【実施レポ】藤井一興ピアノ研究セミナーVOL.2 四期の演奏スタイルとピアノの歴史(藤井一興先生)

文字サイズ: |
2016/06/17
藤井一興ピアノ研究セミナー vol.2「四期の演奏スタイルとピアノの歴史」
文・山本 美芽

日程:2016年6月10日
会場:カワイ表参道コンサートサロンパウゼ

160610hujii4.jpg

本物の音から学ぶ

メシアンの弟子としても知られる藤井一興先生によるピアノ研究セミナー。
藤井先生の愛弟子である三輪昌代先生が代表をつとめる世田谷スマイルステーションの主催で行われました。
今回、A級のスカルラッティからE級のバッハのフランス組曲、F級のショパンエチュードまで、30曲以上の膨大なコンペ課題曲について、まず一度通して演奏し、その後留意点についてお話がありました。

160610hujii5.jpg

まず、A1級のスカルラッティを先生が弾き始めた途端、演奏の素晴らしさ、特に音色の引き出しの多さと美しさ、繊細で豊かなダイナミクス、そこから生まれる立体感、生き生きとしたリズム感は圧倒的なもので、会場全員がコンペ課題曲であることを忘れて聴き入っていました。
リサイタルではフランスものや現代曲をとりあげることの多い藤井先生。バッハやショパンのエチュード、ベートーヴェンのソナタの演奏の機会は貴重なもの。モーツァルトやバッハを「これはもう天国ですね」と話しながら演奏される藤井先生の音に「美しさのあまり涙が出た」「こんなにいい曲だったとは」と、客席に感動が広がりました。

160610hujii7.jpg

この日、藤井先生が語られたポイントのひとつに、休符がありました。ショパンのマズルカ作品7の1におけるテーマ。タッカのリズムの中にある16分休符であったり、悲愴ソナタ3楽章の動機で、頭の8分音符の感じかたが、音楽を立体的にするために大切な役割を果たしていました。
また、細かい分散和音を弾きながらメロディーを浮き立たせる際にメロディだから大きな音というような単純な考えではなく、1音1音に美しい陰影をつけていき、ぐっと抑えたタッチなども使っており、その効果にはため息が出るほど。このような陰影のつけ方からすると、「ショパンのエチュードは、10の4よりも、25の1のほうが難しいんですよ」というお話には、驚きの声があがっていました。
実際に聴いてみるとこうした微妙な感じ方や音色の作り方も明快なものがあり、小学生でも理解できるだろうと思われました。

160610hujii8.jpg

藤井先生は他にもタッチの奥義を惜しげもなくオープンにお話されました。鍵盤を「こする」(奥から手前に撫でる)、同音連打における屈筋(グーに握る筋肉)と伸筋(パーに広げる筋肉)の意識のバランス、6ミリぐらいの深さで止めるハーフタッチ、和音の連打の際、2回目以降の和音は完全に上まで上げないハーフタッチで鳴らす、ドビュッシーで中央のペダルを使って全音符を長く伸ばす方法など。メシアンをはじめとするパリ国立高等音楽院、そしてマリア・クルチオ先生のもとで学んだヨーロッパの伝統を直接伝えてくださる貴重なお話の数々。「もっと聴きたい」との声があがっていました。余談ながら藤井先生がお話する様子には、さりげないユーモアのセンスがあり「曲がいいから、どうやってもうまくいくんですね」と先生が話されたあとに、思わず客席から「ウフフフ」とくすくす笑いが沸き起こるような、ほんわかとした空気が流れていました。

160610hujii9.jpg

リサイタル2回分ほどの分量の楽曲を解説つきで、くわしく聴きたいなと思う場所は何度か繰り返して説明してくださるという、夢のような時間。使用ピアノは最高のコンディションに整えられたシゲルカワイのフルコンで、課題曲となっている楽曲の作品としての奥深さに、魂を浄化されたような感覚を味わいました。ピアノに向かって繰り返し練習するだけでなく、藤井先生のようなピアニストの音にできるかぎり間近に触れ、あらゆるものを感じ取りインプットすることが、なによりも大切な学びになると感じました。

世田谷スマイルステーションによる藤井先生のセミナー、次回は11月25日にショパンエチュードとバッハの平均律をとりあげる予定です。

<演奏曲目一覧>
◆A1級(小2以下)
   スカルラッティ/ スケルツァンド、ハイドン/ メヌエット
   トンプソン /小さなポーランドのおどり、平吉毅州 /たんぽぽがとんだ
◆B級(小4以下)
   ヘンデル/ アリア、ベートーヴェン/ ソナチネヘ長調第1楽章
   シューマン /勇敢な騎士op.68-8、ギロック /カプリッチェット
◆C級(小6以下)
   バッハ /フランス組曲5番よりガボット、ハイドン /ソナタ27番第1楽章
   ショパン /マズルカop.7-1、香月修 /スペイン風のワルツ
◆D級(中2以下)
   バッハ/フランス組曲1.5.6よりアルマンドとジーグ
   モーツァルト/ソナタkv.570第1楽章、ショパン/エチュードop.10-4
   ドビュッシー /子供の領分より(グラドゥスアドパルナッスム博士)
◆E級(高1以下)
   バッハ/平均律1巻cmoll,2巻dmoll(プレリュードとフーガ)
   ベートーヴェン/ソナタop.13-3楽章、ショパン/エチュードop.25-1
   ドビュッシー/ピアノのためにより(プレリュード)
◆F級(高3以下)
   バッハ/平均律1巻EDur、ベートーヴェン/ソナタop.13-1楽章
   ショパン/エチュードop.10-8、ラヴェル/水の戯れ

藤井 一興

ピアノを安川加壽子、井上二葉、辛島輝治、萩原智子、作曲を長谷川良夫、南弘明の各氏に師事。東京芸術大学 3 年在学中、フランス政府給費留学生として渡仏。パリ・コンセルヴァトワールにて作曲科、ピアノ伴奏科ともに一等賞で卒業。パリ、エコール・ノルマルにてピアノ科を高等演奏家資格第一位で卒業。その間、作曲をオリヴィエ・メシアン、ピアノをイヴォンヌ・ロリオ、マリア・クルチォ、ピアノ伴奏をアンリエット・ピュイグ=ロジェの各氏に師事。
1976年 オリヴィエ・メシアン国際コンクール第 2 位( 1 位なし)
1979年 パリのブラジル・ピアノ曲コンクール第 1 位
1980年 クロード・カーン国際コンクール第 1 位
    モンツァ"リサ・サラ・ガロ"国際コンクール第 1 位
    第1回日本国際ピアノ・コンクール第 4 位( 1 位と 3 位なし)
1981年 マリア・カナルス国際コンクール第 2 位( 1 位なし)
    及びスペイン音楽賞
    サンジェルマン・アン・レイエ市
    現代音楽国際ピアノ・コンクール第 1 位
1982年 パロマ・オシェア サンタンデール国際ピアノコンクール入賞
    第 3 回グローバル音楽奨励賞
    第 10 回京都音楽賞実践部門賞
世界各地、日本国内にてリサイタル、室内楽、コンチェルトの他、フランス国営放送局を始めとするヨーロッパ各地の放送局や日本のNHK等で多くの録音、録画など幅広い活動を行っている。 レコード・CDではメシアンのラ・フォヴェットゥ・デ・ジャルダンやイゴール・マルケヴィッチ作品集、武満徹作品集などを続々とリリース。また、作曲家としても、フランス文化省から委嘱を受け、その作品が演奏会や国際フェスティバルで演奏・録音されている。その他、世界初のフォーレのピアノ全集の校訂を担当し、 1 ? 5 巻(全 5 巻完結)を春秋社より出版している。
現在、東邦音楽大学大学院大学教授、東邦音楽総合芸術研究所教授、桐朋学園大学特任教授、東京芸術大学講師。
オフィシャルサイトhttp://park18.wakwak.com/~kazuokifujii/

山本 美芽

東京学芸大学大学院修了。音楽雑誌に寄稿、「自分の音、聴いてる?」などピアノ教育に関する著書多数。全国にてピアノ教本セミナーを行っている。
http://mimeyama.jimdo.com/


【GoogleAdsense】
ホーム > ピアノセミナー > ニュース > 02レポート> 【実施レポ】藤井一興...