【実施レポ】音楽総合力UPワークショップ2016 第8回 堤 剛先生

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2017/01/04
 
  • 第8回
  • 2016年12月14日(水)
  • 堤 剛先生
  • チェリストが見ている音楽の世界
  • 坂かず先生

2016年最後のワークショップは桐朋楽大学学長やサントリーホール館長などの要職を務めてこられたチェリストの堤剛先生をお迎えしました。「今日は最も共演の機会が多いピアニストの皆様としゃべらせていただき、少しでもお役に立てればと思います」というお言葉で始まり、お話が90分、演奏が30分という大変贅沢な2時間を過ごしました。

「曲を弾くとき、一番最初の音を弾きだしたら最後の音まで知っていないといけない」。こちらは堤先生のアメリカ・インディアナ大学留学時代の恩師、シュタルケル先生の言葉だそうです。自分の頭の中に、「何を作り上げるか」、「どういうことが必要か」、「テーマのキャラクターやテンポ」など、それらを考えた上で音を出すことで、よりクリアなメッセージ性が生まれます。シュタルケル先生からの教えは音楽家を目指す若者にとってとても大切なことですが、日本のレッスンスタイルとは少し違います。例として『日本と欧米の音楽教育のアプローチは反対だ』とおっしゃるピアニストの金子三勇士さんの話が紹介されました。
日本の一般的な音楽教育は、最初細かいところから入って、それが広がっていきます。逆にヨーロッパでは、大きいものから始めます。例えば、ミクロコスモスをなぜ弾きたいか、演奏することで何を表現し、自分の存在価値を曲を通じてどう表現するか、どういう世界にバルトークがいたのか、当時の社会情勢、その中の音楽の役割...。そうやって曲をだんだん細かくし、最後にテクニックを磨くというまさに日本と逆の教育法です。堤先生は、欧米の音楽学生は出だしが遅く高校生くらいから目覚めるが、最後にプロになった時に向こうのほうが結果的に大きなものを作ることにいつも感心し、欧米のアプローチ方法が結果として「自分の歩むべき道がよりはっきり見えている」ということなのではないかと考えているそうです。

教育とは「意味のある創造活動を共有する場」。先生が上から目線で“教えてあげる”のではなく、“何が一番大切か”を一緒に考え両者で新しいものを作り出す「フィフティ・フィフティの場なのだ」というシュタルケル先生から堤先生へと受け継がれているお考えはとても印象に残りました。ピアノの教育現場にいる私たちに大切な何かを気づかせてくださいました。

デュオ室内楽ではピアニストのことを伴奏者と呼ぶ人が多いことをシュタルケル先生はとても嫌っていたそうです。既にアメリカではaccompanist(伴奏者)という言葉は廃れ、対等の立場に立って音楽づくりをする意味でpianistと呼ばれています。アンサンブルは物理的に縦の時間が合うだけでなく「会話をする」ということであり、お互いが分かり合う「音の言葉」が大切。アンサンブルには自分自身の「音の言葉」を使い、個人的な利害より、常に全体を考えて行動し、それぞれのベストを持ち込むことによりプラスアルファのものが生まれてくる楽しみがあります。

さらに堤先生は続けます。芸術家に大切なのは「品性品格、正直さ、信頼の心」を持つこと。そして音楽とは「感謝、慈しみの心、そして祈りの気持ち」をもって表現する芸術活動です。作品に想像力、気持ち、思想、哲学性を加えることによって価値のある芸術作品となり、さらに「品格」が加わることで人間により近づく。それが我々の共通の財産になり、社会がより豊かになってくるのだと。

最後は思いもかけなかった堤先生の演奏でした。「無伴奏チェロ組曲(バッハ)」、「無伴奏チェロ組曲(カサド)」を聴かせていただきました。
セミナーで堤先生の芸術と真摯に向き合われる姿勢を知り、さらに演奏では観客として同じ空間で時間を共有させていただき、とても豊かな気持ちで東音ホールを後にしました。

受講者インタビュー
石井 晶子先生(正会員)

私は今回の堤剛先生のセミナーを聴きたいがために今年のワークショップを申し込みました。堤先生は演奏家としても教育者としても尊敬できるチェリストで、今回のお話の中では特に「芸術家に必要な三つの要素~品格、正直、信頼」という言葉に感銘を受けました。最後の演奏では、演奏するということは演奏者の言葉であり、呼吸がとても大切だということがチェロの音を通じて心に響きました。芸術について、言葉で丁寧に説明してくださってありがとうございました。

匿名希望(指導者会員)

堤先生と同じ地域に住んでおります。つい先月、堤先生ファミリーが藤沢市の鵠洋小学校で子供たちに向けてのコンサートに出演したことが地域の広報誌に載っており、素晴らしい演奏家が地域教育に貢献してくださっていることに感動しておりました。楽器や曲の話などを交えながらの生の演奏のコンサートは鵠洋小学校の子供たちの心には素晴らしいものが残ったことでしょう。お忙しい活動の中、こうやって地域の子供たちに本物の芸術を伝えてくださったことに感謝いたします。


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