【インタビュー】第15回:江崎光世先生 「体験型」教育で目指す、総合音楽学習

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2006/11/17

esaki_mitsuyo.jpgピティナ・ピアノコンペティション課題曲選定委員長、そして全国各地のセミナーや公開レッスンの講師として多忙な日々を送る一方で、アンサンブル指導の普及にも長年、積極的に取り組んでおられる江崎光世先生。そんな先生が、46年の指導歴を経てたどりついた、「体験型」教育とは?セミナーの分野も基礎指導からアンサンブル、ブルグミュラーと多岐にわたる江崎先生の、指導者としての素顔に迫ります!

基礎指導は数ある講座のテーマの中でも最も感心の高い分野ですが、先生は今の「基礎教育」についてどう思われますか?

「着実な基礎力は、レベルが上がったときに結果としてみえてくるものです。今の子供を見ていると、基礎をきちんと積み重ねていない子が多いな、と思います。指導者自身、楽譜を読んだりする力が弱い為に、生徒の基礎ソルフェージュ能力が足りないんですね。

ここで言うソルフェージュとは、聴音が正確に出来るとか、アナリーゼに長けているなど、単一的なことではなく、あくまで演奏に結びつくための基礎ソルフェージュ能力のことです。最近の子供は、ピアノの他に部活や勉強などで忙しいので、どうしても練習時間を合理化する必要性がでてきます。そうすると、練習の段階で、楽譜の大体5割ぐらいまではパッと読める必要がある。一見難しく思えますが、楽譜を読む時に伴奏をコードネームで見るようにしたり、旋律線の形をパターンに分けたりする訓練をしておくと、意外と練習する場所が節約できて、普通に通しで弾いた時の3分の2ぐらいにはなります。そういった、練習の合理化のための基礎ソルフェージュ能力をしっかり作っておくと同時に、表現力に結びつく力が基礎教育の上でとても大事です。

『基礎』の指導というと、私たちはよく、『このぐらいの年齢にならないとわからないのでは?』と思って、大切なことを教えるのを後々まで伸ばしてしまいますよね。私も昔はそうでした。でも、長年の経験から、スケールや和音の種類、和音進行やフレーズ構成など、音楽表現に不可欠な要素は、一番初めの段階から小出しにして教えてしまった方が良い、ということがわかりました。一旦教えてみて、まだわからないかな、と思ったら、また半年置いてからもう一度やってみればいいんです。何もわからない初めの段階から、いろいろとインプットしてしまう方法が実は吸収が早いことも発見しました。

音階にしても、私は初めからハ長調、C major、C durと全部の呼び名を教えます。コードネームも、『ドミソ』『C』『トニック』と全て一度に覚えさせても、何回か弾いているうちに頭に入ってしまうんですよ。だから、ツェルニーの40番も50番も、大体みんなコードネームをつけて、アナリーゼをさせてしまいます。同じことを何回も繰り返し、定着させたいのです。もちろん最終的に身につくのは、3割、よくて5割なんですが、それでも初めから全部やってしまえば、後で必要な時にまた取り出せば良い。つまり、子供の能力が伸びる時にその能力を引っ張り出しておく適期教育法、それが基礎指導だと思っています。」

小さい頃にあらかじめ能力を育てておくということですね。ところで、先生はソロピアノの指導だけにはとどまらず、ほとんどの生徒さんにアンサンブルやコンチェルトの機会を作ってあげるそうですね。

「はい。そうやって、とにかく色々な体験の場を与えてあげることが、ピアノを長続きさせる一番のコツではないでしょうか。

指導者はまず、子供達にピアノに興味をもたせて、続けていかせるノウハウを学ばねばなりません。ピアノでずっと同じような練習をさせていても、子供は絶対に違う刺激が欲しくなります。そんな時、例えばアンサンブルで弦や管楽器と共演したり、オペラの伴奏をしたり、打楽器を叩いてみたりすることで、まず4、5年はピアノの継続年数を延ばすことは可能だと思いますよ。うちの生徒達も、『あなたの今の段階だと、共演のヴァイオリンはお気の毒ね』と言うと、『もうちょっと頑張る!』と張り切ります。共演者がいるということで、本人達にも、それなりに自分の演奏に対しての責任感が芽生えてきますしね。

そうして色々な体験の場を与えてあげることで、体感したことが体の中にインプットされて、後から『あの時の感じ』とイメージしやすくなるわけです。やったことがないことをイメージすることは出来ないので、経験の積み重ねというのは本当に尊いことだと思います。今の時代、その機会を与えてあげられる環境に恵まれていますから、大いに活用したいものです。 

音楽以外でもそうですよね。私は生徒が部活をやりたいと言ったら、ピアノの練習を少しぐらい削っても構わないからやりなさい、と言います。先日も、新体操を習っている中学3年生の生徒にバッハのインベンションを教える時に、『例えばこのクレッシェンドに振りをつけるとしたらどうする?』と聞いてみました。すると、『ボールだったら上げてジャンプするか、テンポアップする』と言うわけです。『そう!じゃぁこのフレーズ、そうやってみてご覧!』と言うと、レッスンでの説明が簡単になるんです。要するに、色々なところで新体操の体験と音楽が結びついていくわけです。


総合音楽学習の表参照

そして、こういった体験型教育で私が目指しているのは、イメージ感・フレーズ感などの様々な音楽的感性や、根気や考える能力、理論力などの育成...いわゆる総合音楽学習なのです。」

そう考えると、ピアノ指導者は、すごくマネージメント能力が必要な職業ですよね。

「そうかもしれませんね。だから、生徒一人一人の性質や状態を見極めた上で、今その子にどういった体験が足りなくて、必要かを考えながら、それに応じた体験の場をコーディネートしてあげなければいけません。そうう機会を作ってあげたり、それを後ろから黙って応援してあげるのが、私たちの仕事ではないでしょうか。

私がいつも思うのは、『自分と同じタイプの生徒が来てくれるわけではない』ということ。だから、私たちは出来るだけ間口を広げて、どんな生徒でも受け入れられるような準備をしておくことも大切ですね。例えば、ピアノを弾く時に指はあまり動かないけれど、聴音は抜群で、ソルフェージュの時間になると見違える子がいるんですよ。で、その時間だけは、嬉々としてやっている。あるいは、連弾の時だけは生き生きと弾いている子もいます。だから、それぞれの子に適した音楽の場を与えてあげたいと思いますし、それを見抜く目を持って、スポットをあててあげることが私たちの役目だと思っています。」

ありがとうございました!

取材に行く前から江崎先生は「とにかくすごい」「素晴らしい」指導者だ、とお聞きしていて、「偉い人」のイメージがあったため、かなり緊張していました。ところが、実際に先生宅にお伺いしてみると、拍子抜けするぐらい手厚いおもてなしと歓迎を受けてしまい、その温かいお人柄に感動!生徒さんのことをお話されている時も、まるで一人一人の「お母さん」のような顔をされていて、こういう方だからこそ、「総合音楽学習」を実現出来るのだな、と納得してしまいました。

⇒江崎先生のプロフィールはこちら
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