【実施レポ】山本美芽先生 ピアノの先生のための聴く力・書く力セミナー

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2013/09/13
山本美芽
ピアノの先生のための聴く力・書く力セミナー 文・砂川めぐみ(奈良県・ピアノ教室フェリーチェ主宰)

日程 : 2013年8月31日 / 会場 : エルおおさか

●コンクール後、自分の成長を生徒が自覚するには?
セミナー訪問レポート
セミナー主催の中西美江先生(奈良県・ぽこあぽこピアノ教室、講師の山本美芽先生)

 8月31日、奈良県のピアノ講師、中西美江先生が企画されたセミナー「ピアノの先生のための聴く力・書く力セミナー」に参加した。講師は音楽・ノンフィクションライター、ピアノ教本研究家であると同時に、ピアノ教師、一人の母親としての顔も持つ山本美芽先生。これまで100人以上の音楽家にインタビューをしてきた音楽ライターならではの鋭い観察力。まずそこに、日頃よく参加するピアノ指導者セミナーとは一味違った、より広く深い客観性をもった話が聴ける新鮮な魅力があった。

 前半は「聴く力」について、山本先生の最新刊「自分の音、聴いてる?」(春秋社)から。
レッスン中「しっかりよく自分の音、聴いてね!」と生徒さんに声がけする場面は、ピアノ指導者であればよくあること。意外と簡単に口に出してしまう言葉でもある。けれども、音を「聴く」ことをどう伝えるのか、なぜ「聴くことが大事なのかをどれだけわかりやすく伝えられるか。日々、生徒と向き合う中で指導者として悩ましく、とても知りたいところである。

 先生が初めに例えたことは『コンクールに出る前と出た後では、必ず成長がある』ということ。『他人がどう思うかではなく、自分の演奏を聴いて、それがどうだったのか、自分を自分で客観的に判断する力』が着実に育っていれば、成長は自覚できるものなのだ。何が成長したのか。そして楽譜に書いていない面白さ、その「ニュアンス」が分かれば、自分の演奏の足りないところも、良さもわかる。ただ、生徒たちに「ニュアンス」という言葉を使っても伝わりにくい。とてもあいまいなことだからだ。

●ことばのニュアンスを感じ取る
セミナー訪問レポート
グループワーク中の様子。おおいに盛り上がった

 そこで、グループワークが行われた。2~3人組で話し合い、全体で発表しシェアされた。お題は、「いろんなニュアンス"ありがとう"を言ってみる。」
例えば、私たちのグループで挙がったものは、「ママに言われたときに仕方なく泣きそうで、小さな声での"ありがとう"」「なかなか月謝をもってこなかった生徒がもってきたときのありがとう」。さらに、その言い方について分析。「泣きそうだから、そのニュアンスは・・・音は小さく、音程は低く、テンポは遅め。語尾は消えるように」と分析をしてみる。
 発表で次々とシェアされるものに山本先生は丁寧にフィードバック。「言わされてる"いちおう系""うわべ系"ですね」など茶目っ気たっぷりに返してくれる山本先生の話しぶりが、また更にワークの楽しさを倍増させていた。
 そう、こうして「ニュアンス」という言葉を使わずして、その意味を知ること、感じることができる。加えて、生徒たちには「AとB、どう違う?」と日頃のレッスンで弾いて聴かせることも、「ニュアンス」「違い」がわかる力をつけることになるのだ。たった5文字の"ありがとう"から生まれる「ニュアンス」の学びは、音楽にもあることを大人もこどもも自然に受け入れられ、聴き、考えることにつながる。

 この「ニュアンス」を「聴く力」がつけば、ただ楽譜を読んで弾く、一方通行となるピアノ練習やレッスンではなく、次の成長に向かって意欲的に練習を進められる。さらに聴いて、弾く。そのように循環する「相互作用」のあるレッスンを行うには具体的にどうしたらよいか。しかも「聴く力」はすぐにつくものではない。幼児であれば、なおさら足りない「聴く力」を何かで補わなければならない。

 そこで2つ目のワーク。お題は「やる気のない幼児さんに集中力維持のため、レッスンに投入している必殺技は何?」。

 音符カードなどのゲームで、受け身でなく自ら作業させること、シールや小さなご褒美で弾いたことを視覚的に喜びを与えること等、それぞれの教室での技が発表された。参加の先生方がそれぞれ違った勉強会に所属している方も多いため、シェアしてもらう側にとっては大変勉強になることばかりだった。

 相互作用を起こすような投げかけのある、こうした技を使ったレッスンを行うには、私たちピアノ講師に観察力が必要であり、とても時間がかかる。それでも『ピアノ・レッスンの核心は、相互作用にあるといっても過言ではない』と山本先生の書籍でも語られている。だから、私たちは生徒それぞれの理解力に焦点を合わせて「よくわかる」刺激を与え、相互作用を起こすようにクリエイティブなレッスンを心掛ければならない、と改めて感じると共に、自分の気力と集中力をさらに高める努力も必要なのだと実感した。

●書くことで「客観性」を育てる

 前半での、書籍の中から「ニュアンス」と「相互作用」に絞った学びに続いて、後半は「書くスキル」を磨くために、基礎基本の「表記について」と「ブログの書き方」について。

 基本的なテクニックで「ヴ点」「『』の統一」など正確であらねばならないことを、音楽ライターとして数々の文章を書いてこられた山本先生の取材経験を交えながら学んだ。意外と分かっているようで間違ってしまう固有名詞・数字、カタカナとひらがな、漢字のバランス等についても、今後、書く上では大切にしていきたい。

 ブログの書き方については、事前に応募のあった5件のブログ記事が添削された。私もその一人となった。書く、書かないは自由であるが省略した方がよいものを指摘いただいた。その他の記事にもアドバイスがあったのだが、客観的に見てもらう新鮮さを感じ、他の方の文章を添削するという形で拝見することにも、新しい発見があった。他人はそう読むものなのだ、と改めて知ることにもなり、書かないことはゼロ、書くことは100倍になる、を心した瞬間でもあった。

 「書くことは、自分の客観性を育てる」。
難しいことでもあり、面白いことでもあるのが書くことだ、と思う。

 参加者がさまざまな所から集まっていたことから、山本先生が「それぞれのメソッドや勉強会において注意すべきは、メソッドの著者や訳者は"教祖様"、それを学ぶ人たちは"信徒"になってしまいやすい。自分たちのメソッドは正しくて、他は間違っていると思いやすいので注意してほしい」と。その表現があまりにも納得であったこと、そして愉快であったため参加者は大笑いの渦に。その賑やかさ、シェアする空間の雰囲気で、参加したそれぞれの勉強会の先生方は、きっと一歩も二歩もご自分を客観してみることに長けているのだと感じた。

 一つ一つが納得のいくお話と、楽しいグループワークを取り入れてくださった山本先生、細やかな心配りあるセミナーを主催された中西先生をはじめ、参加者の皆様が本当に素晴らしかったこと、最後に付け加えておきたいと思う。

山本美芽

音楽ライター。東京学芸大学大学院教育学研究科修了。
これまでに国内外の主要なピアノメソッドの著書・訳者、ピアニスト、演奏家、ピアノ指導者など、100人以上に直接取材を行う。
「もっと知りたいピアノ教本」「レッスンのハンドブック」(中村菊子)、「21世紀へのチェルニー」(山本美芽)、 「練習しないで上達する」(呉暁)などの単行本において、ピアノメソッドに関する原稿を執筆。
新鮮な視点と鋭い観察力に定評がある。2008年よりピアノ音楽誌「ムジカノーヴァ」で書評をレギュラー執筆。「ジャズジャパン」に評論・インタビューを執筆中。 
 セミナーでは2人~3人組に分かれて意見を話し合い、発表して深める「グループワーク」を必ず取り入れている。ライターとして培ったインタビューの手法を応用し、受講者と対話しながら視点を深める形式は、参加者から「客観的な視点が持てるようになった」と強い支持を得ている。

ホームページ http://homepage1.nifty.com/mimetty
メールマガジン「音楽センスを伸ばしたい!」配信中。
facebooktwitterでも発信中。

砂川めぐみ

ピアノ講師。大阪教育大学教養学科芸術専攻音楽コース(ピアノ)卒業。現在、奈良県・大和高田市にて、ピアノ教室フェリーチェを主宰。幼児から大人、シニアまで指導にあたる。クラシックピアノを野谷恵、松村敬子に師事。ジャズピアノを石熊楽子に師事。奈良市においてカフェ・コンサートを開催、演奏活動も行っている。ピティナ指導者会員。
ピアノ教室フェリーチェ 教室ブログ:http://felicepiano.blog119.fc2.com/

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