2013年7月21日(日)、汐留ベヒシュタイン・サロンにて、「フォルテピアノからモダンピアノへ引き継がれた音色-ローゼンベルガー(1830年代オリジナル楽器)からベヒシュタインへ」というテーマで、ピアニスト・末永匡先生、 ピアノ製造マイスター・加藤正人氏により、1830年頃のフォルテピアノ・ローゼンベルガー、1930年代ベヒシュタイン、現代のベヒシュタイン3台での聴き比べ、弾き比べるレクチャーコンサートが開催されました。
末永先生は『ピアノという楽器が本来持っている音、それはピアノの声であり、楽譜とは
作曲家が残した手紙のようなものかもしれない。---そこから語られるものに、何が聴こえてくる
だろう?何が見えてくるのだろう?』と自身で問いかけ、そして参加者にも問いかけて、スタート
されました。
今日展示したピアノの一つが、約200年前に造られたウィーンの名器フォルテピアノ・ローゼンベルガーでした。当時の作曲家たち、人々がどのような音色を体感していたか、今に生きる私たちも末永先生の演奏される音色とともに"それ"を体感しました。
♪ ローゼンベルガーの音は現代のものよりも小さいけれど、音色は人の声のように歌い、甘く中低音の音域がよく響き、それぞれの声部の響きがとてもすっきり聴こえました。フォルテピアノは弦を指で触っているような感覚で、音色の色彩感、繊細さ、グラデーションの変化というのは
それゆえに大きいかもしれません。
♪ それに対し現代のベヒシュタインでは、音量、ボリュームはもちろん出ますが、音色の色彩感
というのが、フォルテピアノより、はっきり分離されているように感じられました。
それは楽器に鉄鋼が使われていなかったり、アクション構造が今よりずっと単純であったり、弦の
張り方が違っていたりと、ピアノの構造の違いからも裏付けられると、ピアノ製造マイスターが
わかりやすい解説を加えられました。
♪ 現代のピアノの例として展示したベヒシュタインは、1853年に会社を創業したカール・ベヒシュ
タインは、ハンス・フォン・ビュロ―、フランツ・リストのような音楽家たちと深い交流がありました。
カール・ベヒシュタインは、音楽家らと議論し、彼らの要求する音楽、ニーズにこたえようと、また
大ホールでの公開演奏等に耐えうるようなピアノにと、産業革命や、世の中の変化とともにピアノを
変化・進化させました。その結果1880年には、ほぼ現在のピアノと変わらない造りのものになった
そうです。1800年代の前半から後半にかけてのめまぐるしく変化した、個性あふれるフォルテ
ピアノ、そしてその後大きな変化はないというモダンピアノ。これはルーツであり、その中には残ったものと消えてしまったもの、しかし新しく生まれたものもあります。
モダンピアノに表現出来る事、フォルテピアノからモダンピアノに変化した事によって失われてしまったもの、引き継がれているものを、体験し、検証し、現代の私たちはピアノを演奏する時に、当時の音楽家たちはどのようなことを考え、感じていたかを想像しながら、音楽に向かい合う必要があるのではないかと、投げかけられました。
最後に末永先生のブラームスの幻想小曲集op.116を3つの違う音色のピアノでの演奏とともに、
このセミナーは締めくくられました。
(Rep:ユーロピアノ(株)白川ひかり)