【実施レポ】音楽総合力UPワークショップ2017 第1回 今井顕先生

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2017/05/22
実施レポート
レポート:坂 かず先生
  • 1
  • 今井 顕先生 (2017年4月20日(木):開催)
  • シューベルトの哀しさ~創作意欲の源泉をさぐる~

音楽総合力upワークショップも8年目に突入し、今年度は新たな試みも始まりました。各講座で案内人としてファシリテーターが付き、eラーニング受講者は講座をYouTubeでの生中継を通してご自宅から視聴することができ、さらにその場で質問できるようになりました。今年のワークショップはますます充実しそうです。

第1回は講師に今井顕先生、ファシリテーターに糀場富美子先生をお迎えしました。まず糀場先生より今井先生のご紹介がありました。今井先生はウィーン国立音楽大学ピアノ専攻科における日本人初の指導者として抜擢され、その後オーストリア政府より名誉教授の終身称号を授与されている素晴らしい指導者、そしてピアニストです。今回はその今井先生より「シューベルトの哀しさ」をテーマにお話ししていただきました。

シューベルトの作品は美しい曲が多いものの、昔はリサイタルプログラムにシューベルトが入っていると「長い、眠い、つまらない」とため息が出そうになったという今井先生のご経験に会場の多くの先生方が頷きます。しかしその生涯を通して過ごしたウィーンという土地の雰囲気を抱えた音楽をたくさん作ったシューベルトの晩年の作品を深く感じていくとシューベルトが短い人生の中で「自分の音楽を言い尽くして亡くなったこと」に気付かされたそうです。「シューベルトが伝えたかったことは何なのか?それを共有し、シューベルトをもっと好きになっていただけたらと思います」と始まりました。

シューベルトは1797年に生まれ、31歳で亡くなるまでベートーベンと同時代を同じ小さな町、ウィーンで過ごしました。お互いの交流はなかったもののシューベルトは大御所だったベートーベンに憧れ、畏敬の念を抱いていました。にも拘らず、ベートーベンの真似をせず独自の音楽を作曲し続け、その作品が次の時代に繋がったのは半端な意志の力ではなく、シューベルト自身が自分の音楽を強く信じていたからに違いありません。「アマチュア音楽家」とか「友達の中で活動していた」、そう陰口をたたかれることもありますが、今ではそれは間違った見解だとわかってきました。ウィーン中央墓地のベートーベンの隣にシューベルトのお墓があることからも、シューベルトが当時から社会的にも才能のある音楽家と認められていたとわかります。

「シューベルトの哀しさ、創作意欲の源泉をさぐる」というのがこの日のワークショップのお題です。ポイントとして次の3つのキーワードが挙げられました。

<さすらい、孤独と関連している感情>

リューベックの詩の歌曲「さすらい人D493」では「幸せを探し求めながらも、生きているうちにはそこにはたどり着けない」、これは究極の孤独の詩が、また「冬の旅より"道しるべ"」も同じく死の世界への寂しい辛い道のりを歌っています。

<優しい死、罰を与えられるものではなく>

ここでもやはり歌曲「死と少女D531」が取り上げられました。「死は敵ではない、安心してこちらにおいで」と死神が声をかける恐ろし気な詩も、シューベルトの和声進行と合わさると「優しい死」を象徴し、死の下で優しくなる心の変化が表現されることとなります。

<水の存在、小川のせせらぎがいつも傍にある>

「美しき水車小屋の娘より"小川の子守歌"」で、小川が「傷ついたものよ、そのままの姿でこちらにおいで、包み込んでやるぞ」と失恋の痛手から身を投じた若者に、「おやすみ」と声をかけます。医師から梅毒だと診断され衰弱への道を歩み始めたシューベルトが死をどうとらえていたのか感じることができます。

シューベルトのもつ「哀しさ」というものを共有した後、即興曲Op.9を読み解きました。思いがけず今井先生ご自身の演奏を聴かせていただきました。しかも解説映像付きです!(スクリーンに映る映像や文章は今井先生ご自身が作られ、しかも左足で機械操作されたそうです。)

最初から最後までひとつしかメロディーがない、どう扱っていいのかわかりにくいが実は「道しるべ」の最後のフレーズのテーマが繰り返されている1番、中間部分のぶつかる不協和音が究極の痛みを現わす2番、自分だけが我慢して流離って、幻想の死の世界に逃げていくのが3番、繰り返し現れるメロディーが雪のようで、粉雪が主人公の深い心の傷を覆い隠し、銀白の光と静寂に満たされた世界の広がる4番。
シューベルトの創作意欲の源泉として「哀しさ」を感じることで、この4曲はソナタ形式まではいかないけれど全体でみるとストーリー性があることに納得です。一曲一曲も素敵ですが、4曲をセットで弾いた時の別の魅力を発見することができ、会場の先生方も口々に「弾いてみたくなった」とおっしゃっていました。

今年度からの新たな企画として、講座の後のランチ会も開催されました。糀場先生と今井先生、福田専務理事、実方さんもご一緒され、和やかな雰囲気の中、ワークショップでの質問から最近の音楽界でのホットな話題まで自由な会話を交わし、大変豊かな時間を過ごすことができました。次回以降もとても楽しみな企画です。


こちらの講座は「音楽総合力UPワークショップ2017」のeラーニングコースでご覧いただけます。eラーニングコースは随時受け入れており、途中からでも2017年度すべての講座のご視聴が可能です!

  • 「音楽総合力UPワークショップ」は定額見放題のeラーニングではご視聴いただけません

今後の講座予定はこちら


受講者インタビュー
味埜 裕子先生(正会員)

以前から参加したいと思いつつ曜日の関係で叶いませんでしたが、今年度からワークショップを受講できることになり大変うれしく思っております。他の専門の先生方のお話を聞けることで自分の世界が広がっていくことを楽しみにしております。今回は今井先生の幅広い知識や人生経験からのお話と演奏に大変感銘を受けました。即興曲Op.90-1を弾いてくださった際には素晴らしい演奏とお話の両方が深く心に残りました。シューベルトは好きでソロや連弾、歌曲も演奏しますが、今回の3つの心情のお話でシューベルトが以前に増してぐっと身近な存在になりました。第2回以降の講座も待ち遠しいです。

匿名希望

シューベルトの歌曲の歌詞を読んで理解するチャンスはこれまでなく、シューベルトの音楽はピアノ曲からしか理解していませんでした。今回「シューベルトの哀しさ、創作意欲の原点」として紹介された詩の世界にとても驚きました。当時カトリックの教義で回っていた世の中ではタブーであり、危険思想ともいえた「死を賛美、神の存在を否定する」ことにあえて挑戦する芸術家としてシューベルトを知ることで、シューベルトのピアノ曲にも理解が深まる気がします。


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