- 第7回
- 2015年11月4日(水)
- 斉藤浩子先生,今井顕先生,佐々木邦雄先生/コーディネーター:飯田有抄さん
- 「電子ピアノを考える」シンポジウム
今回の「電子ピアノを考えるシンポジウム」は飯田有抄さんの司会による3名の先生方とのパネルディスカッション形式で文化シヤッターBXホールにて行われました。会場にはローランドとヤマハの電子ピアノがずらりと並びます。今回は単発の参加も可能で問題意識をお持ちの多くの先生方が全国から集まり、開始前から電子ピアノについての熱い意見交換がされていました。
ピティナ福田専務理事の「勇気を持ってこの問題に向き合いましょう」との挨拶の後は、本部事務局の実方康介さんから事前アンケートの結果を発表がありました。生徒さんの所有楽器の状況、電子ピアノの利点欠点。そこにはピアノを指導するにあたりピアノの先生が直面する事実が如実に現れています。電子ピアノと生ピアノとで上達に差があることを7割以上の先生が認め、その違いを感じているが現実には一般家庭では電子ピアノが多数派なのかもしれないという事実がわかりました。
飯田有抄さんのナビゲートで3人の先生方の登場です。
お一人目は東京豊洲地域で500名もの生徒さんを抱える大教室を運営されている斉藤浩子先生。地域柄多くの生徒さんがマンションにお住いで、その大半の生徒さんが電子ピアノでレッスンをスタートするそうです。実際にその生徒さん達のビデオを見せていただきながら弊害と対策をご紹介くださいました。大きな弊害であるスラーの最後を叩いてしまう、指がしっかりしないなどの問題は「電子ピアノあるある」で会場で多くの方がビデオを見ながら共感されていました。その問題点は教える側が把握し、上達の遅れを親御さんが「練習不足が原因」と誤解しないよう正しい知識を伝え、間違った認識で生徒を追い込まないこと。子供は良い意味でも悪い意味でも感覚の鋭い耳を持っており、一回のグランドピアノでのレッスンで美しい音での演奏ができるようにもなる反面、時間の経過や電子ピアノを触ることで「後戻り現象」をしてしまいます。その対策として、コンペの前日レッスンのあとは本番まで電子ピアノを触らないこと、また美しい音でフレーズを作るために耳で音を作っていくのと同時に身体の使い方や理屈を具体的に伝えて理解させる指導をされているそうです。そして様々な事情で電子ピアノでレッスンを続ける生徒さんには、将来ほかの楽器への橋渡しになるよう楽典をしっかり教えること、電子ピアノでも楽しめる長い音の多い歌わせる曲を与えるなどの工夫を紹介くださいました。
お二人目は佐々木邦雄先生がお弟子さんの神力佑一郎先生と一緒に登場されました。まずは電子ピアノ弾き比べです。ブルグミュラーのアラベスクの分奏をしながら、ずらりと並ぶ様々な電子ピアノで音量を変えたり機種を変えたりしながらそれぞれのタッチや音色の違いを聞かせてくださいました。
佐々木先生はソルフェージュや作曲のグループレッスンで、電子ピアノをフル活用されています。各自作業をするときにはヘッドフォン使用し、アンサンブルの時はヘッドフォンを外します。電子ピアノの後、すぐに生ピアノで演奏させることで響き方やタッチのデメリットは埋められると考えていらっしゃいます。コンパクトサイズゆえ生徒との距離が近く、ヘッドフォンを使うことで生徒一人一人が常時鍵盤で作業ができる。そのテンポ感は最大限に電子ピアノの良さを使いこなしているからこそです。
そして神力先生からはまたひと味違った新しいピアノ教室が紹介されました。スポーツジムの様なピアノ教室です。「楽器を持っていなくてもOK」という神力先生の教室には電子ピアノがたくさん並んでいて、プランによっていつでも一時間単位で使うことができるのです。生徒さんはヘッドフォンで練習し、毎回15分のアドバイスを受けることができます。グループでも個人でもないその革新的な教室形態に驚きの声が上がりました。電子ピアノがうまく教室運営に生かされている神力先生のビジネスモデルはとても興味深かったです。
最後はピアニストの今井顕先生。今井先生からはずばり「電子ピアノをアコースティックのピアノとは違う"別の楽器"として捉え、それに合わせた新たな指導方法を模索する勇気を持とう」という提案でした。電子ピアノの持つ付加価値にポジティブに目を向け、アコースティックピアノと同じことができないことを欠点とする「アコースティックピアノの代用品」という電子ピアノを見下す時代はもはや過ぎ、電子ピアノは更なる発展を続ける一方、アコースティックピアノの発展は限界を迎えているのではないか。電子ピアノで練習を続けると手を壊すという考えではなく、私達がその発想を変え、電子ピアノに合わせた練習方法を見つけていく新しい時代を作っていこうではないか。もしかしたら私たちは、その昔バッハの作品をチェンバロではなくピアノで弾き始めた時代のような環境にいるのではないか。
古楽器にも造詣が深い素晴らしいピアニストである今井先生からのその提案は衝撃的であり、また説得力のあるもので、シンポジウムが終わってからもその話で持ちきりでした。
その後の質疑応答では、多くのご意見ご質問がでました。斉藤先生への質問は特に多く、会場の先生方の「現場での悩み」がいかに大きいかを物語っていました。大阪からいらした松本教子先生からはコンペ地区本選へ電子ピアノの生徒さんを出場させたご経験をご紹介くださりました。脱力を徹底し、ゆっくりしか弾かせない、また目をつぶってグランドピアノをイメージして弾かせるなどの工夫は大変具体的で、メモを取る先生方がたくさにらっしゃいました。
シンポジウム終了後はずらりと並ぶ電子ピアノを自由に触らせていただきました。違うメーカー、様々な機種が一度に弾けるというまたとないチャンスにたくさんの先生が真剣に弾き比べていました。
幼いころに父が電子ピアノとPCを繋げてコンピューターミュジックをやっており時代の最先端をいく環境で育ちましたので、これからの時代はさらに進化した考え方が必要だという思いがあり、今日のシンポジウムでの佐々木先生や今井先生のお話にはたいへん共感しました。これからの時代は電子ピアノの家庭の子であってもアンサンブルなどを通して良い音楽を奏でられる耳を育て、ただ音符を読めることだけではなく、その奏で方や表現の仕方を教えていきたいと思います。
今日は電子ピアノを世の中のピアノの先生がどう捉えているのかを電子ピアノを制作する側として知りたいと思い参加しました。実は「電子ピアノなんて」と見下されることを予想していましたが、良いところを積極的に取り入れる意見や考えが多く、逆にびっくりしました。なかなか現場の先生方のご意見をお聞きするチャンスがなかったので、とても勉強になりました。今後も作り手としてタッチやペダルの響きなど、アコースティックピアノに近づける努力を続けていきたいです。