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- 清水醍輝先生 (2017年7月19日(水):開催)
- 協奏曲のスコアを読み解く
夏休み前の第4回音楽総合力upワークショップは指揮者の清水醍輝先生をお迎えして行われました。今回のファシリテーターの多喜靖美先生は、清水先生が17歳で第57回日本音楽コンクール・ヴァイオリン部門で優勝した時のテレビ放送をご覧になり、「天才少年」というのが第一印象だったそうです。その後、時を経て一緒にご指導することとなりお付き合いは長きにわたります。また演奏協力ピアニストしてお迎えした菅谷詩織さん、小滝翔平さんは幼いころからの多喜先生の門下生です。そんな多喜先生を中心とした先生方の和やかな雰囲気の中、2時間の講座が行われました。
最初に「協奏曲を演奏、あるいは勉強したことがありますか?」という清水先生の問いかけがありました。3割ほどの先生方が手を挙げました。なかなか演奏のチャンスのないコンツェルトですが、中には最近のピアノステップで小編成のアンサンブルのショパンのピアノコンツェルトを演奏されたばかりの先生もいらっしゃいました。
清水先生がある音大で定期演奏会のソリストの最終選考会の審査にいらした際、残念なことに「オーケストラと一緒に鳴り響かせること」を期待できそうなピアニストが少なかったそうです。
ピアノは一人で音楽を作ることのできる大変華やかな楽器であるのに対して、オーケストラは一人一人がプロとして役割をこなす「チーム」。オーケストラを「大きな室内楽」ととらえ、ピアノコンツェルトを演奏する際、大勢の様々な楽器の奏者と相まみえるための音の出し方からスコアの読み方、そして一番大切な演奏上のコミュニケーションについてまで様々なポイントを2時間たっぷりお話くださいました。
当日配られた資料には2台ピアノ譜の「モーツァルト・ピアノ協奏曲K.488」、「グリーグ・ピアノ協奏曲Op.16」がそれぞれペータース版とヘンレ版で並んでいます。2つの曲のオーケストラパートを比べると違いがわかります。モーツァルトではペータース版には詳細に楽器の名前が記入され、反対にヘンレ版は楽器の書き込みはありません。半面アーティキュレーションにおいてはヘンレ版のほうが親切です。
グリーグでもペータース版が明らかに音符の数が多く、それに対してヘンレ版は音符、情報量共に少なく、楽譜が白い印象でした。
楽譜の選択においては会場の先生方からも何度か質問が出ましたが、清水先生からは「どの楽譜(版)が良いということはなく実に難しいが、勉強するのにはより多くの情報が書かれている方を選択するのがベターでしょう」ということでした。
2つの版を菅谷さんと小滝さんの演奏で聞き比べ、続いてレッスン形式で実際に清水先生が2台のピアノと向き合い、指揮をしての指導に入りました。
メロディーを受け渡すときに、そのつなぎ目は指揮者をよく見てアイコンタクトのコミュニケーションが必要ですが、逆に大きく流れていくところは指揮者を「ガン見」する必要はありません。そして実際のステージ上では全ての楽器の細かい音まで聞こえるわけではないので、そんな状況下では「音楽の流れをイメージして予想、そして一緒に動いていくこと」がピアニストとして求められます。例えばオーケストラとの音楽的なコンタクトとして資料のモーツァルトの170小節目、木管楽器が絡み始める部分。ここではピアノは16分音符で動いていきます。その手前の166小節で「ちょっとだけ丁寧に」テンポをピアニストからオーケストラに伝えることで円滑な受け渡しが生まれ、メロディーと同時にリズムの流れをやり取りすることができます。このような音楽的なコミュニケーションテクニックを知ることで音楽がスムースになります。
楽器ごとに存在するテンポ感。「楽器あるある」という表現で清水先生はご説明くださいました。代表格としてフルートやクラリネットはテンポが前に、逆にオーボエやファゴットは控えめ。音の立ち上がりでは、発音が早いのはトランペットや打楽器、それに比べて弦楽器や木管楽器は遅い。このようなテンポ感や楽器の性格を知った上で音楽の流れをとらえることもピアニストには必要です。
意外にも指揮者やコンサートマスターは、ピアニストの感じているテンポを知るためピアニストの左手を見ているということです。左手のベースの動きがテンポを決める要となるからです。どんなにルバートで揺れてもテンポ感やスイング感を失ってはいけない、その自分のテンポをオーケストラに発信するか否かで一緒に演奏するオーケストラのノリが違ってきます。「たった1音でも最高の音を出して共有したい」というやる気を出させるためにも左手からのメッセージを大切にしてほしいとのことでした。
聴講したレッスンのグリーグのピアノコンツェルトの中で拍を3分割することが難しい場所がありました。そんな場所は「心の目で見るように」。ただスコアには必ず「ピタッと合わせる」ためのヒントが書いてあります。例えばホルンを意識するときれいにまとまる箇所、オーケストラメインの部分ではピアノは飾りとして存在するなど、そのヒントをスコアから察知し、全体の景色をとらえて演奏することが大事です。
コンツェルトは巨大な室内楽アンサンブル。普通はなかなか合わせのチャンスがありません。小編成の室内楽を積極的に勉強しましょう。特に管楽器とのアンサンブルでは呼吸が学べます。音楽に影響を与えないよう息をどこでどう吸うか、タンギング、音速、そしてスピード感を知り、一緒に呼吸していくことで自然と絡み方がわかってきます。それがデュオだとさらに楽器の特徴や「あるある」が顕著にわかりやすいものです。今後、全ての楽器を制覇してみるのも一つの楽しみ方として良いのではないでしょうか。
歌の伴奏もしかり。歌には「言葉があり、アクセントがある」というどの楽器にもない特性から学びは大きく、歌と合わせることでピアノの音の羅列も言葉に聞こえてくるようになれば、きっとそれがピアノ演奏の大きなヒントとなることでしょう。
ワークショップの後は清水先生、菅谷さん、小滝さんを交えての恒例のランチ会がありました。約15人ほどで和やかな雰囲気の中、会話も弾み、あっという間の一時間でした。
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