10月22日(木)千葉市美浜音楽ホールにて、「スオミ・ピアノ・スクール」の監修者でピアニストの舘野泉氏を特別ゲストにお迎えして、翻訳や編集に携わられた久保春代先生によるセミナーが開催されました。
初めに久保先生は、「スオミ」の生まれたフィンランドの音楽教育についてお話しされました。日本の20分の1の人口にもかかわらず、国際的に活躍する優れた音楽家を多く輩出しているフィンランド、そこでは厳しい冬を生き抜くために、長い目で物事を考えることが求められます。そのことが「目先の成果にとらわれない長い目の教育」につながっているとのことです。
国立音楽大学のシベリウスアカデミーの教育では、
Ⅰ学生を芸術家の卵としてみる。
Ⅱ教え込むのではなく、自ら学ぶのを助ける。
Ⅲ人間工学的な体の使い方を学ぶ。
Ⅳ現代音楽を同時進行で学ぶ。
Ⅴ実践的な教育
(学生がプロのオーケストラを指揮したり、実際に子どもを連れてきて教えるetc.)
といった特徴を挙げられました。
これらは「スオミ・ピアノ・スクール」の
Ⅰ子どもの心を大切に育てる。
Ⅱ自発性を養う。(即興演奏を取り入れるetc.)
Ⅲ奏法(脱力)、理論、様式など、回り道をせずに初めから学ぶ。
Ⅳ現代音楽も取り入れられている。
Ⅴ自然や文化に興味を持たせ、豊かな音楽性をめざす。
という特徴にそのまま当てはまるものです。
続いて、導入編の"音楽への旅立ち"から1ページずつめくりながら、丁寧に説明をされました。
"じぶんのて"のページは子どもの手の形をなぞるところですが、ここでは、ピアノは初めてでも、歯磨きをしたり、ボタンをはめたり、とすでにいろいろなことができる手だということに気付かせてあげます。「その同じ手でピアノを弾く」という認識が脱力につながることになります。
ページ全体に描かれた絵の中の音をピアノで表現してみるところは即興演奏の第一歩です。1巻や2巻に載っているいろいろな種類の即興演奏のページも例として弾いて下さいました。
他のテキストではあまり見られない即興演奏ですが、「このような自由な発想で子どもの創造力を引き出す方法は初めてで驚きと可能性を感じました!」というお若い先生からの感想を頂きました。
久保先生のお話は、限られた時間の中、スピーディーでありながらとても分かりやすくて「スオミ」の特徴や素晴らしさが十分に皆さんに伝わったようです。
後半はいよいよ舘野泉先生にご登場いただき、まずはおふたりの対談となりました。
舘野先生のご幼少の頃のお父様のユニークなご指導のお話がありましたが、それはまさに「スオミ」の導入そのものだと思いました。
舘野先生が若いピアニストたちにアドバイスされることは、身体にむだな力が入っていない状態になるよう、自然な呼吸でときほぐしていくこと。そして先生ご自身、この「脱力」を今もなお模索されていると伺い、驚きとともに「スオミ」のメソードのめざすものと重なることに感慨を覚えました。
最後に演奏をしてくださいましたのは、光永浩一郎さんの「サムライ」、スクリャービンの左手のためのノクターン、ショーロホフの左手のための第3組曲から「アリア」です。
舘野先生のピアノは一音一音が心に響き、会場は深い感動に包まれました。
セミナーとは思えないような実に贅沢で幸せな時間でした。