10月3日(月)、渡部 由記子先生の「やる気を引き出す
"魔法のレッスン"3回シリーズ」の第2回「バスティン
プリマーAの指導法」講座を日比谷スタインウェイサロンに
て、開催いたしました。
当日は愛知県、福島県など、遠方からお越しくださった方
も多く、参加者の方々の熱気が伝わる内容の濃い講座と
なりました。
最初に、先生のお考えになる「ピアノ教育に対する基本理念」のお話です。
ピアノ教育において重要なことのひとつに「心づくり」が挙げられます。これはもちろん「子供の心」を育てることなのですが、まず大切なのは、親・指導者の「心がまえ」。
1.子供を「どうせこの程度・・」と決めつけない
2.できたことをしっかりほめる
3.目標をきちんと示す
私達大人は、こういったことができているでしょうか。
自立への一歩である困難を乗り越えられる力、乗り越えようとする子供の心は、育てようと
しなければ育ちません。育てるのは親の役目、そして目標を明確に示し、そのときどきに
必要なこと、やらなければならないことを伝えるのが指導者の役目です。
親や指導者の接し方ひとつで、子供が変わるという実例もたくさん聞かせていただきました。
その後、いよいよ本題の「幼児のためのベーシックス プリマーA」に移ります。
お馴染みの「バスティン」ですが、皆さん、どのように使っていらっしゃるでしょうか。
今回の先生のお話で、このような使い方があったのか、と新鮮な驚きがいくつもありました。
始めに、プリマーAピアノの4ページ「すわりかた」「てのかたち」5ページ「ゆびのばんごう」に
ついて。先生はこの2ページを、大変きめ細やかに説明してくださいました。
この部分はピアノを弾く前の段階ですが、先生は多くの時間を割いて指導する、とおっしゃいます。
どんなことでも、間違って覚えると直すのに3倍の時間がかかります。
ということは最初が肝心。きちんとした姿勢と手の形を指導することは、ピアノに必要な
「脱力の指導へもつながり、決しておろそかにはできないそうです。
脱力に関しては、できているかどうかをチェックするさまざまな方法も併せて教えてくださいました。
・自然に歩いているときの手
・バスケットのドリブルの手の動き
・ヨーヨーで遊ぶ時の動き
・両手たたき・ひざたたき、などなど・・・
どれも脱力しているかどうかを簡単に意識することができます。
また、手の形については、指先の角度・指の関節の出し方・鍵盤に置く位置と確認方法・
体重移動の方法について、さまざまな道具を使って説明されました。
その後、「ひだりてとみぎて」「こっけん」「はっけん」「はじめてのおんぷ」と続きます。
これらは、きちんと理解できるまで、ページをコピーし、何回もやらせます。
そしてすべてが確実に定着するまで、次のステップには進みません。しかも、この時点で
左右別・指番号・音が完璧に理解できていても、曲を弾くのはまだまだ先です。
最初に音を出すときは、1音のみ。まず、3の指から鍵盤との位置・指の角度を確認しながら、
ていねいに弾いていきます。3が終わったら2、4・・・とこれも1本ずつ弾きます。
このとき、手に指圧のように押したり、秤やスポンジを使用して、左右や指の違いで、
その強さが違うことを認識させる工夫をします。
1音ずつが終わると、2音・3音・4音・5音のすべての指の組み合わせのレガートの弾き方、
3度の弾き方、同音レガートの弾き方などを行います。
そしてこれらすべてができてから、初めて、教本の曲に入ります。
教本はすべての曲を弾くのではなく、先生が必要と思われる厳選した16曲(全54曲中)のみ、
練習します。
曲の練習は、必ずメトロノームを使用し、音名を歌いながら弾きます。最初から最後まで通し
ては弾かず、同じ音型毎に1小節ずつ練習し、できたものをつないでいく、という部分練習が
中心です。数小節の子供向けの曲ですが、すべての音を美しく弾くために「少しの範囲を
確実に」「正しい形だけ脳にインプットさせる」という練習を促します。
ひとつの無駄もなく、ひとつの取りこぼしもない。シンプルに必要なものだけを根気よく徹底的に
指導する・・・先生の指導法は、家を支える大黒柱のように、絶対にゆるがない大切なものの
ようです。成長していく子供たちを、変わらずにずっと支え続けるだろうと確信が持てる内容でした。
小さい子にこんなことはわからない、とか、小さいからまだここまでしなくてもいい、ということは、
それこそが大人の「決めつけ」だとも感じました。何色にも染まっていない子供は、「難しい」と
いうことすら知りません。労を惜しまず、噛み砕いてきちんと教えれば、正しい事だけを吸収する
力があるのではないか・・と感じた講座でした。
(Rep:ピティナ日比谷ゆめステーション 中前浩子)