メロディア相模原ステーション(代表:田中知子先生)主催の『ピティナコンペ課題曲説明会』が、杜のホールはしもと多目的室(神奈川県相模原市)にて行われました。
これまでに数多くのピアニストを育て、ピティナのコンペでも、門下から多くの生徒を全国大会に出場させている多喜先生。しかしコンクールに対しては、「力をつけるために活用する」という姿勢で一貫しており、客観的で冷静なお話がありました。
まず、ピティナは4期を学べるコンクールだけれど、4期とは何なのか考えてみてください、という投げかけがありました。そして、コンクールには功罪の両面がある、というお話。「いいところは、指導者にも生徒にも勉強になるところです。受けなくても、予選を聴きに行くだけでも、CDをまねした演奏や、すばらしいレッスンを受けていると思われる演奏、その反対など、多様な演奏が聴けて、ものすごく勉強になる。講評を書きながら聴くのも勉強になります」
コンクールの難しいところは「落ちたときのフォローが必要なこと、そして良い結果が出たら、必要以上に喜びすぎてしまうこと」
なぜ、良い結果でも安心するのはよくないのでしょうか。そこで知っておきたいコンクールの点数マジックとして、過去のコンクールの審査員が実際につけた点数がレジュメで配られました。
これは結果特集号で、実名入りで載っているものです。多くの審査員が最高点をつけた人が2位。1位の人は、多くの審査員から高得点をもらったので、足し算の結果1位でしたが、最高点をつけた審査員はひとりだけ。「なぜあの人が1位なの?」と疑問をもつ人もいるでしょう。
「これで点数が公表されていなかったら、相当後味が悪いものですが、そこで点数を公表しているという点でピティナのコンクールは透明性が高い」というお話でした。
結局、平均点の高いタイプが残り、好き嫌いの分かれるタイプは残りにくい。これがピティナのコンペに限らず、コンクールの構造的な問題となっているわけです。
「結局、点数で評価するのは難しく、音楽そのものを反映しづらいということなのです。こうした部分は運もあるので、参加費はかかってしまいますが、コンペの予選は2回受けることをおすすめします」と、多喜先生。
また、弾いたときの音量について。「音量は大きいほうが確かに聴きばえがしますし、その場では結果も出やすくなるでしょう。しかし、むりな弾き方による手の故障の危険が将来起きる危険性が高まります。生徒の将来を考えると、いまコンクールでの結果を求めるあまり無理な弾きかたをすることは避ける、これは指導者の責任といえるでしょう」
気になる課題曲の選び方については、4期のスタイルを弾き分けると考えたときに「同じ調で同じ拍子のものを2曲続けると、時代の違いを表現するのが難しくなるので、違う調性、違うリズムの曲を組み合わせる」という考え方が紹介されました。
また、ペダルをあげるときに「ガチャン」とうるさい音をたてる人をよくみかけます。「いかに弾いたあとの音や全体の響きを聴いていないか、そこにあらわれています」という指摘もありました。ペダルのあげ方は、指導者、学習者どちらにとっても課題となっているようです。
セミナー中盤から、ソロの課題曲は多喜先生、連弾は多喜先生と松本あすか先生のふたりで、ピックアップしてアドバイスしながら、課題曲が演奏されました。そこで重要なアドバイスがありました。「課題曲CDをいきなり聞いてマネするのではなく、まずは自分で楽譜を音にしてみましょう。そうすると、実際に楽譜を読みながら音を出してみて、何これ、間違いじゃないの、と思いながら読む経験ができるます。私はこれから練習しようと思う曲のCDは敢えて聴かないようにしています」とのこと。
その具体例としては、A2級の課題曲、カバレフスキーの「光と陰」では、おわりのところにちょっと変わった音が出てくるので、自分で読んで「あれっ?」と思う、そんな経験ができる曲です。その他の課題曲については、先生がいつも繰り返し説いている「拍子感」そして「バランス」についての観点を中心に、アドバイスがありました。
課題曲セミナーというと「傾向と対策」「必勝法」といったイメージが浮かぶかもしれませんが、この日のセミナーは音楽の本質に迫る、そこに向かってひとつひとつ進んで行くという姿勢を学ぶ機会となりました。
どれだけ音楽的な演奏ができるか。それも誰かに勝つためでなく、自分が納得いくために、音楽的な演奏をしたいと思えたら...。結果がどうなろうと、「参加者の成長」という形での結果は残せたといえるのではないでしょうか。
そして「コンペに生徒を出さない指導者も、課題曲の楽譜は買い求めて、予選を聴く、それが自分の勉強になります」という話が心に残りました。
参加者にとって、素晴らしい勉強の場となるコンクール。そして、参加しない指導者や学習者も、興味を持って見守ることで、勉強にもなる。より多くの人が、そんなふうにコンクールという機会を利用できたら、より面白くなりそうだと感じました。
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