【実施レポ】安田裕子先生 ギロック講座

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2013/08/01
  
安田裕子先生
安田裕子先生 ギロック講座 文・山本美芽

日程:7月8日
会場:スガナミ楽器町田店

●ギロックの素顔とは?

 日本で出ているギロックの楽譜のほとんどの翻訳を手がけ、生前のギロックとも親交があり、現在はカナダのモントリオール在住の安田裕子先生。毎年、日本に戻って全国でセミナーを行っています。

「ギロックは、グリーグの『春に寄す』までは楽譜を読まずに耳で覚えてピアノを弾いていました。フィーリングを大事にしていたんです。大学も美術専攻でした。大学になってライト先生について作曲の勉強をしますが、楽譜の読み方はその頃になって始めてきちんと習ったそうです。作曲家養成のエリートコースとは違うところで勉強をして、本当に音楽が好きでピアノが好きな人でした。生徒を教え始めてからも『もっと自分には勉強が必要だ』と気づいて、5年ほど作曲を休んで勉強に専念していた時期があります。ギロックは体はあまり丈夫でなく病気がちで、自転車に乗れませんでした。私が自転車に乗ってどこへでもいくことを話すと、ギロックに『いいなあ』といわれたことがあります」(安田先生)

 ギロックはそれぞれの調についてくっきりと違うそれぞれのイメージを持っていたそうです。彼はアメリカの南部、雪は年に一度しか降らないような場所に住んでいましたが、「雪すべり」「雪の日のソリのベル」など雪を標題にした曲を書いています。「雪についての曲はシャープひとつの調が多いですね」というお話から、ニューオーリンズではジャズのカルテットを組んでジャズピアノを弾いていた時期もあったと安田先生は話されました。

ギロックベスト
資料提供:全音楽譜出版社
●「ギロック・ベスト」について

 ギロックの導入教材といえば、「はじめてのギロック」「こどものためのアルバム」が有名ですが、この日のセミナーのテキストは「ギロック ベスト」全4巻です。「はじめてのギロック」「こどものためのギロック」では難易度がいろいろなものが混ざっていたのを、使いやすいようにレベルを1冊ごとにそろえ、ギロックから影響を受けた作曲家、マーサ・ミアーやキャロリン・ミラーたちの作品も含めて編集されています。この日は「ギロック・ベスト」をテキストにお話が進みました。
「ギロック・ベスト レベル1」は5本指のポジションで弾けるようになったら使えるテキストです。
『さあワルツをおどろう』を例に、右手と左手を同時に弾くことがなく、いつも弾く音はひとつになるように工夫されている点についてお話がありました。数少ない音に耳を傾ける練習に良いわけです。そしてワルツらしく、2拍目・3拍目の刻みは軽やかに。安田先生が実際に「良い例」「悪い例」を演奏してくださるので、大変わかりやすいです。安田先生はこの曲に限らず、ギロックを弾くときには「ダンスビートを大事に」と強調していました。ワルツやメヌエット、スイングやブルースなど、踊りの曲のリズムを以下に感じるかが、演奏を生き生きとしたものにできるかどうかを左右します。

「レベル2」になると、右手はあちこちにポジションが動きますが、左手は同じような音域にとどまっています。この本では『アルゼンチン』、『ウインナーワルツ』(オーストリア)、『ブギ時計』(アメリカ)『フラメンコ』(スペイン)、『リオのカーニバル』(ブラジル)など、音楽で世界旅行をすることができます。 「音楽にはダンスビートが必要です」とお話される安田先生。ブルースのフィーリングを出した左手のコードの押さえ方など、実際の演奏を聴きながら世界の民族色をとりいれたギロックの作品を特色をつかむことができました。
「レベル3」になると、右手と左手、両方が動くようになります。音楽面では、バロック・古典・ロマン・近現代、そしてジャズの音楽スタイルを味わえます。

 「レベル4」になると、ひとつの手でメロディと伴奏を弾くようになります。名曲への道しるべです。ギロックはショパンやラフマニノフ、ガーシュウィンからも影響を受けていて、ギロックを弾くことで彼らのスタイルを準備できます。安田先生は、大好きだという『ワルツ・エチュード』を最後に演奏されました。さまざまなタッチを繊細に使い分け、軽やかなリズムにのって、雰囲気のある素敵な演奏でした。

●楽しみながら勉強になるギロックの曲

 ギロックの作品はたくさんのコンクールで課題曲に選ばれています。その理由について安田先生は「ダンスビートを勉強できること。いろいろな調性、コードを学べること。形式が明確であること。曲の途中にカデンツが何度も出てきて、それを聴かせることができること」などお話されました。

 ギロック自身、「コンクールで1位になるために音楽をしているのではない。音楽を通じて(自分を表現し)他の人とコミュニケーションをする、そのために音楽をしているのだよ」といつも話していたそうです。コンクールの課題曲になろうなんてまったく思っていなかったギロックの作った曲が、いまや楽しみながら勉強できる優れた曲であるために、コンクールでは欠かせない曲になっているのです。

 安田先生は「私はピアニストじゃないから、講座で演奏しないで別の方に演奏をお願いしていた時期もあったんです。でも、去年から自分で弾くようにしたのです。やっぱり音で気持ちを分かち合いたいから」とお話されていました。
 安田先生の演奏には、曲によって特徴的なフィーリングが、違う引き出しを開けていくかのように、個性豊かに表現されていました。レクチャーとあわせて聴くことで、ギロックを実際にどんなふうに弾いたらいいのかイメージが次々に湧いてくる、そんなセミナーでした。

安田裕子先生
安田 裕子

大阪音楽大学ピアノ専攻卒業後、大阪の清風会茨木病院で10年間音楽療法を勉強し、生活の中に活かされている音楽の大切さを学ぶ。W.ギロックの作品に出会い感動して渡米、ギロックを訪ね音楽とは何かを学ぶ。ギロックの音楽孝を分かち合うため、日本ギロック協会を発足し世界の仲間と交流しギロック音楽の普及と研究につとめる。全音楽譜出版社より楽譜の出版とともに、ギロック関係のCD、ミュージックデーター等を数多く監修している。現在、ケベック州モントリオールに在住し、ウエストマウント・ピアノスタジオでピアノ教師を務める。日本ギロック協会会長、ケベック州音楽教師連盟の季刊誌「ミュジファックス」にコラム連載中。
日本ギロック協会:http://park14.wakwak.com/~gillock.japan/

山本美芽

音楽・ノンフィクションライター、ピアノ教本研究家。東京学芸大学大学院教育学研究科音楽教育専攻修了。音楽誌「ムジカノーヴァ」(音楽之友社)にて書評ページをレギュラー執筆。最新刊は「自分の音、聴いてる? 発想を変えるピアノ・レッスン」(春秋社)。無料メールマガジン「音楽センスを伸ばしたい!」を配信中。
http://homepage1.nifty.com/mimetty

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