【実施レポ】多喜靖美先生課題曲セミナー

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2013/03/15
多喜靖美先生課題曲セミナー
文・山本美芽

メロディア相模原ステーション(代表:田中知子先生)主催の『ピティナコンペ課題曲説明会』が、杜のホールはしもと多目的室(神奈川県相模原市)にて行われました。

 これまでに数多くのピアニストを育て、ピティナのコンペでも、門下から多くの生徒を全国大会に出場させている多喜先生。しかしコンクールに対しては、「力をつけるために活用する」という姿勢で一貫しており、客観的で冷静なお話がありました。

●コンクールの功罪

 まず、ピティナは4期を学べるコンクールだけれど、4期とは何なのか考えてみてください、という投げかけがありました。そして、コンクールには功罪の両面がある、というお話。「いいところは、指導者にも生徒にも勉強になるところです。受けなくても、予選を聴きに行くだけでも、CDをまねした演奏や、すばらしいレッスンを受けていると思われる演奏、その反対など、多様な演奏が聴けて、ものすごく勉強になる。講評を書きながら聴くのも勉強になります」
 
 コンクールの難しいところは「落ちたときのフォローが必要なこと、そして良い結果が出たら、必要以上に喜びすぎてしまうこと」

 なぜ、良い結果でも安心するのはよくないのでしょうか。そこで知っておきたいコンクールの点数マジックとして、過去のコンクールの審査員が実際につけた点数がレジュメで配られました。

 これは結果特集号で、実名入りで載っているものです。多くの審査員が最高点をつけた人が2位。1位の人は、多くの審査員から高得点をもらったので、足し算の結果1位でしたが、最高点をつけた審査員はひとりだけ。「なぜあの人が1位なの?」と疑問をもつ人もいるでしょう。

「これで点数が公表されていなかったら、相当後味が悪いものですが、そこで点数を公表しているという点でピティナのコンクールは透明性が高い」というお話でした。

結局、平均点の高いタイプが残り、好き嫌いの分かれるタイプは残りにくい。これがピティナのコンペに限らず、コンクールの構造的な問題となっているわけです。

「結局、点数で評価するのは難しく、音楽そのものを反映しづらいということなのです。こうした部分は運もあるので、参加費はかかってしまいますが、コンペの予選は2回受けることをおすすめします」と、多喜先生。

 また、弾いたときの音量について。「音量は大きいほうが確かに聴きばえがしますし、その場では結果も出やすくなるでしょう。しかし、むりな弾き方による手の故障の危険が将来起きる危険性が高まります。生徒の将来を考えると、いまコンクールでの結果を求めるあまり無理な弾きかたをすることは避ける、これは指導者の責任といえるでしょう」

●曲への取り組み方

 気になる課題曲の選び方については、4期のスタイルを弾き分けると考えたときに「同じ調で同じ拍子のものを2曲続けると、時代の違いを表現するのが難しくなるので、違う調性、違うリズムの曲を組み合わせる」という考え方が紹介されました。

 また、ペダルをあげるときに「ガチャン」とうるさい音をたてる人をよくみかけます。「いかに弾いたあとの音や全体の響きを聴いていないか、そこにあらわれています」という指摘もありました。ペダルのあげ方は、指導者、学習者どちらにとっても課題となっているようです。

 セミナー中盤から、ソロの課題曲は多喜先生、連弾は多喜先生と松本あすか先生のふたりで、ピックアップしてアドバイスしながら、課題曲が演奏されました。そこで重要なアドバイスがありました。「課題曲CDをいきなり聞いてマネするのではなく、まずは自分で楽譜を音にしてみましょう。そうすると、実際に楽譜を読みながら音を出してみて、何これ、間違いじゃないの、と思いながら読む経験ができるます。私はこれから練習しようと思う曲のCDは敢えて聴かないようにしています」とのこと。

 その具体例としては、A2級の課題曲、カバレフスキーの「光と陰」では、おわりのところにちょっと変わった音が出てくるので、自分で読んで「あれっ?」と思う、そんな経験ができる曲です。その他の課題曲については、先生がいつも繰り返し説いている「拍子感」そして「バランス」についての観点を中心に、アドバイスがありました。

●音楽的、人間的成長がいちばん大事

 課題曲セミナーというと「傾向と対策」「必勝法」といったイメージが浮かぶかもしれませんが、この日のセミナーは音楽の本質に迫る、そこに向かってひとつひとつ進んで行くという姿勢を学ぶ機会となりました。

 どれだけ音楽的な演奏ができるか。それも誰かに勝つためでなく、自分が納得いくために、音楽的な演奏をしたいと思えたら...。結果がどうなろうと、「参加者の成長」という形での結果は残せたといえるのではないでしょうか。

 そして「コンペに生徒を出さない指導者も、課題曲の楽譜は買い求めて、予選を聴く、それが自分の勉強になります」という話が心に残りました。

 参加者にとって、素晴らしい勉強の場となるコンクール。そして、参加しない指導者や学習者も、興味を持って見守ることで、勉強にもなる。より多くの人が、そんなふうにコンクールという機会を利用できたら、より面白くなりそうだと感じました。

多喜 靖美
桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ専攻卒業。卒業後、ドイツ、オーストリアで研 鑽を積む。室内楽、ソロ演奏、トークコンサートなど多方面で活躍中。チェコのマルティヌー弦楽四重奏団、ポーランドのワルシャワ・フィル=コンサートマス ター、スロヴァキアのドヴォルザーク弦楽四重奏団、チェコ・フィルハーモニー六重奏団、ウィーンフィルメンバーなど国内外の著名奏者と共演。また、門下生 から数多くのピアニストや国内外のコンクール入賞者を輩出し、後進育成の面でも高い評価を受けている。1993年ドイツ・ザクセン地方独日協会、1994 年イギリス・イートンカレッジ、1995年イギリス・ウィットギフトスクール、2003年ドイツ・ユーゲントムジツィアットより招聘を受け生徒と共に渡欧 し各地でコンサートを行う。2009年、ワシントンDCで開かれた『ワシントン国際ピアノフェスティバル』講師に招聘される。大和日英基金、日本クラシッ ク音楽協会優秀指導者賞、(社)全日本ピアノ指導者協会指導者賞、トヨタ指導者賞、特別指導者賞等を受賞。ピアノ学習者のための室内楽導入書『しつないが く・はじめの一歩』(東音企画/全5巻)を出版。また、2004年より、親しみやすい形で音楽を紹介するコンサート『多喜靖美・音楽の宝箱』を各地で展 開。現在、演奏活動、個人レッスンの他、各種コンクールの審査、マスタークラス講師、演奏法・指導法講座や室内楽研修会講師を各地で行っている。ミュー ジック・スタジオC特別顧問、 (社)日本演奏連盟会員、一般社団法人全日本ピアノ指導者協会評議員、同協会指導者検定委員会オプション企画グループチーフ、メディア委員会委員、ジャスミン KOMAEステーション代表、プレビューアカデミー講師、昭和音楽大学、同短期大学非常勤講師。
◆ホームページ http://jasmin-ongakunotakarabako.com/
山本美芽
やまもとみめ◎音楽・ノンフィクションライター、ピアノ教本研究家。東京学芸大学卒業及び同大学院修了。著書に「りんごは赤じゃない」「21世紀へのチェルニー」など。音楽誌「ムジカノーヴァ」にて書評ページ担当。最新刊は「自分の音、聴いてる? 発想を変えるピアノ・レッスン」(春秋社)。最後の章では、多喜靖美先生との個人レッスンや、室内楽トリオクラスの様子についても、自ら体験取材して執筆している。
http://homepage1.nifty.com/mimetty
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