どんな手順で練習をし、目標をクリアするか」考えられることが大切なので、テクニックの具体的な練習法や、取り出してさらう箇所は何を良くしたいのか、少ない時間でも効率的に「頭を使おう!」と話しています。目標達成のために自分で考えて計画的に実践できる力をつけ、ピアノ以外の分野でも役立ててほしいと願っています。
自宅練習の定着は、保護者のサポートなしでは実現しません。
ハノンが大の苦手で大嫌いだった私が、毎日ハノンを日課にするようになったのは、40才を過ぎてからです。演奏以外の仕事も多くなってピアノを落ち着いて練習する時間が少なくなり、毎日短時間でテクニックをキープしながら、生徒の前ですぐ弾いて聴かせる必要ができたからです。
<教本のポイント> 必要最低限のエクササイズを無理なく1日15分程度でできるようにまとめられています。各練習で気を付けるべき点や脱力の仕方についても詳細な記述がありますので、ぜひご参考に!
テクニックキープのためだけでなく、読譜スピード向上のためにもハノンはおすすめです。ハノンには様々な作曲家の作品にみられる音型が網羅されているため、しっかりハノンを身に付けることで、多くの音型を指および耳(脳)に取り込むことができ、楽譜の音型がすぐに指に伝達できるようになり、ひいては読譜も早くなります。読譜が早くなれば様々な曲を取り組むこともできます。全調でハノンの音型を演奏することができれば、どんな調も苦ではありません。
指導者も生徒と一緒にレッスンの時弾いて、少し弾く事に慣れてきたら、色々な音色(例えば木のようにかっちりした音、布のように柔らかい音、蜂蜜のように甘い音など)で弾いてみたり、リズムをつけてみたり、また言葉を乗せてみたりして、指の練習というよりピアノの音でお話しする感覚を持つと、自然に演奏が物を言うようになります。
<教本のポイント> 必要最低限のエクササイズを無理なく1日15分程度でできるようにまとめられています。各練習で気を付けるべき点や脱力の仕方についても詳細な記述がありますので、ぜひご参考に!
- 本当にハノンについて悩んでいました。生徒さん達の成長と共にハノンを学ばせたいと思って沢山のハノンの本を買い研究しました。しかし、どれを手にしても良い所と、不足した所と色々ありました。
講座では色々なお話が全て面白く勉強になることばかりでした。時間がもっと欲しい程でした。今日からハノン全調を練習しようと思います。そう、自分が練習不足でした。 - 日頃からハノンは使っていましたが、子どもたちといっしょにいろいろ工夫して、転調したり、エチュードを作って利用していました。先生のこのハノンは「こういうテキストが欲しかった!」というテキストになっていて、うれしい限りです。
<著者のことば>
ピアノ教育には欠かせない教材として古くから用いられてきた「チェルニー30番」――この教材に、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。本格的なソナタを弾く前には避けて通れない険しい道?それとも退屈でつまらない指の体操?このようにネガティブな印象を持たれている方は少なくないでしょう。けれども、練習曲の歴史を紐解きながらこの曲集を捉えてみると、「30番」には音楽的な面白さがたくさん詰まっていることが見えてきます。いわば、本書は練習曲というジャンルの歴史と楽曲様式の意味を考えながら、「チェルニー=厳しいテクニックの訓練」という見方を一変させる、まったく新しい「30番」のガイドブックです。例えば、第1番はバロック風のジーグ、第2番はシューベルト風のリート、第16番はパガニーニ風のヴァイオリン曲、第28番はベートーヴェン風の交響曲......本書を読み進めるにつれ、指の訓練の向こう側に隠された、「30番」の豊かな音楽の世界が見えてきます。
ピアノの先生のための雑誌「ムジカノーヴァ」には、毎月、今月の1曲を弾くためのテクニック練習を紹介する「エチュード」連載コーナーがあります。毎月、さまざまな先生が登場し、その曲に必要なテクニックを習得するアイデアが満載です。
「Lesson Time」(制作:東音企画)は、ピアノの先生と生徒のためのデジタル・レッスンノートです。基本機能は、次のレッスンまでの宿題を出し、進捗をチェックすること。順調に進んでいればコメントやスタンプで褒め、躓いていればメッセージやアドバイスを送ることができます。生徒管理、スケジュール管理、ウェブサイト作成など、ピアノの先生が求める機能が盛りだくさん。
ピアノは自宅での練習によってめきめき上達していく習い事。
Lesson Timeで練習効率を上げ、豊かなレッスン環境を整えましょう。